「あれが……!」
坂の一番高い場所から島の北東方向を見てみると、グレー色のミンクス5体が見事な編隊飛行で近づいてくる。
整然としたフォトンライドの白光を曳きながら、真一文字に飛ぶさきに――敵のVOC数体に包囲されかけているリアーシェがいる!
 『止まれぇぇぇぇ!!』
ズガガガガガ――!!
その進路に小隊長のリオン&レオンが飛び出して妨害を計ろうとして――
ゴンッ
グレーミンクス編隊の2体目が柄の長い斧のような物を構える、と同時に編隊がそれぞれの方向にバラバラになって――
 『ぬうぅぅぅぅっ!!』
そいつが小隊長の銃撃の真正面から飛行速度のままで地面を滑って――
ズゴガンッ!!
 『――――っぁ!』
小隊長の機体の左腰部分からすくい上げるように斧を振り上げた。
ブンッ――!
 『小隊長!?!』
 『きゃあああ!! 小隊長!!』
小隊長の機体が宙を飛んで――
ドバボォゥゥン!
 『嘘や! おっさんが! ありえへん!』
海に叩き込まれてしまって――後には水柱だけが残って――
ドン! ダン!
 『!』
 『し、柴姉! 気をつけて! 3体いるよ!』
 『んなっ……こっの、ちょこざいなぁー!』
ブンッ!
リアーシェはすぐ側に着地したミンクスに殴りかかる。
ズゥン!
だけど、当たらない。
グレーミンクスはフォトンライドの推進力を利用して素早いスライド移動を繰り返す。
 『くっ、このっ、ちょこまかとっ――』
ガァン!
 『なっ』
ドガガガガ!
 『うぎゃああ!』
と、まだ着地していなかった3体目が空中からリアーシェのリオン&レオンの右肩を蹴り飛ばす。
後方からの突然の攻撃にバランスを崩してリアーシェの機体が前のめりに地面を滑っていく。
ドン! ダン!
 『うっあ! くっそ……』
滑りきった先で、頭と左手をそれぞれのミンクスで踏みつけられて押さえ込まれてしまう。
 『柴姉から離れろっ! バカァー!』
ダダンッ! ダダンッ!
 『アホっ……今撃ったら――』
――見つかってしまう!
ブンッ!
 『え……!? 嘘っ!?』
きっと探していたのだろう。初めに編隊を分けたときに、コースを逸れたと思った最後の1体が――
シャイナが隠れている密林目掛けて飛び込んで――
 『―――――』
ニオン収束性のセイバーを伸ばす。
伸ばす伸ばす伸ばす伸ばす――刺す。
突き―刺さる――!
シャイナ! シャイナが!
 (嫌)
私の大嫌いな物が何かを言った。
 『―――――』
でも、聞こえなくて。
私は、きっと叫んでいて。
それさえも、明確に認識できなくて。
叫ぶ。
叫ぶ叫ぶ。
叫ぶ叫ぶ叫ぶ叫ぶ――――嫌!!
 『嫌ァァァァァ!!!』
ギャァン!!
――何かが
――青白く弾けて

 『あ……れ……? あたし、生きてる……? え……!?』
シャイナの呆然とした声が聞こえる。
 「…………え」
立っている。私は地面に立っている。
 『――失――』
声。
叫び声。
音。
同じ音、繰り返す音。
 「ここは……? はっ、シャイナ!? 大丈夫!?」
 『だ、大丈夫だけど……アル姉!! いつから飛べるようになったの!?』
 「ち、違うのよ! わ、私はなにも――!」
 『――嫌――』
前方の光景を見てしまった。
グレーのミンクスの頭部が直近でそこにあった。
――殺される
そう思った時。
グラ……。
 「え……?」
ドンッ……。
倒れた。
崩れるように私の目の前で、それが倒れた。
 『すごい! アル姉! 何したの!』
 「私が……? 違う! 私じゃない、これは――」
 『――嫌――』
メインフレームの左下の専用ワイプ。
いつもブラックの背景に「NO IMAGE」の文字が点灯しているだけだったのに。
そこに。
緑の髪をした、女の子が。
――立っていた。
―――――――
そう、あなたが。
ミンクス――
 「モジュール!? どうして、絶対構成されないと思っていたのに!!」
 『え!? アル姉、モジュール構成されたのっ!? 嘘っ、それって凄い!』
 「ミンクス! 貴方、何をし――」
ダンッ――!
急に慣性が襲い掛かってくる。
モニターの景色が物凄い速度で流れていく!
!!
バギィン!
 『うおっ! なんや!』
 「っっ!!」
何かが起こっている。
把握しないと、認識しないと。
油断していた所で慣性に右に左に揺さぶられて、頭がグラグラしているけど。生きているんだから!
モニターを見なさい! アル!
――リアーシェのリオン&レオンが倒れている。
――それの頭部を踏みつけていたミンクスが吹き飛んでいく。
――!
ガガン! ガン! ガン!
何かの衝撃音と共にメインフレームのシールド侵食率の青いバーに赤いバーが少しづつ蓄積していく。機体ダメージ!
攻撃を受けている! 動かなければ!
だけど。
ガチッ!
 「!」
動かない。
何故、と思った瞬間に。
サアッ……!
 「うわっ……!」
機体全体が青白く光って――そんなことはないはずなのに――何かが。
ヒヒュン! ヒュン! ヒヒュン!
飛び出していく!
 『1、2、3……すごい! 12本もニオンレーザー撃てるなんて! アル姉すごいよ!』
 『な、な、なんやてぇ!? あのアルルがニオン線使えるやて!? しかも12本って!?』
 「っ! アルルって言わないで!」
私の名前は「アル」だけど、そのあとにもう一つ「ル」が続くから、親しい人は悪戯でそれを繋げて私を呼ぶ事がある。
子供っぽいからやめて欲しいと思うのだけれど――っと、今はそれどころじゃ……。
ヴァン! グア! グォォ!
グレーのミンクスが私の機体から放たれた12本のレーザーをありえないような動きで空中を飛び回り、なんとかかわそうとしている。
 『な、長い! どんだけ空中抵抗下げてるねん! もう13秒以上空気中に固定化できとるでっ!』
 『すごいすごいすごい~! アル姉すごいよ!』
シャイナが興奮してワイプの向こうで飛び跳ねてるけど、私はよくわからなくて。
 「ニオン線が……どうして。兵装なんて積んでないのに」
そう、そうなのだ。
私はヴォーカリオンの動かし方が下手で。今日も整備長に頼んで武器は全部外してもらってから歩行訓練に向かっていたのに。
あるとすればこの背中で、飛行に必要なフォトンライドだけなのに。
ビシィッ!
 『命中っ!』
パキーーン!
青白いヴォージック構成式がブレイクしていく。
 『敵さんもなかなかやね。17秒ぐらいもったんかいね?』
 『正確にいうと16,78秒かな。それぐらいフォトンライドを連続使用できてるんだから……そりゃあたし達じゃ
敵わないよね』
 『そっちのミンクスのホーミング性能も凄かったな! で、だ。悪いんだが、ちょっと助けてくれないか!』
 『後ろのうるさい奴を…………誰でもいいから落としてくれ!』
上空の彼方。かなり遠いけど、クレオ准尉のカイトギアスがグレーミンクスに追われているのが確認できた。
執拗に後ろに付きまといながら銃撃を浴びせかけている。
 『こちとら燃料がギリギリで……っ! 速度で振り切れ――っぶねぇな、おい! 振り切れねぇんだ!』
 『だいぶヤバそうやね、シャイナいけそか?』
 『届くとは思うけど、当たるかどうかは……』
 『クレオのあんちゃんよ! キツいのは分かるんやけど、こっちに戻ってこれるか!?』
 『――そいつはっ! うおわっ、無茶な注文かもな! こっちはもう、っ! 侵食率7割いってるんでね!』
侵食率7割……シールドとしてはもうわりとギリギリだ。
 『――守――』
 「また……!」
ミンクスの両腕が一人でに動き出して――思わず操作レバーを確かめるけどやっぱり動かなくて――前方に突き出すようにして構えると。
サアッ……!
また機体が青白い光を放つ。
ギャン!
 『おおっ、なんやあれは?』
 『新兵装!? そんな話聞いてないんだけど!?』
はるか遠くのグレーミンクスの周囲から突然、ニオン線の帯がいくつもいくつも現れて。それを――
――絡めとる!
 『!!』
ニオン線はたしかな拘束力をもっているらしく、グレーミンクスはなす術も無く海上に落下していく。
そして――
 「……………」
落下していくグレーミンクスをモニターで追っていると――私の制御でそうしてるわけではないけど――小隊長を海に放り投げたミンクスがこちらを静かに見ていた。
 『……………』
 (彼は……エースクラス)
確証なんてないのに、それに相手の技量が計れるほど戦場にも出ていない癖に。
それだけが――わかってしまう!
 「……………」
背筋が震えた。
死闘に対する期待感? とんでもない。
雨で冷やされた気温の性? そんなものは感じない。
殺されるかもしれないという恐怖? それに近い物。
ただ、純粋に。
怖い。
 『あいつ、許さへん……。ウチがやるけんみんなは下がっといて。いや、やらせてぇな、腹の虫がおさまらへん』
 『そんなのダメだよっ! 小隊長の恨み晴らすっていうんならあたしもやるよっ!』
 『アホかっ! シャイナが戦ったところでいい的になるだけやろが!』
 『柴姉だって一人じゃ無茶だよ! 見たでしょ! 小隊長が簡単にやられちゃったんだよ!?』
 『見とったわい! やけどあれはウチが動けへんかったから……。全部ウチの性やねん! やからさせてぇな!』
 『絶っっっ対! ダメ! 柴姉のシールドもう5割切ってるんだよ!? あたしはまだ無傷だから、重装甲でなんとか引きつけて、それで……』
 『ロクに動けへん奴が重装甲もなにもあるかいな!』
 『柴姉ぇ!?』
 『何や!?』 
 『何よ!?』
~~~~っ!
 『アルル! どないや!?』
 『アル姉! 言ってやってよ!?』
 「……………」
後ろでそんなやり取りがあったのだとしても。私はグレーミンクスの視線から目を外せなくて。
 「……逃げよう」
 『あ?』
 『へ?』
 「逃げよう。私達じゃ勝てないよ……それどころか逃げられるかさえ……」
 『な、何言ってるの!?! 小隊長やられちゃったんだよ!?』
 『小隊長どころやあらせんぞ!? ウチらが踏ん張らな工場(こうば)のおっちゃんとかクリスのひょろ兄とか
みんな捕まるんやで!?』
 「分かってる! 分かってるから……だからその上で逃げないといけないって言ってるのよ!」
 『どうして!? 分かってるんならそれこそどうしてなの!?』
 「私達全員は逃げられないからよっ!!」
……………。
そう。そうなのだ。
あのグレーのミンクスから、私達3人全員逃げられる可能性は限りなく低い。
一番防御があるのはシャイナだけど、ミンクスの速度の前では絶対に逃げられない。
リアーシェはシャイナより機動があり、まだ何とかシールドが5割あるから3発くらいは耐えられるかもしれない。
でも、ここから一番近いバランスィアの基地までの距離を、動きにくい海上で3発以内の被弾で走れるかといえば――
速度で一番可能性があるのは私だけど、シールドは8割しかない。これだと多分一撃で落とされる。
それよりもなによりも機体が制御不能なのだ、地上を歩く事もできない癖にそれこそ飛行するなんて――
 「無理よ……」
 『……んなアホな』
 『……………』
ザザザザァァ!
雨の音。雨の音。
熱帯特有の激しいスコールが一面に降り注いでる音。
――決まっていたんだ。
この戦闘で敗北することは、きっと決まっていたんだ。
そう、彼らがここに来た時点で。
島は陥落していたんだ。
ごくごく簡単に。家のドアをくぐるかのように。
島は堕とされたんだ。
ゴンッ!
 「!」
グレーミンクスが柄の長い斧を構え直すと。
バシャン! バシャン!
 『来るで!』
まるで川の様になってしまった地面から盛大に飛沫を吹き上げながら。
一歩。一歩と。
 『~~!! 私がやるから逃げてぇぇぇ!!』
 「シャイナ!! 駄目ぇ!!」
耐え切れなくなったシャイナが主砲をグレーミンクスに向けるのだけれど――
もうすでに――
グレーミンクスは私の左をすり抜けていて――
斧を――
 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
 『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
思考が蒼く弾けた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

高次情報電詩戦記VOCALION #3

ピアプロコラボV-styleへと参加するに当たって、主催のびぃとマン☆さんの楽曲「Eternity」からのインスピレーションで書き上げたストーリーです。
シリーズ化の予定は本当はなかったのですが……自分への課題提起の為に書き上げてみようと決意しました。

閲覧数:156

投稿日:2010/08/03 23:55:51

文字数:5,101文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました