啓輔さんを始めとする【TABOO】の部隊が離れたのを見計らったかの様に、【MEM】と思われるBSがこの施設付近で発見された。連絡があってから数分、捕獲班が忙しなく動いている。

「菖蒲さん、ですね。私は捕獲班班長の安曇野です。羽鉦様より貴方の指示を仰ぐ
 様にと通達が降りています。」
「判りました。」
「班長!あ…あの…!」
「どうした?!」

班員がこちらと廊下の奥とを交互に見遣ってから何やら合図をした。暴れる様な音とと共に2人の班員が抱えて来たのは10歳位の子供だった。

「子供…?迷子じゃないよなぁ?」
「…は…の…に…。」
「何だって?」
「…全ては奇跡の名の下に…。」

全身が総毛だった。おそらく周りの班員も同じだっただろう。こんな子供に迄霊薬を?こんな子供を…戦わせたのか?

「研究班を…!その子を連れて行って下さい!」
「は、はい!」
「安曇野さん…班員を集めて下さい。」

許せなかった。ただ許せなかった。自分が心優しい人間だと思った事は無い、誰かを守るなんて今でもおこがましいと思っている。だけど、あの子を見た時何かが頭の中で音を立てて切れた。もしかしたらこの中にリヌが居たかも知れないと思うと気が狂いそうだ。

「そ、それは…菖蒲さんよ!幾らなんでも危険過ぎる!」
「構いません、それにこれは私の翼があるからこそ可能な戦法です。」
「けどよぉ…。」
「俺は賛成、それにこの方法なら怪我人は出ても死人は出ない、そうだろ?兄さん。」
「敵に温情を掛けるのですか?子供とは言え新薬を使ったBSは危険です。」
「…相手は子供ですが敵です。だけど敵でも子供です。情けを掛けるつもりは
 ありませんが、非情になり切る必要もありません。」

班員は走り書きの後が残る地図を見下ろし、数分時計の音だけが響いた。

「なぁ、菖蒲さん。あんたん所の大将は奏先生を連れて戻って来てくれるのかい?」
「え…?」
「我々は殆どが処分寸前であの先生に拾われたBSの集まりです。皆幾ら感謝しても
 し切れない恩があります。」
「私もです。」
「俺もだ。」

それは不思議な感覚だった。こちらをみる真剣な目は【TABOO】の皆と同じだった。死の直前で拾われた命、絶望の底で差し伸べられた手、否定されたのに自分を必要だと言ってくれた。どれだけ嬉しかったか、どれだけ救われたか、その思いは私と同じ。多分彼等も…。

「騎士さんは必ず啓輔さんが連れて戻って来ます。私は信じて送り出し、啓輔さんも
 私を信じて助けに行きました。だから必ず帰って来ます。私の役目は此処を、
 彼等の帰る場所を、彼等を出迎える人を全て守る事。」
「出迎える人?」
「私は全てを守ります。私自身も、この場所も、彼女も、仲間も、貴方達も、
 戦わされている子供達も誰一人として死なせません。」
「…兄ちゃん…。」
「よし、判った、あんたの策に乗ろう。全員配置に付け!」
「はい!」

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BeastSyndrome -101.我が身盾とならん-

目の前の命は ただ限りなく愛おしく

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投稿日:2010/07/08 01:59:36

文字数:1,224文字

カテゴリ:小説

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