天使の脳裏に、ふっとあの少女の笑顔が過ぎる。
少女には姉がいた。

まさか、姉のいる少女など地上には多くいる。
杞憂だと天使はその思考を頭の片隅に追いやる。

だが。

「少女の淡い金の髪も青の瞳も、悪魔へと成ったせいで黒へと変わってしまったと聞き及びました。…貴方と同じ色。私は、その少女と貴方を重ねた悪夢を見てしまったのです。
………どうしました?」

天使の思いは女神の言葉で真実味を帯びた。
天使はそんな筈はない、と自らの考えを否定するが不安に駆られる。

「…本日はこれにて御前を失礼します。非礼お許しを。」

やっとそれだけを言って天使は神殿を出ると、真っ直ぐに地上へ下りた。












天使の杞憂であってほしかった想像は、現実となった。

少女の家は天使が倒れそうに成る程濃い穢れに包まれていて、天使はそれを堪えて中へ入った。
呼吸をするごとに肺が焼かれるような感覚に胸を押さえて少女と姉を探す。


少女の部屋に少女の姉はいた。
穢れが強い為に人間である彼女も倒れて、ベットに横になっていた。

「…天使様………?」

彼女の腕と顔は大きく引き攣れており、天使の記憶にある美しさはその影すら留めていなかった。
やせ細り、声も掠れている。

「どうして…………」

「…事故に遇ったのです。ですがこんな姿でも命だけは取り留めました。
ですが……妹が……」

ぼろり、と大粒の涙が彼女の頬を伝う。天使は彼女にこの家にいたらいずれ弱り切って死んでしまうと告げた。
しかし、彼女は動く事ももう出来ないであろう程穢れに毒されていた。

天使は彼女の身の穢れを自らに取り込んで彼女を逃がした。
体内が焼ける激痛に天使は倒れ、血を吐いた。

しかし天使は止まらずに、床を這って最も穢れの強い部屋へと向かう。

純白の羽は血で汚れ、見る影も無い。それでも、天使は目的の場所まで這った。小さな部屋だった。
天使は部屋の隅に魔法陣があるのを見付け、その縁に立つ。
明らかに穢れのもとはそれであった。魔界と地上を繋ぐ穴である。
天使は小さく祈りを神々へと捧げると、魔法陣へと飛び込んで魔界へ降り立った。


全ては、約束を果たす為に。
もう一度あの少女に逢い見えるために。

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黒い天使と金色の悪魔の物語Ⅴ

結構王道な…

閲覧数:134

投稿日:2009/09/20 13:34:05

文字数:940文字

カテゴリ:小説

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