メイコさんの部屋を出て、私はもっと広い部屋へつれていかれた。
どうやらお母さんの部屋らしい。
綺麗な花や、よくわからない絵画が飾ってある。

「座って。」

花の模様の高級そうなソファーに座った。
フカフカのソファーに一瞬心が弾んだけど、すぐ気持ちは切り替わってお母さんをジッと見つめた。
できることなら馬鹿みたいにソファーの上でふざけたかったのかもしれない。

「お母さん...。」
「...ぐみ、あなたがさっき聞いたとおり、私はこの国の姫よ。」
「そん、な。」

この後はどんな言葉を言えばいい?
もし自分のお母さんが別の世界の姫だ、と聞かされたら他の人はどうする?
そんな無駄な問いかけがグルグルと私の中を駆け巡る。

けどそんな私をよそにお母さんは話を続けた。

「ぐみと私は特別な血を受け継いでいる。人々は私達をブラッド・プリンセスと呼んでいるわ。」
「ブラッド...プリンセス?」

‘‘血の姫’’、そのまますぎる。
特別な血と言われたせいで、今、自分の体内で流れている血液が恐ろしく思えた。
少し体が震える。

「ヴァンパイアの世界は代々ブラッド・プリンセスが受け継ぐ事になっているの。だからあなたもいつかはこの国の姫となるべき存在。」
「そっ、そんな、私にはむ...」
「これは、あなたの宿命なの。」

‘‘宿命’’という言葉が心の奥に深く重くのしかかった。
別に拒絶しているわけじゃない。ただ単に怖いだけ。
今まで平凡に過ごしてきた私が、国の姫になんて...できるわけがない。


「でもっ...、今までどうして黙ってたの?」
「......、国の姫になるということは、たくさんのモノから縛られて日々を過ごさなければいけない。だったらせめて、時が来るまでは自由に生きてほしかったの。」

真剣な瞳と偽りのない想いが私を貫く。
もっとたくさん聞きたいことがあったはずなのに、そんなものも頭から抜けて、ただ不思議とこみあげる幸せな感覚に少しだけ表情が緩んだ。
目からは涙が零れそうになる。

「ぐみ、どうしたの?」
「うぅっ...、私にそんなこと...できるかなぁ...」

止まらない涙を必死に拭って、ちぎれちぎれの言葉を発した。

「ぐみ、不安にならなくてもいいの。あなたにだってきっと出来るわ。だって、私の娘だもの。」

滲む視界に映ったお母さんの笑顔は、思わず涙が止まってしまうぐらい綺麗だった。

「なによ...それ。」

年頃の私は素直に喜ぶことが出来なくて、笑ってそれをごまかした。
気づくとお母さんも私と一緒に笑っている。


「でもね...、国の姫もそこまで悪くないわよ。」
「...えっ?」
「だって私が頑張れば頑張るほど、国民の笑顔が見れるのよ?私にとって国民の笑顔は宝だわ。」

まるで子供みたいな無邪気な声で、キラキラと瞳を輝かせて言った。
今の私にはそんなお母さんが眩しく見えて、思わず目を瞑ってしまいそうだった。

いつか私もお母さんみたいに、良い国の姫になれるのかな?




「ルカ姫様!!」

突然、広い部屋中に響く少し高い、女の子っぽい声。

お母さんの元に駆け寄ったのは、白髪の執事らしき男の子だった。
...多分、男の子だと思う。

「ピコ、どうしたの?」
「グミヤ様の意識がお戻りになられました。」

‘‘グミヤ’’という言葉が耳に入った瞬間、ビクッと肩が上がった。
そういえばいろいろありすぎてグミヤのことを忘れていた。
それに「意識が戻った」ということは、さっきまで危険な状態だったことになる...よね?

「お母さん、グミヤになにがあったの?!」

私が大声で訊ねると、お母さんの表情は一瞬曇り、何かを察したのか代わりにピコが答えた。

「グミヤ様は多くのケガを負いながら、ぐみ様をお城まで運びになられて。」
「えっ......」

体が固まった。思い出そうとすると頭が石で殴られたみたいに痛む。
でもなんとなく、私が暗闇にいるときに感じた温もりはもしかしたら...。

「ねぇ、グミヤは何処にいるの?」

声が震えた。

「ぐみ、落ち着いて。今から一緒に行きましょう?」
「うっ、うん。」

ソファーを立ってピコと歩き出したお母さんの後ろについて歩く。
あぁ、どうして私はグミヤのことを忘れていられたんだろう。
あんなにも強く想っていたはずなのに。
自分を責める気持ちと、早くグミヤに会いたい、という気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合う。
さっきまで興味津々だったこの長い廊下も今は憎らしく思えた。


「ここよ。」

大きなドアが開いたその先には、包帯やガーゼに身を包むグミヤの姿。

「グッ、グミヤァー!!」

ケガを負っているとわかっていたけど、溢れすぎた気持ちを抑える事はできなくて、グミヤに強く抱きついてしまった。

「ぐみ、どうした?」
「うううっ...、ごめんねグミヤ。」
「変なの...なに謝ってんの?」
「だってぇ...」

そっと私の涙を拭うグミヤ。
その手は凄く温かくて、ますます涙が零れる。

「ぐみ、泣かないで。」

そう言って私をそっと包み込んだ。
薬の匂いに混ざって、グミヤの匂い。
私の目の前にいるのは、大好きなグミヤ。

何もなくて...良かった。

                        ―END―

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

Bloody Girl 13

何ヶ月ぶりの投稿でしょうか?

本当に遅くなってすみません...

無事受験も終わりを迎えました。
と言っても合格発表はまだですが...


今回は、ちょびっとだけ真実というものが見えたのでは、と。

そして久々のグミヤくん(笑)
このグミヤくんは紳士っぽいので、あのへたれぐみやんとは大違いだな...と常々思います...


えっと...次回は久々の○○さんが登場します(笑)

閲覧数:417

投稿日:2012/03/21 20:19:42

文字数:2,203文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • 紅華116@たまに活動。

    甘菜!!!!!!!
    お帰り^^ずっと待ってたよ!!受験お疲れ様でした!合格してるといいね♪

    グミちゃん可愛い!そしてグミヤ君が無事で安心しました^^
    しかもいつも異常に紳士らしくなって…ww成長したんだね、グミヤwwwww

    次回も楽しみにしてるよ^^

    2012/03/22 18:32:14

    • 甘菜

      甘菜

      ありがとう!!
      忘れ去られてなくてよかった(笑)

      本当に、グミヤくんの生命力ハンパないです←

      脱へたれですね...わかります...

      ありがとう!早く更新できるよう頑張るね♪

      2012/03/22 19:48:15

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