カチカチと歯車がかみ合う音が響いていた。
 その音に合わせるように、一つ一つネジを巻いていく。
 穴にゆっくりビスを当て、精密ドライバーで一つ一つ捻じ込んでいく。
 キリキリという音が鳴って、また一つパーツが組み込まれる。
 正直、この音は苦手だ。なんだか、背中がぞわぞわっというするというか、そんな感じがする。
 ただ、正直文句は言ってられないよねぇ、と思いながら一息つき、再びビスを打ち込んでいく。
 そして、最後の一つをドライバーで捻じ込み終えると、そのままばたっとあおむけに倒れ――
「で――っきたー!」
 大きく腕を空へ伸ばし、小さく歓声を上げる。
 それもそのはずだ。
 時刻にして現在深夜。新月の夜ではないため、真っ暗闇、というわけではないが、それでも外の明かりは月明かりだけ。
 本で読んだ、遠く極東のとある島国では「丑三つ時」とかいう時間。
 家族もみな寝静まっている時間に大声を出すのはどうなのか、と彼自身解っている。
 ふわぁ、と大きくあくびをしてからもう一度机に向き直り、今しがた完成したそれについているゼンマイに手をかけ、ゆっくり巻いていく。
 きりきり、きりきりと小気味いい音が響く。そして、その手をゆっくりと離し、その木箱のロックを外して開ける。
 瞬間、響く軽やかな音。
 それらの全ては同じ金属の音。
 ただ、それらは単音では終わらず。
 それらは全て複数。それらがすべて複雑に絡まり、まるで楽団のような音楽を奏でていた。
 即興で譜面を考えて、その場で打ち込んだ割には上手く出来たなと思っていた。
 静かに目を閉じ、その音に身をゆだねる。
 ふわふわとした音に、思わず笑みがこぼれる。
 そして、その音に合わせて動く、自動演奏器――オルゴールの中の小さな人形たちを見てさらに笑みがあふれる。
 そして音が一周し、二週目に入った時――
「――♪」
 そのメロディに乗せて、何となく即興で鼻歌でメロディを紡ぐ。
 小さな声で響くその歌は、夜闇に溶ける夜想曲。雲間から覗く満月が、その一時だけ彼を確かに照らしていた。
「――♪――♪――♪」
 ふわ、と響くその歌に合わせるように、彼の足元に広がる陣。黄色とも、橙とも、はたまた黄金ともとれる色に輝くその円陣。
 この世界、この国で騎士と呼ばれる人物以外で、唯一「ナニカ」に対抗出来うる力。
 誰かを守れる、そんな力だって、彼は両親から教わった。
 名前のないその力にゆっくりを身をゆだねながら、彼――アウルムは今度は音に合わせてステップを踏む。
 ステップに合わせるように、今度はエンジンの周りから音が具現化し、ふわりふわりと浮かび上がる。
 こんな風に、彼は歌うのが、踊るのが好きだ。
 こんな時間が、こんな平和な時がずっと続けばいいな、なんて思いながら彼は夜半しばらく歌い、踊り続けていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【短編小説】アウルム編~丑三つ時の夜想曲~

しまった、我ながら最強に短くなってしまった……

ということで、「キャラクターユニット制作スレ」より、アウルムくんの設定をお借りし、短編小説を書かせていただきました。

前述の通り、どうにも人の動きがない場面は苦手です。
ゴリゴリの戦闘シーンが書きたい……と今のうちに言ってみたり……

閲覧数:59

投稿日:2018/07/30 07:38:26

文字数:1,187文字

カテゴリ:小説

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