―翌日。
 
 

「マスター、朝ですよ。起きて下さい」
 


ゆさゆさと俺の身体を揺すりながら、聞き慣れない女の子の声が俺の耳に届く。



「うーん……眠い」



俺は寝返りを打ちながらそう言って、もぞもぞと頭まで布団を被る。
すると



「朝ですよ、あ・さ!」



そう言って布団がバサリとはぎ取られる。



「なにすんだよ!ってアレ?」



俺は一瞬固まる。
なんで初音ミクが目の前に?
考えて昨夜の事を思い出す。
あぁ、俺はミクのマスターになったんだ。
俺はそう思い至ると、まだ覚め切らない頭でミクを見上げた。
そんなミクはといえば、はぎ取った布団を持ったまま、
「早く起きて下さいよ」と膨れっ面で拗ねている。
その姿が予想以上に可愛くて、俺は思わずニヤけてしまう。
するとミクがまた拗ねた様に言った。



「マスター、私マスターの為に頑張って朝ご飯作ったんですよ?
せっかく作ったのに冷めちゃいますよ……」

「え……ミクが朝飯を作ってくれたのか?」



哀しそうに言うミクの言葉に俺は驚いた。
まさかミクが俺の為に飯を作ってくれるとは……。



「そうですよ。私頑張って作ったんですから!」

「ごめんごめん、知らなかったからさ」

「もう、マスターったら!」



そう言って怒るミクの頭を、俺は笑ってあやす様に撫でた。



「ごめんって。ありがとうな、ミク」

「べ……別に私は早くマスターと仲良くなりたくて作っただけで……」



照れた様な拗ねた様な風に呟くミクに、俺はそっかと返事を返してまた頭を撫でる。
するとミクが少しくすぐったそうにして、それから俺を見て言った。



「ご飯食べましょう、マスター」

「あぁ、そうだな」



俺はそう返事をして、ミクを引き連れ寝室から出た。
寝室から出るとすぐに繋がるリビングには、
なるほどミクの言う通り良い匂いを漂わせて飯が準備してあった。

卵焼きにサラダに鮭の塩焼き。

目の前の飯に俺の腹が鳴る。
俺は机の前に座ると箸を手に、小さく「いただきます」と呟いて飯に手を付けた。



「どうですかマスター?」



ミクが不安そうに尋ねる。
俺は一通り手を付けたおかずを飲み下すと、
側に立っているミクをを満面の笑みで見上げて言った。



「不味い」



俺の顔にミクのパンチが飛んだ。
プルプルと拳を握って怒りの余り目尻に涙を浮かべるミクに、
俺は命の危険を感じて必死の弁明をする。



「違うんだミク!俺は別に意地悪で言ってるんじゃない!
頼むから一回食べてみろ!良いから!」



ミクは相変わらず怒りにうち震えていたが、
とりあえず渋々といった感じで目の前の卵焼きを食べた。



「う……」

「どうだ?」

「…………ごめんなさいマスター」



ミクはショックだったのか、ションボリと床に座り込んで肩を落としながら言った。



「気にするなミク。味付けが悪いだけで焼き加減とかは悪くないんだから」



そうなのだ。
焦げたり、生だったりする訳ではない。
ただ卵焼きの味がしなくて、逆に鮭は塩辛いだけで。
ついでに味噌汁も味噌が濃すぎて、サラダしかまともに食えるものがないだけで。
ガックリと落ち込むミクの肩を、俺は励ます様に抱いた。



「でも……」



ミクは尚も落ち込む。



「大丈夫だよミク。次頑張れば良いんだ」

「はい……」



俺はその返答に満足して、まだ残った飯を食べた。



「ま、マスターっ!?」



俺の行動に驚いたミクが、素頓狂な声を上げた。



「駄目ですマスター!身体を壊しますよ!」

「大丈夫だミク。それに少し失敗した位で全部残すのは、頑張ったミクに失礼だろ?」

「でも……!」



俺はミクの制止の言葉を無視して、ご飯とおかずを一気に掻き込んだ。



「ご……ごちそうさま」

「ま……マスター……」



全て平らげた俺をミクが案ずる様に見つめる。
俺は大丈夫だ、と言わんばかりの笑みをミクに向けた。





―俺はその夜、
腹を壊して寝込んだ。

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Song of hapiness - 第2話【1日目】

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投稿日:2010/09/28 12:03:52

文字数:1,712文字

カテゴリ:小説

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