微かなバラの香りと乾いた風が鼻をくすぐった。どの位時間が経ったんだろうか、それとも数秒だったんだろうか。

「羽鉦さん…く、苦しいです…!」
「え…あ…!」

我に返ったのか、羽鉦さんは勢い良く私を押し放した。かなり動揺しているのかこっちを見ようともせず視線が宙を泳いでる。何か可愛いかも?少し堪え切れなかった笑いが零れると羽鉦さんはばつ悪そうにこっちを見ながら呟く様に言った。

「…ごめん…。」
「急にびっくりしました。」
「や、その…嬉しかったんだ、スズミの言葉が。そんな事無いって、役立たず
 なんかじゃないって言ってくれて、凄く嬉しかった。」
「ん?羽鉦さん、名前。今ちゃんとスズミって。」
「そうだった?」
「そうですよ、いつもいつも『小鳥ちゃん』だったじゃないですか。」
「だって小鳥だろ。」

立ち上がった羽鉦さんは…またいつものニコニコ笑顔に戻っていた。さっきのって…ううん、嬉しかっただけだよね?本人だってそう言ってたし、そうだよ、甲子園出場決定!とかと同じノリだよね?感動した時のハグ!みたいな…。

「…が…きな理由…た気が…。」
「え?風で…羽鉦さん?今何て?」

羽鉦さんが何かを言っていたみたいだけど突風で声はかき消されてしまった。何て言ってたんだろう?まぁ、良いか。大事な事ならちゃんと言うだろうし…。

「風強くなって来たし戻ろうか?まぁ、俺は針のむしろかも知れないけど。」
「あ、ご、ごめんなさい…。」
「良いよ、もう。あ、ごめん、メール来ちゃった。先に行ってて。」
「はーい。」

私はざわざわとする風の音の中、少し足早に建物内へ戻った。背中に残された言葉も、思いも、私は知る由も無かった。

「…騎士がお前を好きな理由が少し判った気がするよ…スズミ。」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

BeastSyndrome -9.ここにも一人罪作り-

※次ページはネタバレ用の為今は見ない事をオススメします。

兄の事情を知りたい人は見ても良いかもしれません。

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投稿日:2010/05/23 23:45:32

文字数:748文字

カテゴリ:小説

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