「ふわぁ・・・ぁ」
時計は午後11時を過ぎていた。さすがにあくびの1つは出る。
「マスター」
隣でカイトは言った。
「もう寝たらどうですか?」
「・・・そうだね、もう・・・寝よっかな・・・」
カイトの声で安心してしまったのか、体から力が無くなって倒れそうになる。でも、カイトが抱きとめてくれた。
「大丈夫ですか?」
「うん・・・」
心配そうに顔をのぞき込んでくるカイトに、少しときめきながら頷く。
「・・・」
「どうしました??」
しばらくカイトを見つめていると、きょとんとされた。
「ううん、別に・・・。・・・もう大丈夫だからさ、抱きとめてくれてありがと」
そう言って離れようとしたけど、
「マスター、1つ聞きたいことが」
カイトがごねて離してくれなかった。
「・・・僕、ごねてなんかないですよ」
「何? 聞きたいことって」
「そのぉ・・・」
「何々―?」
「デフォルトの姿になっても、逃げませんか?」
「・・・」
私は考えた。デフォルトの姿というのは、電子分子の構成単位数が少なくて落ち着くいわば仮の姿である。ちなみにほんとの姿は、今の人間の姿だ。
「だめですか?」
「しょーがないなぁ」
私は腹をくくることにした。
「いいよ、デフォルトの姿でも」
「えっw あ、ありがとうございます!!」
とっても嬉しそうな笑顔。・・・そういや、彼女もこんな笑顔を向けてくれたような気がする。
そうして、カイトはデフォルトの姿(仮の姿)になったわけだけど・・・。
「・・・」
私は小さくなったカイトを見る。カイトはなんか恥ずかしいみたいで、マフラーにくるまろうとしていた。
「・・・手伝おうか」
全然くるまれてないカイトを、くるんでやる。とっても可愛くなった。何だか描きたいという思いが大きくなったので、
「ちょっと、このままでね」
そう言って、真っ白い紙とマーカーを手に持ち、早速描いた。・・・ほんとはもうちょっとマフラーのしわ加減というのがあるんだけど、ま、これでいいよね。描いている間、ずっと固まってくれていたカイトも、ちょっと震えてきてるし。
「できたよー♪ ・・・はいこれ!」
斜線をしゃっしゃと書き足してから、カイトに見せてみる。
「!!!」
なんだか衝撃を受けている表情になった。・・・カイトって、見ていて飽きないなぁと思った。
「・・・」
口をぱくぱくさせるけど、・・・何も言えないみたいだ。そんなに良かったのかな? これ。
「あ、そうだ」
せっかくだから、カイトのデフォルト姿に触ってみようっと。
「ちょっと触るね」
そうして触ろうとしたら、あっと思う間もなく、マフラーに閉じこもってしまった。
「あ・・・あのー・・・・・・? 私でも、触られたくないの??」
すると、頭が少しだけ出てきて、横に振った。
「ちがうの? あー良かった」
続いて、顔が出てきた。
「・・・顔赤い」
それもものすごーく赤になっている。思わずアカイトと見間違うかと思った。それはさておき、ものすごくカイトに見つめられる。・・・さっきの言葉言っちゃだめだったかな? そう言おうとしたら、マフラーを引きずってカイトがやってきた。私の前まで来ると、マフラーから抜け出して私の膝によじ登ってきた。思わず抱きしめてしまった。
「!?」
手触りが・・・マフラーもそうだけど、カイトのデフォルト姿もこりゃまたなんとも・・・・・・。
一方の抱きしめられているカイトは、なんか恥ずかしいのだろうか。どんどん熱を帯びてくる。とってもあったかい。
「・・・」
ちょっと体温計ってみたいなぁ。そう思って、カイトの体温を計ってみたら、エラーになった。
「ん? あれれー??」
ちょっと熱いぐらいなのになー。むむー、不思議。とりあえず抱きしめるのをやめようと地面に降・・・ろせない。じたばたして無理。
「・・・このまま寝るか」
仕方なく呟くと、カイトはこくこく頷く。さっきまで、恥ずかしがってたとは思えないな。
立ち上がってベッドに行く。・・・カイト軽いなー。ひょいっていう軽さを通り越している。
「おやすみ、カイト」
なんかぬいぐるみみたい。でも、こんなぬいぐるみ、ちょっと可愛くないかな。私は心の中でちょっと笑ってから、カイトを抱きしめたまま寝たのだった。
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