※若干オトナな行為の残像を匂わせる描写がありますので閲覧の際はご注意ください


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『メイコさん、』

「ん?」

『俺、メイコさんと生活してみたいって最近どうしようもなく思うんですよね』

「……何、プロポーズ?」

現実に背を向けて滞在時間の限られた暖かな布団の中で微睡む。

『いつも貴女は俺より一枚上手で微笑むだけで。家には入れてくれなくていつもこういう場所だし、メイコさんが普段何してるかとか全然思い浮かばなくて。もっと知りたいと最近とても思うんです。』

「随分赤裸々ね」

ベッドの上だけじゃ足りなくなってきている自分がいる。

もっと、もっと彼女のことを知りたい。
貴女に焦がれて狂いそうになる今日この頃だ。

そんなこと彼女はきっと知る由も無いし、彼女に見せるつもりなんて無いからいつもギリギリのところでオーバーしそうな熱を堰きとめる。

でも、「もっと知りたい」という毒のような好奇心は毎晩ベッドの上の俺を悩ませる。
シングルの狭い幅で一人過ごす時も。

「俺、多分貴女が思ってるよりも貴女のことが好きなんですよ」

『仕事仲間にそう言われればとても私も歌い手名利に尽きるわね』

「……そういうことじゃないんですよ、例えば」

夕方リハーサルにラフな格好で訪れて背伸びをする時。
軽口を叩きながら酒を求める彼女を「まだ歌うまでは」と制止する時。
バーの中で貴女と歌声を重ねる時。
終わってから更衣室でその勢いのままただ熱く重ねて溺れる時。

もっと知れたらいいのに、と思う。

身体は何回も重ねている。
唇も声も。

でもそれ以上になれない。

どうやったって彼女の日々の暮らしも、バー以外の世界の彼女も、何も知れないのだ。
知ることが出来ないのだ。

「日常をこなす時のほんの笑顔やしかめっ面、そういった表情も貴女も知りたいんです。」

『こんな歳増しオンナにまさか惚れたんじゃないでしょうね、それならとんだ不幸者よ』

笑いながら言うその表情は満更でも無さそうだ

「何言ってるんですか」

『言っておくけど可愛いくないわよ』

「そんな所も可愛いんですよ、貴女の全て俺にとって」

『あら、勘違いしてもいいの?』

「超その気になって欲しいです」

『ばかね、ほんと』

「ていうか、」

早急に重ねて奪い取る。
この柔らかな唇も舌の心地も、誰にも触れさせたくない。

だから奪い取りたくて。

今すぐ彼女の全てを俺のものにしたくて。

深く深く執拗に言語より外の本能が、理性が、欲しがっている
目の前の難攻不落な彼女を。

「…好きなんですよ、多分誰より」

『何言ってんのよほん…』

「好きなんです」

また重ねる。
ただ重ねるだけのキスだ。

彼女の頬は染まる。
何色かなんてそんなの教えないけど。

『なんかベタで笑えてきちゃうわね』

「そんな顔で強がられても」

てっきり言葉にしないのかと思ってた、なんて彼女は言う。

俺だって本当はこんな感情言うつもりは無かったんだ。
決壊しそうな衝動、愛情もろもろ。

「俺のものになってくれたりしますか」

『手放さないでよ、ずっと握ってて欲しいわ』

「なんかプロポーズみたいですね」

『やっぱりこいつ可愛くないなんて思っても遅いんだからね』


笑い合う午前9:00頃、安っぽい内装、ダブルベット、気だるい身体。


漂う馬鹿みたいな幸福感。



『ここらへんだと家賃高いんじゃないかしら』

「ボロでも貴女と居ればそれ以外問題無いですし」

『ソファ欲しいしキッチンもちゃんとしたのが欲しい』

「食器とかも新しく買いたいですね」

『もしかしてベタにハートのペアマグカップとか?受け付けないわよ』

「嫌ですよそんな離れるフラグビンビンに立ってる新婚みたいな」

『なぁんだ、てっきりどピンクの欲しいのかと思ってた』


変わっていく。

最初はだだの歌姫とバーテン。
歌声を重ね合うようになって。
いつしか重ねるのは声だけじゃなくなって。
いつしか気持ちも、そして生活も。

段々重なるものが増えてくる。


暖かい手を何となく握る。

そろそろだと電話が鳴り響く。

温もりから逃げたくなくて。


変わっていく。

いつかこんな風に時間を気にしないでいられるようになる日がくる。



もう少し、このまま温もりの中で幸せを感じていたいと思った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【カイメイ】double【オンザロ設定引き継ぎ】

自分で書いたon the rocks自己解釈(http://piapro.jp/t/yv4p)の設定を(http://piapro.jp/t/uHu8)に引き続きまた使ってるって感じです。微妙に進展したりあるからシリーズ感覚かもしれないです。

めーちゃん誕生日おめでとう!

ふわっとした雰囲気で同棲するカイメイがどうしても書きたくて数ヶ月もがいていました。結果結構がっつりな感じで同棲を決めるカイメイが出来上がりました。
同棲を決める時の話が書きたくて、でもネットで調べてもいやあ出てこない……そして知り合いに同棲まで駒を運ばせた奴はこの歳じゃいないし。
結構想像でどうにかしたみたいなところあります。オトナの方々ごめんなさい。

というか完全にめー誕明日だと思ってたんですけど、今日と2時間くらい前に知って相当焦って書き上げました。修正をいつか加えるかもしれません。

めーちゃんのことが年を重ねるごとに好きになっています。お誕生日おめでとう!

閲覧数:322

投稿日:2017/11/05 23:48:39

文字数:1,831文字

カテゴリ:小説

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