はりきって、商品を売っていたリンちゃん。

ごったがえしていたブースの前も、やや落ち着いてきた。

その様子を見ていて、ルカさんは、れおんさんに言った。
「ねえ、そろそろ、開放してあげたら?リンちゃん」

れおんさんは、うなずいた。
「ソウデスネー。ボクもちょうど、そう思ってマシタ」
そして、おおげさに言った。
「ソレにしても、このフィギュア、きっと大ヒットしますネ。テトさんの新製品にも、キット勝ちますヨー」

彼はブースの売り場にいくと、リンちゃんに近づいて、そっと耳打ちした。
「アリガトウ、手伝ってくれて。モウ、疲れたでしょ?」

リンちゃんは、にっこりうなずいた。そして、お客が途切れた時に、そっと売り場を離れた。
周りにまだ少し残っている、彼女のファンに向かって、軽く敬礼のようなポーズをする。

「今日はありがと。またネ」
「あ、リンちゃん。帰るの?」「おつかれさまー」「またねー」

おっかけ君たちは、手にした「リンリン・はっちゅーね」を掲げたりして、手を振る。


●お疲れさま、ゴメンね

ブースをレオンさんに任せて、ルカさんはリンちゃんに寄り添った。
「お疲れさま、ゴメンなさいね。れおんさんが、あなたに売り子なんかさせちゃって、ホントに」
「あ、いえ。ぜんぜん平気です」

笑うながら言うリンちゃんだったが、どこかちょっと疲れたようにも見えた。

「途中まで送るわ。こっちの道、すいてるから」
ルカさんは、リンちゃんを幕張メッセの「スタッフ・出展社用通路」の方に連れて行った。
「あ、どうもすいません」

2人は、メッセの建物の外に出た。夕方がまぢかの空は、水色に透きとおっている。
「ふぅ」
ホッとした表情で、リンちゃんはため息をついた。

ルカさんは、通りまで彼女に付き添って歩き、笑って言った。
「新しいフィギュア、とっても好評みたいね。さすがリンちゃん、これから楽しみだわ」

そう言って、ふと、彼女の立っている後ろの空を見上げた。

水色の空の低いところに、白い月が出ている。昼間なのに、月が。それも、満月だった。


●あれ?どうしたのかな?

「きょうは、どうも有難う!」
ルカさんの言葉に、リンちゃんは、笑ってぺこりとお辞儀をする。
「お疲れ様でしたー。有難うございましたー」

でも、なぜかその声は、何だか元気がなかった。しかも、ちょっと震えているような。

ルカさんは、あれ?と思った。
彼女、なんか具合でも悪いのかな?

それに…。ちょっと変な感じがした。空耳かな?
いま、リンちゃんの挨拶の少し後に、小さいこだまのように、他の声が聞こえたようだ。

「アリガトウ、ゴザイマシタ」(^∇^)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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玩具屋カイくんの販売日誌(234) アリガトウ、ゴザイマシタ

なんだか元気がないリンちゃん。どうしたのでしょう?

閲覧数:107

投稿日:2014/04/13 20:55:30

文字数:1,119文字

カテゴリ:小説

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  • enarin

    enarin

    ご意見・ご感想

    続きです~♪

    リンちゃん、お疲れ様でした♪ 私も交代有りですが、1日売り子をやった経験が数回ありましたが、あれは、やっているときは、接客している事もあって、元気が続くのですが、Offになったとたん、ぐっと疲れがやってくるのです。年齢関係なく。

    まぁ、始終元気になれる人は、Offでも全開ですけどね♪

    れおんさんも、ちと今回は、ついついやらせてしまったココロがあったようですね。

    ではでは~♪

    2015/01/08 11:35:55

    • tamaonion

      tamaonion

      enarinさん、感想を有難うございます!

      >Offになったとたん、ぐっと疲れがやってくるのです。年齢関係なく。
      まぁ、始終元気になれる人は、Offでも全開ですけどね♪

      それ、ありますね。
      でも不思議に人と接していると、テンションが上がる、というのは、あるみたいですね。人間って。

      でもまあ、こういう「接客を舞台」にしたお話を書いていながら、言うのもなんですけど、
      ○急ハンズとか、××百貨店とか、そういう売り場の人は、あんまり「物思い」に耽るタイプの人は、いないようです。
      大手の小売店は、とにかく日々、戦場ですよね。


      でも、個人の雑貨店とか、古書店とか、骨董屋とか。
      そんな売り場の人には、けっこう「おもしろい」人も見かけますね。

      また、ぜひ感想を聞かせてください!
      では、また。

      2015/01/25 21:17:12

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