DTM!-EP9-

【メイコのC7】

「お、お、お、おじゃまします!」
「ちょっと散らかってるけど、どうぞ」

カイトはメイコの部屋に初めて入り
女子部屋初体験にカイトの緊張はピークに達していた。

「今、飲み物を用意するね」
「ふぇい!お、お構いなくぅ!」
「あはは、なんだか今日のカイト、面白い」

メイコは部屋を出た。

一人残されたカイト。

部屋の中央に置いているクッションに正座待機。
恐る恐る、部屋中を見回す。

机の上にはデスクトップPCがあり
そして脇には大きめなシンセサイザー。

基本的にはシンプルな部屋だが
カーテンや小物が女の子らしいアイテムがチョイス
されている。

壁のフックには制服がかけられていて
ココでメイコが生活してるのかと思うと
少しばかりイケナイ妄想。

というか、カイトをドキドキさせているのは
室内を包む、なんだか優しい香り。
それがとても女の子らしくて思わず
どっぷり深呼吸。

「あ、深呼吸した」
「エロいわ、エロいよ」

突然の声にドキッとしたが、声が誰かすぐに分かった。
PCのモニターの裏から、黄色い髪の双子がコチラを
覗いているからだ。

「うわっ!ちがっ!って……、ああ、君達が
リンちゃんとレン君だね」

「はじめまして」
「こんにちは」

リンとレンはモニター裏から出てきて
ペコリと挨拶をした。

「あはは……こんにちは。とても良い天気ですねぇ……」
変なところを覗かれて動揺しているところを
なんとかごまかそうとするカイト。

「あ、なんかごまかしてる」
「うん、ごまかしてる」
双子は軽蔑の眼差しでカイトを見る。

「いや、なんか変な誤解をしているようだが
僕は、ほら、あれ、なんつーか……、そう
こう、女の子の部屋を見させてもらって
う~~ん……、そうだ、歌詞!曲の歌詞に
いかそうかなって!男の子が女の子の部屋に
はじめてきたドキドキ感?みたいなヤツを……」

「制服をジーっと見つめて」
「部屋で深呼吸するのが?」

「そんな事言っちゃ、らめぇ~~~!」
女の子座りになり、乙女が恥らうように顔面を両手で覆うカイト。
しかし、この状況をどうにかせねば
メイコに変態同級生と思われかねない。
さて、どうしたものか……。
焦るカイト。

双子はジーっとカイトの方を見ていた。
いや、正確には、カイトの持ってきたお土産の入った
袋を見ているようだった。

「あ……、コレ、もしよければ……どうぞ」
袋の中に入っていたのは来る前に立ち寄った
ケーキ屋さんで買った、バナナ味のバームクーヘン。

双子の目は途端に輝きだした。
机の上に輪切りにされたバームクーヘン一袋を乗せると
二人で協力して袋を破り、むしゃむしゃと
食べ始めた。

「オヤツ!大好き!」
「オヤツ!最高だ!」

「あはは……、そりゃ良かった」

「カイトさん、良い人」
「深呼吸してない。制服見てない」

口の周りをベタベタにニコニコする双子。

とりあえず、賄賂を受け取ってくれた事で
胸を撫で下ろす思いのカイト。

突然ドアが開いて、お盆を持ったメイコが
怖い顔で双子を睨む。

「ちょっと……あんたたち。なんでそんなに
お行儀が~、わ~る~い~……のかな?」

顔面蒼白、双子はそろって怯える。

「カイトさんが……」
「すぐ、食べろって言ったの」

双子はカイトに目線を送る。

「ああ、ち、ちょっと味見してくれないかなって?
頼んだんだよ!あはは・・・…」

「あはは……」
「あはは……」

「もう!だからって、だめだよお行儀悪くしてちゃ!
ごめんね、カイト」

「いやいや、可愛いね、リンちゃんとレン君」

「いたずらっ子でね~。ホント困っちゃう」

まるで、本当のお姉さんみたいだなと
カイトは思った。

「カイトは飲み物、コー……」

双子はぎょっとした。
まさか、客前でコーラを出す気かと。
メイコはコーラを飲むと酒乱のようになる
特異体質なのだ。そうなると誰も手が出せない。

「カイトは飲み物、コーヒーで良かった?」
「ああ、サンキュー」

安堵の呼吸を漏らす双子に
カイトは「?」の文字を顔に浮かべた。


そこからは幾つかの雑談をしてから
メイコの製作中の楽曲を聴かせて貰う。
PCで全ての演奏をしているカイトと違って
メイコはシンセサイザーを使っており
PCとは違うシンセの出音の迫力に
カイトは感動したのだが、メイコは逆に
PCで編集できるカイトの方がすごいと言った。

ピアノを弾ける彼女はシンセを演奏して
双子達はそれに合わせて、歌を重ねる。

綺麗なコード進行をピアノで演奏するのだが
リンとレンの声が突然止まる。

「実は、この先のメロディが、上手く作れないの」
やや少し前から手がけてる曲なのだが
どうも上手く、メロディと展開が定まらないらしい。

それでもリンとレンはミクとは違う声の強さがあり
思わず唸ってしまった。

「そりゃそうよ。なんたって二人分だもん」
いつの間にかカイトの後に、ルカが来ていた。

「カイトにエロい事されてないか心配できちゃった」
ぺろりと舌を出すルカ。

「あはは、ナイナイ。そんな事」
笑って手を振るメイコ。

「あはは……」
深呼吸と制服の件は、とりあえず双子とカイトの
秘密であった。

あっという間に時間は過ぎ
カイトとルカはメイコの家を後に。
メイコは玄関先で手を振っていた。


メイコは冷蔵庫からコーラを持ち出し
部屋に戻ると、机の縁で双子は仲良く並び
座っていた。
ぷしゅっ!とリングプルを押してコーラを一口。
足をぶらぶらさせていたリンが唐突に言った。

「マスターは、カイトの事が好きなの?」

メイコは勢いよくレンにコーラを噴出した。
べチョべチョになったレンは半べそになり
メイコは慌ててハンカチで拭う。

「ちょっ!突然変な事言わないで」

「だって、あんな楽しそうなマスター、初めて見たんだもん」
「ぐすん……。うん、マスター、楽しそうだった。ぐすん」

「あ~……、そういう風に見えちゃうかな、やっぱ……」

「くっついちゃえば?カイトと。
ちょっちエロいかもしんないけど……
多分、イイ奴だよ」

「そうだね……良い人だよね。
……、何となくカイトの
気持ち―――わかってるんだけどね……。
それに応える事は―――
今はまだ、出来ないよ。友情も大事なんだ……」

「ふ~ん……。友情ね……」
「ぐすん、着替えてくる……」

何となく双子はメイコの言葉に
納得はしていないようで
レンはモニターの裏側に行った。


「本当は……メロディも展開も、思いついているんでしょ?」
リンが言うと、メイコは無言でシンセの電源を入れる。

先程演奏した曲を弾き始め
作った所まで演奏して止めた。

着替えたレンが出てきてリンの隣に座る。

メイコがゆっくりと音を試しながら和音を奏でるのだが
どうも、物悲しい。

「これしか……思いつかないわ」
C7のコードは何となく煌びやかだけれど
胸に何か秘めたようなイメージだ。

「いっそ、最初から作り直せたらね」

レンがそう言うとリンが首を振る。

「何も無かった事にするなんて
そっちの方が悲しいよ」

三人はすっかり黙り込んでしまった。

言葉の休符はどうにも収まりが悪い時がある。

そしてまた毎日、出来たところまでメイコは
鍵盤を演奏し直すのだ。


【終わり】

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

DTM! -EP9-

ちょっとしんみり。
カイト君、ドキドキ女子部屋突入編です。

閲覧数:295

投稿日:2013/03/24 00:27:22

文字数:3,074文字

カテゴリ:小説

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