正直自分が酔ってる自覚はあった。少し熱いのと頭が良く働いてないであろう事は鏡を見ずとも判る。目の前の浬音は俯いたまま言葉を詰まらせていた。浬音は浬音で、鳴兎は鳴兎でしらばっくれていたがこの一週間だけでも二人が近付いてるのは雰囲気で丸判りだった。出会った頃に比べれば見違える程元気に、そして綺麗になった。毎日怯えて苦しんでいるよりは無論今の方が良いだろう。だけど、髪は勿論ドレスや靴やネクタイに到るまで鳴兎一色では流石に苛立ちを覚える。
「このリボンタイ解いて良い?」
「えっ?!だ…駄目ですよ!!」
リボンタイを押さえた両手をそのまま固定する様に片手で掴んだ。浬音は真っ赤な顔で手を振り解こうとしてるが、子供が暴れてるみたいな弱い力だった。あ、マズイな、このままだととんでもない事しそうだ。泣きそうな事とか、確実に嫌われる様な事とか…。
「そう言えば何でキス拒むんだ?」
「へっ?!」
浬音は益々赤くなって両手で顔を隠そうとした。酒のせいだろうか、やけに頭と顔が熱いし、動悸が激しい。
「密さ…酔い過ぎです…!放して下さい!」
「…鳴兎なら良いの?」
「…っ!め…鳴兎は…っ!」
「へぇ、そんな顔見せてるんだ?」
赤くなった顔、熱を帯びて潤んだ瞳、微かに震える手、こんな姿今まで見た事無い。鳴兎が原因だと思うと無性に腹が立って来た。気が付くと両手を掴んだまま浬音を試着室に押し倒していた。浬音は目をまん丸にして驚いてる。起き上がろうとする腕はそのまま押さえた。自分の手なんだけど何か実感が無い。一歩後ろから見ている様な気がする。
「密さん?!」
「狡いな…鳴兎にだけ見せるなよ…。」
「や…!…っ?!」
酒のせいだろうか、泣かせる事も嫌がる事もしないって決めてたのに、ましてや無理強いなんて。何だこれ?嫉妬?独占欲?征服欲?それかやっぱり酒のせい?そうかも知れないな、こんな所で押し倒して、押さえ付けて、無理矢理キスして、一度じゃ足りなくて何度も何度も何度も…。
「んぐ…!げほっ!…にが…!」
「ああ、ごめん、酒残ってた?」
「やめ…っ!」
「良い顔…すっごく苛めたくなる…羨ましいな、鳴兎が。」
「…鳴兎はこんな事…!」
「しないんだ?」
「ん…っ!や…ぅ…!」
奪う度に腕に少し押し退けようとする些細な抵抗を感じながら、気付けば浬音が流してた涙を時々拭いながら、それでも自分が止められなかった。ネクタイ一本に嫉妬する程。
「…っ!返して…!」
「嫌。」
「もう止め…っ!…ぅ…っ!…や…!鳴兎っ…!」
目の前に一瞬影が落ちたかと思うと、背中にかなり躊躇いの無い蹴りが入った。
「痛てて…ああ、おかえり、鳴兎。結構早かったんだな。」
DollsGame-104.スカビオサ-
え?ああ、酒のせいだよ、酒の。
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