膝を付いたまま顔を上げようとしない日高に緋織が心配そうな顔をした。泣いているのだろうか、少し肩が震えている。

「鈴夢…。」
「解ってる。」

確かに日高はストーカー事件とは無関係だろうし、佐藤莉子は利用されたのかも知れない。緋織を恨むでもなく今の所害も無い。だけど何処かに引っ掛かる物があった。そもそも何故コイツは大人しく捕まったんだ?警察が手を回していたとしても余りにも無関係な人間を逮捕したりしない筈、それにさっきの言葉も…。

『スッキリ水に流すには少々痛いけど、まぁそこ等はお嬢さんの親父さんから貰ったんで。』

緋織の父親は旋堂家の助力もあってそれなりの力を持っている、そんな人間から『貰った』なんて言われれば気持ちの良い話では無い可能性が充分ある。嘘や迷いは確かに感じない、だけど頭から信用も出来ない。正直どうするべきか測り兼ねていた。少しの沈黙の後、泣きそうな緋織に根負けする様に溜息を吐いた。

「協力はするがまだ貴方を信用は出来ない。」
「え?…鈴夢?」
「それで構わない、莉子が優先だ。」

日高が部屋を出て行ってから、緋織はまた不安に顔を曇らせていた。

「鈴夢…ねぇ、さっきから何か変だよ?」
「変って?」
「怒ってるみたい…。」

実際に怒ってるのは半分正解だけど悲しかったりやるせなかったり、色々な感情がぐるぐるしてて自分でも解らなかった。心配そうに覗き込む緋織の頬にそっと手を伸ばした。

「駄目だな、俺は。」
「何が?」
「そんな顔させたくないのに。」

指先で触れた緋織の頬がカッと熱くなった。最初の頃みたいに怯えたりしないで俯きがちに頬を摺り寄せた。どちらからとも無く顔を寄せて、そのまま唇を重ねた。まだ少し残る犯人の…七海志揮の気配が堪らなく悔しさと怒りを燻らせる。だけど緋織から流れて来る真っ直ぐな想いがとても心地良かった。

「ね、ねぇ…その…聞いても良い?」
「何を?」
「私ってその…どんな味なの?」
「…言って良いの?」
「や、やっぱりいい!言わないで!」

ゆでだこみたいに耳や首まで真っ赤になった緋織が妙に可愛く思えて抱き締めた。少し身じろぎしてから背中にたどたどしく腕を回したのが解った。

「…限界。」
「え?ちょ…鈴夢待っ?!ここ鷹臣さんの家で…っ!」
「静かに。」

自分の中の迷いや不安を誤魔化したかったのかも知れない。そして何より隅々まで自分で埋めて他の誰かの気配を消し去ってしまいたかった。

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いちごいちえとひめしあい-128.疑心と信頼-

閲覧数:58

投稿日:2012/06/23 00:04:18

文字数:1,029文字

カテゴリ:小説

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