なんとなく「欠けている」と思ってた。
「あ、リンちゃんその帽子似合うね!」
「ありがと。私もこれなら使えそうだな、って思ったの」
私の言葉にクエスチョンマークを浮かべたミクちゃんの前で、私は被っていた帽子の鍔をちょっと下げた。
「こうすれば顔が隠れるでしょ?」
「?うん、そうだね」
「そうすれば道行く男が私に一目惚れしなくても済むのよ」
「…うん」
「あぁ、可愛いって罪!」
きゅっと握った手を頬に添えて、ぶんぶん顔を振る。この仕草が可愛いっていうのも勿論知ってる。
ううん、私は鏡音リン。「この仕草が」なんて限定出来ない、私の全ては可愛さの固まりなの!それは男達も放っておけないわよね。
でも残念、いくら色目を使われたって、私には心に決めた人がいるの。
彼と比べれば、他の男なんてモアイ同然!
「…で、出た、ナルシー…」
微妙に引き攣った顔でミクちゃんが呟く。
ナルシー?ナルシスト?そうなのかな。
少し引っ掛かって、私はミクちゃんに聞いてみた。
「え?私って可愛くないのかな?」
ミクちゃんは乾いた笑いで首を振る。
「いや、実際可愛いから困っちゃうんだよねえ」
「そっか、良かった!」
「うん良かっ……うーん」
ミクちゃんは嘘をつかない。優しいけど率直な面もあるミクちゃんがこう言うって事は、私はまだまだ自惚れてても大丈夫って事。実際告
白年間記録は驚きの151回!懲りない奴は何回も告白してくるしね。
あと逆チョコも凄かった…うん、おっけー。私は可愛い!ならナルシストでも良いじゃない!本当のことなんだもん、仕方ない。
ふふふ、今年の夏は鏡音リン警報発令だわ。
鏡音リンに近寄るどころか姿を見ただけでウイルスに感染、でもって私に首ったけに!当然ね。早く気象庁に掛け合わなくちゃ。
「あ、そうだリンちゃん」
「う?」
何かを思い出したようなミクちゃん。
私はガッツポーズをしたままくるりとそちらを向いた。
「リンちゃんって、実は好きな人いるの?」
「え」
「いや、だってあんなに告白されてるのに一人もOK出さないし、誰かいるのかなって」
鋭い、と言うべきか。
私は少しだけ笑顔を浮かべた。
―――でもミクちゃんならいつか気付くって思ってた。
私には、文字通り、探している人がいる。
運命の相手―――多分その言葉のままの意味がぴったりの、彼。
どこかにいるのは分かってる。でもどこにいるのかずっと分からなくて、私はずっと探すしかない。
じゃあ、私は恋をしているか。その答えは、イイエ。
これが恋なのかどうなのか今の私にはわからない。或は別の何かなのかもしれない。
なにしろ、私は彼と会ったことさえないんだもの。姿を見たこともなければ、文字での情報さえ知らない。名前だって知らない。
私が知る彼というのは一つだけ。
「へへー、じゃあミクちゃんにだけ教えてあげる」
くるっ、と身を翻して見上げた空の色は、青。
私の目の色。そしてきっと、彼の目もこの色なんだと思う。
根拠はなくても、意外と確信って持てるものなんだって初めて知った。
さあ、あなたはどこにいるのでしょうか。
どこにいても絶対、見つけてあげる。
「あのね―――歌が聞こえたの」
「鏡音、何それ」
怪訝な顔でこちらを見るクオに、俺は首に巻いたマフラーを少し引っ張って見せた。
「何って、マフラー」
「今夏なんだけど」
「ん?そんなのわかってるっつーの。理由があんの、理由が」
クエスチョンマークを浮かべたクオに、俺は説明をした。
「これなら首元が隠れるだろ?」
「うん」
「鎖骨も隠せれば道行く女が俺に惹かれなくても済むわけだ」
「…」
我ながら完璧!
俺、つまり鏡音レンは完璧な美男子だ。特に夏はやばい、何たって薄着なんだから。
皆が鼻血吹いて倒れて、犯罪者にされたりしたらたまんないし。
あなたは彼女達の心を盗みました!なんて、あれ、それ意外と良くね?
「それルパン三世のパクり」
「違うし、俺のオリジナルだし」
「ああそう。JASRACに電話してみるよ」
「サーセン」
飽くまで冷静に返してくるクオ。
とりあえずなにかいちゃもんを付けるつもりでそちらに体を向けて―――
「うわっ!」
突然目を射た太陽の光。
その眩しさに思わず声をあげた。
瞼の裏に焼き付くような閃光。
それは俺に何かを思い出させる。―――何を?
記憶の中を検索する。…ヒットなし。
ってことは、と俺は思考回路を違う方に接続した。
思った通り、ヒットあり。
俺が連想したのは、「彼女」のイメージだ。
太陽みたいに輝く金色。その強烈な輝きは今みたいに不意に俺を驚かせる。
でもそこに無いと、俺の世界は色を失ってしまうだろう。
そう、つまりこの世界における俺の働きみたいなものだ。
…会いたいな。
何度考えたかわからない事をぼんやりと思う。
勿論彼女の姿なんて知らない。名前だって知らない。でも、会えば分かる自信はある。
きっと彼女は俺にとても似てるんだろう。いや、外見とか性格とかそんなんじゃなく、もっと根本の所の話だけど。
会えたら埋まるんだろうな、と思う。
この、胸の奥にある満たされない何かが。
淋しいからとかでなく、俺は生まれてからずっとそうだった。
あるはずのものがない。
いるはずの人がいない。
いつでも俺は、はじめからいなかった片割れを探している。
「…鏡音?」
怪訝そうなクオの声に考えるのを止める。
見遣ったクオの不審そうな顔に、思わず苦笑が出そうになった。
うん、らしくない。
こんな、全然事情を知らない奴の前で考える事じゃない、っても事情知ってるのなんて俺と彼女の二人位だろうけど。
「何、クオ。俺に惚れた?」
頬杖をついて、俺はクオに笑いかける。
そんな俺に、クオは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「それはない」
私的ナルシスティックユニゾン ・上
じーざすPのナルシスティックユニゾン、めっちゃ可愛いです!
本当なんだからナルシストでも良いじゃんよ!と思った自分。
…いや現実横に居たらかなりいらっとするだろうけど、思うだけならタダだし。
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