「・・・・・・雑音・・・・・・・・・・・・。」
 目の前で涙を流す雑音に、どんな声をかけたらいいか。 
 それで迷っている。
 なんて・・・・・・なんて言えば・・・・・・。
 雑音は、必死に涙をこらえながら、あたしに何か言おうとした。
 「ネル・・・・・・わたしは・・・・・・。」
 だけど、言葉が続かない。
 「ほんとう・・・・・・は、戦闘用で・・・・・・。」
 戦闘用。
 本当にそうかもしれない。
 ミクオと戦っていた雑音は、人やあたしが絶対にできない、想像すらできないことをやってのけた。
 あたし達とは、違う。
 「雑音・・・・・・もう・・・・・いいよ・・・・・・。」
 苦しそうに言い続ける雑音を、あたしは、見ていられない・・・・・・。
 「今までに、今までに何人も人を・・・・・・!!」
 雑音の肩ががくがくと上下にゆれた。
 死にそうだった。それでも雑音は言おうとすることを止めない。
 「こ、こんなこと、ネルに知られたら、嫌われると思って、だから・・・・・・!」
 「そんなことない!!!」
 あたし無意識に雑音の言葉を遮っていた。
 これは、あたしの本音だ。
 「ふぇ・・・・・・?」
 「あたしは・・・・・・そんなことで雑音をきらったりしない。雑音が元々なんだろうが、あたしは、雑音が・・・好きだから。」
 雑音と同じ目線にしゃがんで、しっかりと目を見て、言った。
 あたしが、雑音を好きということ。
 本人に向かって、ちゃんと言えた。
 「ほ・・・・・・ほんとうに・・・・・・?」
 「うん。だから・・・・・・雑音・・・・・・泣かないで。」
 あたしはポケットからハンカチを取り出すと、雑音の顔の涙をふき取った。
 もう、雑音の顔が涙で濡れることはなかった。
 「あと、そんな格好してると、風邪引くよ。この前のあたしみたいに。」  
 そう言いながら、今度は着ていたコートを雑音にかけてやった。
 あったかい、黒のロングコート。
 「ネル・・・・・・いいのか?」
 「いいよ。雑音の胸が見えちゃってるじゃん。」
 チラ見したけど・・・ちゃんとボタンまで閉じてやった。
 「さ・・・・・・雑音。立って。もう家に帰ろう。」
 雑音の手をしっかり握って、立ち上がろうとした。 
 だけど、雑音はしゃがんだまま、動かない。
 「雑音・・・・・・。」
 「ネル・・・・・・寒い・・・・・・。」
 「なぁんだ。それなら・・・・・・。」
 あたしはまた雑音と同じ目線になって、そして、
 「こぉすると、あったかいよ。」
 ぎゅっと、抱きしめた。
 雑音も、あたしの背中に手を回して、ぎゅっとしてくれた。 
 あったかい・・・・・・。
 セーターのでもなくて、コートでもなくて、雑音の体温・・・・・・。
 雑音の温もりなんだ・・・・・・。
 「ありがとう。ネル・・・・・・。」
 雑音が耳元でささやいた。
 「わたしも、ネルのこと、大好きだ・・・・・・。」 
 あたしは動けなかった。 
 だって、いつまでもこうしていたいから。
 ずっと雑音の温もりを感じていたかったから・・・・・・。
 雑音の体、柔らかくて、気持ちいい・・・・・・。
 何より、雑音に好きって言ってもらえて、すごくうれしい。
 もう離したくない・・・・・・。
 「ネル・・・。」
 「ん・・・・・・?」
 「わたしを・・・・・・見てくれ。」 
 何かと思って雑音と向き合った。
 深紅の瞳があたしの目を見つめていた。
 顔が、ゆっくりと近づいてきた・・・・・・。 
 
 なるほどね・・・・・・いいよ雑音・・・・・・来て。
 
 次の瞬間、雑音の唇が、あたしの唇と重なった。
 甘酸っぱい・・・・・・。
 ・・・・・・雑音の味、かな・・・・・・。
 なんだか、幸せな気分になった。 
 今まであたしと雑音の間にあったものが、全部取り払われて、ありがちな表現だけど、二人の気持ちが一つに、って感じかな。
 そして、ゆっくりと、雑音の顔が離れていった。 
 「・・・・・・帰ろう。」
 「・・・・・・うん。」
 あたし達二人は、ゆっくり立ち上がった。
 手を握って。
 そのとき、夜空に一筋の光の線が通っていった。
 「あ!雑音、今の見た?!」
 「え、なんだ?」 
 「流れ星だよ!」
 夜空を指差すと、もう一度、流れ星がきらめいた。
 「あ、ホラホラ!」
 「ほんとだ!」
 「あ、また!!」
 「きれいだな・・・・・・。」
 二人だけの公園。二人だけの夜空。二人だけの流れ星。
 そして、二人だけの、想い。
 ロマンチックな、二人だけの世界。
 最初はどうなることかと思ったけど、こうなれて、本当に良かった。
 雑音に本当の気持ちを伝えられたんだ。
 言葉じゃない。言葉なんかいらない。
 気持ちさえあれば、それは相手に自然に伝わる。
 この・・・・・・あたしと雑音のように。
 あたし達は、手を繋ぎあって、また、星空を眺め続けた。
 
 雑音・・・・・・好きだよ。ずっと。
 
 
 






















 冷たく体を覆いつくし、重く体に圧し掛かる。
 これは、何であろうか。この感覚である。
 直に感じるものではない。
 
 それは、空気。 
 
 それは、状況。
 
 それは、質感。
 
 それは、産声。
 
 それは、感情。
 
 それは、哀願。
 
 それは、彼女。
 
 それは、目前。 
 
 私の目前である。
 この彼女の。
 コードやケーブルという、実体のある無機質な物に、体を覆われ、
 鉄のベッドへと縛り付けられている。 
 それが、私に覆いつくし、圧し掛かるものの正体。
 黒々とした空気を生み出し。
 不可思議な状況へ陥り。
 悪寒の質感を漂わせ。 
 生を求め産声を上げ。
 ただひたすら哀願し。
 彼女はここに在る。
 私の目前で。
 私の目前の彼女は一人。
 私の右隣の彼女は一人。
 私の左隣の彼女は一人。 
 いずれも同じ。同じ経緯でここへ至った。
 一度死に、蘇った。
 何者かの手によって。
 以前死に、蘇った彼の者のように。
 彼女達も、また蘇る。
 来るべき日のために。
 

 世ニ生ヲ欲セズ 黄泉ニ死ヲ欲ス
 
 ナオ 死セルコト叶ワズ

 生ノミ与エラレン
 
 生ノ義 杳トシテ知レズ

 我ニ 生ノミ在リ
 

 左隣の赤い髪の彼女の指先が、仄かに生を示した。
 まだ生きいてるという事実。
 そして、生を欲するのか。
 その生によって、何を知るかも知らずに・・・・・・・。
 
 「いつか・・・・・・ご覧に入れることができるかもしれない・・・・・・博貴先輩に・・・・・・。」


ライセンス

  • 非営利目的に限ります

I for sing and you 第十四話「言葉なんかいらない」

僕ってノーマルカップリングっちゅうのができんのかな~。
ま、いいや。
ネルさんレンのこと完全に眼中に無いですね。

閲覧数:138

投稿日:2010/01/16 11:25:52

文字数:2,772文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました