アイ・ストーリー
第二話「以心伝心」

 ……いいか、KAITO。よく聞けよ?
 あのな、ただ淡々と歌うだけだったら誰にだって出来る。
 おまえ達は人間と同じように、何かを見たり聞いたりして
 学んでいく力を持っている。
 その経験が『表現力』となって
 はじめて人々の心に響く歌声を届ける事が出来る。

 それが『VOCALOID』だ……。


 ……あの瞬間(とき)僕が奏さんから言われた言葉。
僕はその言葉を忘れた事はない。あの瞬間があったから
僕はこうして今、大切な人の為に歌える……。

「……KAITO?なぁに?人の顔をじろじろ見ちゃって。」
「え?……あ、いえ。何でもないです、マスター。」
「……そ~ぉ?」
 今日はメンテナンスの日。僕と学校帰りのマスターと
春樹さんと秋彦さんの四人は研究所に向かっている途中だった。
「……あぁ、はいはい。分かったって!じゃーな!」
 春樹さんはケータイでめーちゃんと話していた。
「春樹先輩。MEIKOさんから、何て?」
「来るのが遅い。寄り道してるんじゃないでしょうね。
車には気を付けなさいとか……俺は小学生かっつーの!」
 めーちゃんは春樹さんをいつも子供扱いしている。
 めーちゃんはもうだいぶ前から春樹さんの家でお世話になってて……。
だからだろうか、めーちゃんと春樹さんはVOCALOIDと
そのマスターというよりは……『姉と弟』の関係に近い気がする。
 二人はどうやって出逢ったとか、すごく気になるんだけど
めーちゃんも春樹さんも、そんな大昔の事は忘れたなんて言って
ほとんど話してくれたためしがない。
「あはは……MEIKOさん、そんなに心配なら
先に研究所に行かなければいいのに。」
「いや、MEIKOの目的はどうせ奏さんとかルカとか、その辺の人に
メンテナンスが終わったらどっかで一杯飲もうって
誘いまくってるんだよ。いつもの事だから、絶対そうに決まってる。」
「そういえば……ルカさん、元気かな?前のメンテナンスの時に
会ったきりなんだけど……。」

 『ルカ』とは、めーちゃん、僕の順で三番目に起動したVOCALOID……。
つまり、僕の妹の一人。ミク・リン・レンにとっては
お姉さんという事になる。
 でも、ルカにはマスターが居ない。ルカは研究所で考案されている
様々なカスタマイズを試している途中……まだ試作段階だからだ。
普段は研究所で奏さんのお手伝いをしているので、同じVOCALOIDの
僕達でさえ、会う機会はそんなに多くない。

 そんな事を話しながら、僕達は研究所に到着した。
 奥へ進んで行くと、めーちゃんとミクが居た。それと……。
「秋彦兄さん!」
 秋彦さんに抱きついて来た女の子。彼女の名前は
紅葉(くれは)さん。秋彦さんの妹さんで、今は中学三年生。
「紅葉?何でおまえがここに……。ミク、どういう事だ?」
「あ、マスター。その、紅葉ちゃんがVOCALOIDに興味があるから
一緒に連れて行ってって……。」
「私がミクに無理言ってお願いしたの。ねぇ、私もVOCALOIDの
マスターになりたいの!いいでしょう?」
「でも、紅葉……。おまえまだ中学生だろ?
父さんと母さんに相談だってしないといけないし……。」
「あら、そう言う兄さんはミクのマスターになった時
何の相談も無かったじゃない?兄さんだって中学生だったのに。
あの時は本当にびっくりしちゃったわ!」
「いや……あれは、春樹が……。何て言うか……
説明しづらいな……。」
 秋彦さんは戸惑いながらミクを見た。ミクはクスクスと笑っている。
 そこへ研究所のさらに奥へと続く扉が開いた。
「よ~ぉ、来たか。一ヶ月ぶりだな、みんな!」
「奏兄さん!久しぶり!」
 マスターは白衣を着た男性に駆け寄った。この人は
氷室奏(ひむろ かなで)さん。僕達VOCALOIDを製作した
この研究所に勤める研究員の一人で、マスターのイトコでもあります。
そして僕達のメンテナンスも担当している、凄い人なんですよ。
「あっ、ルカさんも!元気だった?」
「……えぇ。美冬も、みんなも元気そうで良かったわ。」
 奏さんの隣に居たルカはちょっとだけ微笑んだ。ルカは昔から
喜怒哀楽を表現するのが苦手なんです。でも、優しくて
気の利く妹なんですよ。

「……ん?千夏達がまだ来てないな。
学校の帰り、一緒じゃなかったのか?」
 奏さんの言う通り、確かに千夏さん達が来ていなかった。
「あれ、おかしいなぁ。千夏、学校からは私達より先に出たはず
なんだけどなぁ……。」
 マスターは首を傾げている。すると扉が開く音がした。
「あ、噂をすれば……。来たみたいですよ?」
 僕達の視線の先には、千夏さんとレンと……あれ?
「千夏さん、レン……。リンはどうしたんですか?」
「…………。」
 千夏さんとレンは互いに困った顔で見合っていた。先に口を
開いたのは、レンだった。
「……リンが、ひきこもりになった。」
『はぁっ!?』
 その場所に居たほぼ全員が同じ言葉を発した。ちなみに
僕は言ってないですよ。
「ひきこもりって……。何があったの?」
「……実は、夏瑠が今日から学校行事の演奏会の練習で
二週間、急に学校に泊まり込むになったんだ。
んで、夏瑠がその事を昨日俺たちに話したら、リンが……。」

『えぇっ!?夏瑠、明日のメンテナンスから私達が帰ったら
新曲を歌う練習しようって、約束してたじゃんっ!嘘つきっ!!』

「……って、それから部屋に閉じこもっちゃって……
全然出て来てくれないのよ。」
「俺達も、何度も説得しようとしたんだけど……。」
 千夏さんとレンはため息をついた。
「そっか……。だから千夏、先に家に帰ったんだね?」
「……にしても、VOCALOIDがひきこもりなんて
前代未聞だなぁ。」
 奏さんは腕を組んで笑っている。
「……奏、笑ってる場合じゃないと思う……。」
 ルカがぼそりと呟く。それを聞いた奏さんは咳払いをした。
「……え~と、それは困った事になったな。
メンテナンスをちゃんと受けないと、何かあってからじゃ
遅いからな……。」
「そうだよね……。ねぇ、千夏!後でKAITOと二人で
千夏の家に行っていい?リンちゃんと話したいんだけど……。」
「え?あぁ、うん。私は構わないけど……。
リンが聞いてくれるかな……。」
「まぁ、駄目もとで……ね。KAITO、悪いけど
後で一緒に行ってくれる?」
「はい……わかりました、マスター。」
「話がまとまったみたいだな。じゃ、こっちもなるべく早く
メンテナンスを終わらせるようにするからな。」
「ありがとう、奏兄さん。」

 奏さんとルカに誘導されて、僕とめーちゃんとミクとレンは
メンテナンスルームへと入って行った……。

……続く。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

アイ・ストーリー 第二話

第二話、始まりました。MEIKOとルカが初登場です!
アイ・ストーリーに登場するオリキャラはいったい何人になるのやら……。

追記:第一話本編・番外編→完成。
   第二話本編・番外編→完成。
   Lied→一応、完成。

閲覧数:205

投稿日:2009/04/04 22:59:59

文字数:2,815文字

カテゴリ:小説

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  • otoha

    otoha

    ご意見・ご感想

    フォルトゥーナさんへ

    羽汰です。タイトル案ありがとうございました!!
    やっと、しっくりきました♪ いつもありがとうございます(・・。)ゞ

    第二話始まったーーーー!! いやっほいッ☆
    続きが楽しみですo(´▽`*)o

    2009/04/05 12:12:43

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