突き出された『それ』は、どことなく見覚えるのあるはねっ毛、茜色の長髪、特殊な服装、それに何よりカラクリ人形のように関節部分が無加工である異端のボーカロイド。
「…ミキが、どうかしたか?」
「データに異常が起きているらしいんです。とりあえず、見てやってくれませんか」
「いいが…ハク!準備をしろ。メモリーデータを読み取る!」
すると、部屋の置くから怯えた声が飛んでくる。
「はっ、はい!」
『――第二回戦ヲ開始イタシマス――』
既に二組がスタンバイしてフィールドにてにらみ合っている。
「…久々に歌いたいわ!」
「俺も!」
ぐっと伸びをし、メイコが笑う。それに応えるようにカイトがメイコの目線の自分の目線を合わせるかのように軽く腰を曲げて微笑んだ。
「それにしても、やぁね。ちょっと前までカイトの方がちっちゃかったのに!」
「そりゃあ、成長期過ぎましたから」
「なんだか気に入らないわ。後で晩酌するわよ。付き合いなさい」
「はいはい。いくらでも付き合うよ。俺、めーちゃんのこと大スキだからね」
「な…っ!何、言ってんのよ!このバカイト!試合に集中しなさい!」
「はーい」
へらへらしながらコイツは自分が何を言っているのかちゃんとわかっているのだろうか、と、メイコは弟のことを心配していた。
『――第一試合、開始シテクダサイ――』
「…大丈夫、めーちゃん?」
「うっさい!だまれ!いくわよ!」
「う、うん…」
戸惑った様子のカイトを一括し、メイコが相手を強くにらみつける。相手は双子かあるいは兄妹、もしかしたら親子かもしれない、年齢の分からないポニーテールの二人組みだった。紫の長髪、すらりと伸びた長身、カイトでも顔を上げないとその整った顔を見ることはできないほどで、低い声と切れ長の目が特徴的な兄らしき青年。同じくポニーテールではあるがどこか桃色の混じったような明るい紫のポニーテール、ぱっちりとひらいためは桃色で、まだ幼いのか背も低く声も高い。こちらも整った顔は可愛らしい。
すると、相手の兄妹が前に進み出て軽く一礼した。
「よろしくお願いいたします」
――ああ、戦国かぶれか何かか。
やっと彼らを理解できたというようにメイコが納得の声を上げた。
一歩下がった相手を見てカイトも軽く頭を下げた。
「そちらから、どうぞ」
幼い少女が言う。
「それじゃあ、遠慮なく」
二人は顔を見合わせて頷きあった。
高く力強いメイコの声が響き、それを追う様にカイトの低く柔らかい声があふれ出す。
さきほどのりんとレンの歌も確かに可愛らしくて誰もが引き込まれたが、この二人の声はまた別の美しさだ。大人らしい落ち着いた声。
溢れ、響き、轟く。
暖かなカイトの低温、気高いメイコの高音。二人の声が美しく交差し、聞くもの全てを自分たちの世界に引き込んでいくのが、わかるほど。次第にメイコの周りに炎が渦巻き、カイトのほうに飛んだ火花が瞬時に凍り付いてフィールドに落ちた。これが、ボーカロイドの能力。歌うことによって能力を最大にまで引き上げる。さきほどのりんとレンがそうだったように、メイコとカイトの周りにも、多くのエネルギーが渦巻いているのだ。
アカペラでありながらそれすらも分からなくさせるほどの実力。
「♪…♪」
「♪~…」
二人の声がふっと止む。
いつの間にか閉じていた目を開くと、あの兄妹は、まるで何事もなかったかのように立っている。
「それでは、こちらの番だな」
すっと息を吸い、低い青年の声が響き渡る。
「な…っ!」
その歌は間違いなく今、メイコとカイトが歌った歌に違いなく。
「一度聞いただけで…!」
次第に兄妹の周りに強風が吹き始めた――。
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