Meno mosso

  4-1.

 翌日。
 昨日のことをぼんやりと思い出してるうちに、いつのまにか昼休みになっていた。
 今日は、海斗さんのお弁当は作ってない。海斗さんの休憩時間と高校の休み時間が合わなくて、渡せそうになかったからだ。
 代わりに――といったら怒られるかもしれないけど、今日は愛の分のお弁当を作ってきた。愛はずいぶん喜んでくれたけど……今、私の目の前でものすごい勢いで食べてるのを見てると、次に愛のお弁当を作るときは、今日の倍くらいの量にしないといけないみたい――もしかしたら、倍でも足りないかもしれないけれど。つくづく、よく食べる子だと思う。
 私は自分のつつましやかな胸元を見つめて、ため息をつく。
 私と違って、あれだけ食べても愛の場合は脂肪が胸にしかつかないんだから、世の中は……なんていうか、ものすごく不公平だと思う。


 昨日、図書館を出てから、海斗さんと一緒にお昼を食べた。
 海斗さんの口に合わなかったらどうしようかと思って気が気じゃなかったけど、おなかが空いてたのは本当みたいで「美味しい」って言ってくれて、私の作ったお弁当を全部きれいに食べてくれた。
 でもやっぱり、そういう楽しい時間ってあっという間に過ぎていく。すぐに帰らなきゃいけない時間になっちゃって、海斗さんは慌てて研究室に走って行っちゃった。
 海斗さんが研究室に戻ってから、私はまた図書館に戻って、塾の時間まで本を読んでた。海斗さんは本当に忙しかったみたいで、お昼のあとは夕方に一度きてくれただけだった。
 時間を気にせず会えるようになれたらいいけれど、でも、最低でも海斗さんの学会が終わってからじゃないと難しそう。
 別れ際、勇気を出して「またお弁当作ってきてもいいですか?」って訊いてみた。そしたら海斗さんは「未来ちゃんが作ってくれるなら大歓迎だよ」って言ってくれて、すごく嬉しかった。
 嫌われてはない。うん。嫌われてはいないよね。
 だって、嫌われてたら会ってくれるはずがないもの。またお弁当作ってきてもいいって言ってくれるはずがないもの。
 でも、どうなんだろう。
 嫌われていなくても、私、海斗さんにちゃんと好かれてるのかな?
 海斗さんは、私のこと好きになってくれてるのかな?
 ただの友達だって思われてたらどうしよう?
 そんなことないって思う。好きじゃなかったらあんなことさせてくれないはずだもの。だからきっと、海斗さんも、私のことが好きなはず。うん。そのはずよ。
 でも、やっぱり不安。ちゃんと聞いておけばよかった。そしたらきっと、海斗さんはまたあのとろけるみたいなほほ笑みを浮かべて「好きだよ」って言ってくれるはず。ううん、言ってくれなきゃ嫌。そうじゃないと私、きっとすねちゃうわ。
 だから今度は、ちゃんと聞いておこう。そして、私もちゃんと言わなきゃ。「私、海斗さんが好きです」って。
 ……わ、私、ちゃんと言えるかな? 恥ずかしくて、恥ずかし過ぎて言えない気がする。で、ででも、海斗さんに聞くんだったら、私も言わないとダメだ。
 ちゃんと……伝えないと。


「あ~美味しかった! 未来ってホント料理も上手ね~そんなに可愛いくて、成績も良くて、家事もこなせるなんて……未来、あなたホントにいいお嫁さんになれるわよ」
「え、ええ……ありがとう」
 と、そこで、愛はなぜか私の両手を握って、目をキラキラと輝かせながら私を見つめてきた。
「未来……」
「メグ? ど、どうしたの?」
「海斗さんはやめて、あたしのお嫁さんにならない? あたしだって、海斗さんに負けないくらい未来のこと愛してるわよ?」
 私は思わず、ため息をついた。
「メグ、なに言ってるのよ……まったくもう」
「だって……だってだって、うらやましかったんだもん!」
「え?」
 愛は右手で拳を握りしめ、左手でダンッと机を叩く。
「未来の私服姿なんてあたしだって見たことなかったのに! しかもあたしよりも先に未来のお弁当食べてるなんて……」
「え? ちょっと待って……メグ?」
「しかもなに? 大学のベンチであんなにイチャイチャしてるなんて! あたしだって、あたしだって未来にあ~んってしてもらったことないのに!」
「なんでメグが知ってるのよ!」
 思わず立ち上がって、叫んでしまった。
 静まり返る教室。
 私に集まる、どこか愕然としたようなみんなの視線。男子の何人かは、なぜか悔し涙まで浮かべてしまっている。
 羞恥で熱くなる私の身体。
 ……今、この瞬間の恥ずかしさに比べたら、もしかしたら、海斗さんに「好きです」って言う方が、まだ恥ずかしくないかもしれないんじゃないのかな、なんて、私は本気でそんなことを考えてしまった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ロミオとシンデレラ 17 ※2次創作

第十七話。


ここで読んでくださってる皆様は、「愛」と書いて「めぐみ」と読む彼女の名前がどこから来てるのか、説明する必要もないかと思います。
とはいえ、なぜ「愛」なのかというと・・・・・・「流歌」や「凛」とはなんか性格違うな、と思っただけのことでした。

なるべくリアルに、と思い「ミク」ではなく「未来」にしてたこともあり(その過程で名字も書かないことに決めました)、実は「愛」も書き始めた時はボーカロイドとは縁のない名前にしてました。だから「愛」はメグッポイドらしいルックスはしてないです。

それが良かったのか悪かったのか・・・・・・未だに判断がつきかねているのですが。

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投稿日:2013/12/07 12:55:35

文字数:1,962文字

カテゴリ:小説

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