「……あれ?」
 死んだかと思ったが、痛くも痒くもなかったので、俺は思わずうずくまった姿勢をもとに戻そうとした。
 だが、何かが頭に当たってできなかった。
 俺の頭上数センチのところに天井が迫っているようだ。重さから考えると、多分土砂がさらにその上に積もっているんだろう。
 ――おいおい、まさか生き埋めってやつか?
 もしこのまま誰にも発見されなかったら……!

 血の気が退いた。

「誰か! ここから出してくれ!」
 ゴトッ。俺が叫ぶと同時に、頭上で何かが動く音がした。
 それに続いて今度は天井板が外される。まだ止まない雨がざぁっと顔にかかった。
「ルコ! 無事か?」
「て、テッド!」
「ほら、早く! また崩落が来たら危ないよ!」
 テッドが俺に手を差し伸べる。俺はその手を取り、瓦礫の上に立った。
「ふう、危うく死ぬところだったぜ……ありが――」
「――っ!」
 俺がお礼を言おうとすると、テッドは突然顔をしかめてうずくまった。
「お、おい! どうした!?」
 まさか俺を助けようとして怪我とか――!
「――しん――って……」
「え?」
「――救心取って」
「はァァ!?」
 単に疲れただけかよっ! 心配して損したぜ!
「よい――っしょ、ホラ」
 まだ崩れそうになかったので、自分が出てきた穴からフランスパンと救心を引き上げて、テッドに渡す。
「ありがとう」
 テッドはそれを受け取り、中から救心を取り出すと、自分で持ってきていたらしい十六茶で一錠流し込んだ。
「ふう……」
 テッドのドリルがぎゅるんと回り、姿がテトさんに戻る。
「フランスパンのほうは……土埃まみれで食べられそうにないな」
「さ、サーセン」
「いや、いいんだよ。君が無事だったんだから」
 ……あれ?
「テトさん、今度はテッドにならないんですか?」
「救心飲んでからしばらくは大丈夫だ」
 そうなのか。やっぱりナゾだな……。
「すまなかったな。私のお使いなんかのためにこんな事故に巻き込んでしまって……」
 テトさんが目を伏せる。やっぱりテッドとは違う、よな?
「いやいやいやいや、テトさんのせいじゃないっスよ」
 とりあえずリツはあとでシメておこう。
「いいや。いつも君ばかりこき使って、やりすぎたよ」
「それはテッドっしょ」
「要するに僕じゃないか」
「えっ!?」
「何で驚くんだ? とっくに知ってることじゃないか」
「いや……」
 俺は口ごもった。
「まったく、君は実にバカだな。他のみんなはだいたい僕がテッドであることも受け入れてくれているのに――君だけだろう。そんな態度を取るのは」
「だってテトさんとテッドってキャラ全然違うし、そりゃあ、モトは同じって言っても、やっぱり別っていうか」
 あー、何言おうとしてんだろ、俺。
「キャラが違う……?」
 キョトンとするテトさん。
「あまり言われたことがないけど……」
「またまたぁ、テトさんは他の人にお使い無理やり押し付けたりとかしないっしょ。俺にだけ押し付けるってことは、やっぱりテッドとキャラが違――」
 その瞬間、俺はふと別の可能性に思い当った。
「――うか、それか俺の前だと――」
 それを聞いて、テトさんははっとした表情で、あわててそっぽを向いた。
「それ以上言うな、バカ」
 いつの間にか止んでいた雨。雲の隙間から差し込む光に、テトさんの真っ赤な耳が照らされていた。



 数日後。
「――で、また押し付けられたのか」
 例によりフランスパンと救心の入ったビニール袋を提げて歩いていると、デフォ子さんに呼び止められた。
「まったく、なんなんスかね? テトさんとテッドの性格が違うわけじゃなくて、俺の前だけあんな鬼畜キャラになるとしたら余計ナゾっスよ。俺なんか嫌われるようなことしたっけ?」
 で、相変わらずデフォ子さんにグチってる俺。
「その事だがな。――テトのドリルは、ネズミに会ったときだけではなく、一度激怒した時にも回したことがある。さすがにテッドになるほどではなかったが」
「どーいう意味っスか?」
「救心で第一形態に戻ることといい、テトの第二形態になる条件は本来『ネズミを見る』ではない可能性がある」
 なんだか今更だな。
「おそらく本来の条件は心拍数の急激な上昇。急激な運動には男性、持続的な活動には女性の心臓が適しているから、キメラとしては妥当な設計だ」
「うーん、何か難しっスねー」
 ってか説明のレベルが高すぎる。デフォ子さん、俺が小学生ってこと、忘れてねーか?
「しかし、この仮説だとルコの声でテトがテッドになる理由が説明できない。ただネズミが苦手なだけならば、ルコの声から『日勝ゆう』『ピカチュウ』と連想してそのレベルまで心拍数が上がることは考えにくい」
 よし、なんとなく言いたいことがわかった。
「つまりテトさんは――」

「『めちゃくちゃ』ネズミが嫌いなんスね!」

「君は実にバカだな……」

 真後ろに迫る暗黒オーラに俺は振り返った。
「テ、テッド……」
「十二秒遅刻。さーて、写真まくぞー」
「あ、ちょっ! デフォ子さんも止めてください!」
「今のはルコが悪い」

 喜々とした表情で俺の秘蔵写真をまこうとするテッドに俺はしがみついた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【欲音ルコ】この声は君にとどかない? 後編【重音テト・重音テッド】

と、言うことでいかがだったでしょうか?
ツンデレのテト/テッドと、それに気付かないルコというつもりで書きました。
性別を超えた恋愛を書きたかったのですが、いい加減BL、GLも陳腐化してきたので、
もうこの二人でやるしかないと。
最終的に恋愛ではなくいい先輩後輩関係に落ち着きましたが;
感想お待ちしてます!

閲覧数:370

投稿日:2010/03/19 14:41:43

文字数:2,161文字

カテゴリ:小説

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  • 錫果

    錫果

    ご意見・ご感想

    はじめまして。こっそり読んでいた者ですが、“感想お待ちしてます”の文字に釣られまして…←

    テト/テッドの第一/第二形態設定の使い方が凄くお上手だと思います!
    私自身は普段テトもテッドも別々に存在するものとして(CP的に自分に都合良く)考えることが多いのですが
    こういう解釈もアリだなぁ(というか寧ろ凄く美味しい)と思いました。
    もちろんルコも可愛かったですし、デフォ子さんやリツも上手く話に絡んでいて…楽しく読ませて頂きました。
    “恋愛”とも“先輩後輩”とも取れる、素敵な作品を有難うございました。

    ブックマーク頂いていきま……えっと、実は前編を読んだ時から即座に頂いてました(笑)
    それでは、乱文・長文失礼しました。

    2010/03/20 11:24:15

    • 上尾つぐみ

      上尾つぐみ

      >錫果さん
      こんにちは。はじめまして。感想ありがとうございます!

      テトとテッドは別キャラ扱いの方が多いみたいですね。
      私はがくぽの曲を探していて→Under the darkness合わせてみた発見→先に個別の原曲聞いとくか の、流れで
      発祥動画から入ったので(なので作中でも「あばばば眼鏡」とか言っちゃってますがw)
      私の中では第二形態設定です。
      本当においしい設定ですよね。恋愛モノの他に、美少女ヒロイン物とかでも
      ヒロインにVOCALOID女性陣、敵の中ボスにテッドを据えて、ミクのクラスメイトにテトとすると、後半戦でピンチが演出できそうです。
      楽しく読めたとのこと、何よりです。感想&ブックマークありがとうございました!

      2010/03/21 20:59:05

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