ボク――――七瀬黒は変な超能力みたいなモノをもっていた。

 物心ついたときには母親の視力が失われていた。
 「ママはどうして目が見えないの?」
 「それは…黒と目を合わせちゃったからなんだ」
 ある日父親に聞いたことがあった。
 「ボク?」
 「うん、黒の目はね、他の人と合わせるとその人の目が見えなくなっちゃうみたいなんだ」
 生まれた時に出産に立ち会ってくれた病院の人の中にも、ボクと目を合わせて目が見えなくなった人が何人かいたらしい。
 「だからパパはボクを見てくれないの?」
 「見てるよ?黒が頑張ったり笑ったりしてるところ。大丈夫、ちゃあんと見てるから」
 「えへへ♪」
 
 ボクだって大切な人の視力を奪ったりなんかしたくない。
 そんなことになるくらいなら目を見て話せないくらい大したことじゃなかった。


 
 『七瀬さん、ハイ、元気な男の子ですねー!!黒くーん、お母さんだよー?』
 『黒って変な名前だと思いませんか?』
 『変わってるとは思いますけど…』
 『白と迷ったんですけどね、夫が黒の方がかっこいいって言うので…』
 『変わってますけどかっこいいじゃないですか、黒くん』
 『うふふ、そうかもですね♪』




 『………………これ、なんですか?』


 『あ、それは……どうしてかわからないんですが黒くんと目を合わせた医師や看護師はみんな目が見えなくなっちゃうんです』
 『は……?』
 『だから念のために、その…目隠しを…生まれたばかりの子に目隠しなんてどうかしてるってわかってます。でもいくら検査してもなんの異常もないんです。でも無意識に目を合わせちゃうだろうから…』
 『……そうですか…』
 『はい……っ!!!七瀬さん何してるんですか!!!目があったら見えなくな…あぁ、寝てた…』
 『目が見えなくなってもいいです』
 『え?』
 『もし見えなくなっても、私はこの子と、目を合わせたいです。お互いを見たいです。もちろんこの子の成長した姿だって死ぬほど見たいです。でも今この子とちゃんと出会わなかったら私は一生後悔します』
 『この後だっていつでも見れます!!』
 『でもっ、合わせなきゃ!!母親と目を合わせたことのない子なんて悲しすぎる!!それじゃこの子はいつまでも≪生まれられない≫んです!!』
 『七瀬さん…』
 『私は…母に会ったことがないんです』
 『亡くなられて…?』
 『はい、難産だったらしくて…そんな子はいくらでもいることくらいわかってたんです。でも私は…母に会ったこともしゃべったことも、顔を見たこともないことをとても寂しく辛く感じてました…子供は…きっと生まれて初めてお母さんを見て安心した時に≪生まれられる≫んです。私は夫と出会うまで1度も心の底から安心したことがありませんでした。≪生まれた≫心地がしたことがありませんでした。そんな…≪生まれられない≫なんて悲しくて辛い思いなんてこの子にさせたくないんです。本人は覚えてないかもしれません、でもきっと心の奥底はいつもぽかぽかしてくれてると思うんです』


 『んー…あぅ?』

 『あ…っ』
 
 
 『始めまして、黒』
 『えやぁ!』

 『生まれてきてくれてありがとう、黒―――――――……』





 「どうかした?クロくん」
 「あ、いいえぇなんでも♪どう話したもんかと思いまして」
 「ゆっくりでいいよ、整理がついたら言ってくれる?」
 「はい、ありがとうございまーす☆」



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ボクが≪生まれた≫日

『目を潰す』話の続きです
過去編その1です

クロくんよろしくですm(_ _)m

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投稿日:2013/02/22 22:57:24

文字数:1,454文字

カテゴリ:小説

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