「は…博士…?」
僕は信じられなかった。
目の前にいるこの人が、まさか箱庭の人間なんて。
「まさか恩人でもあり、神管でもある人間を前にして、裏切るとは言わないよなぁ?」
ごもっともです、博士。
「あいつは堕天だぞ?その最悪の罪人を、箱庭に連れて行く気か?」
「…」
「さぁ言え。おまえは、私の部下だと。あの女なんか、計画にいらないんだよ」
「…」
「言え」
「…」
「言うんだ…神威!」
僕が黙っていると、リリーが怒鳴った。
ちなみにミキはこの状況なのに新聞を読んでいた。
あぅ。僕の新聞。
「裏切ったら…どうなるか分かってるよな、神威?」
その言い方、なんか悪人っぽく聞こえる。
気を取り直して…
僕は、どちらを取る?
片方は、僕を助けてくれて、今や世界のトップにいる者。
もう片方は、堕天だが僕にとってなくてはならない、大切な人。
片方を裏切ったら、僕は殺される。
もう片方を裏切ったら、僕はきっと一生後悔する。
でも…ミキはミクがグミに手を下されていると言った。
ミクが今生きているという保障なんてどこにある?
いや…
でも…それでも、僕は…
「さぁどうする、神威」
「僕は…
僕はミクを、連れて行く」
「ほう…命を捨てると言うのだな?堕天が今生きているはずがないのに」
「いいえ、博士…彼女は、生きていますよ」
「何寝ぼけたことを…一生その口を開けないように私が直接手を下してやる」
リリーはナイフを取り出し、僕に向けた。
「死ね…神威」
リリーは僕に向かってナイフを振り上げた。
だが寸前、
「博士…僕がそう簡単に、死ぬと思いますか?」
「貴様…」
寸前で、僕は隠し持っていたナイフで防いだ。
危ない危ない。ナイフって便利。
「だが、私をなめるな…ナイフ以外にも、刃物は持っている!」
リリーは開いている手で、短剣を僕にふりかざす。
でも僕のほうもなめないでね。
「戦闘中に、お喋りがすぎるんじゃないですか?」
「貴様…もう一本ナイフを…ッ!」
さすがに両方防がれたら結構苦戦するようで、リリーはしばらく攻撃ができない。
お互い隙ができたら攻撃できるというなかなか苦しい状況だ。
「リリー様。私も攻撃に参加いたします」
「おおすまない。どうせだから、今私が防いでいる内に、この裏切者を排除せよ」
「了解」
ミキがどこからかサーベルを取り出して戦闘に参加。
まずい。僕、やばいかも。
とその時、
「あ、神威。ここに居たかぁ」
いつもまにか入り口に、ミクが立っていた。
…なんで僕の家がわかったんだろう。
「「何!?グミはどうしたんだ!!」
二人の気がそれた。
よし、今のうちに。
「ミク、ナイス!とぇりゃっ」
防御を解き、ナイフを使って相手の手元を切り捨てる。
さすがは僕のナイフ、相手の武器を破壊できた。
「「なにぃ!?」」
「ていうかあんたら…神威に、何してんのよ!?」
あ、なんかミクがキレた。
「何を勝手なことを…あんたは堕天という、最悪の罪人のくせに!」
「頭が高い!何も知らぬ奴に、罪人呼ばわりなどされたくはないわ!私を誰とこころえる!」
「何…?」
さずがにこれは僕も驚いた。
どういうことだ?
「我は初代神管、ムーンリット・アート…
世界を初めて作り上げた神、初音ミクよ」
腰が抜けた。
「その偉大な者に牙を向ける気か?」
***
「な…あんたが、初代神管…!?」
「そう…そんな偉大な人に、刃物を向けるとは…」
「でも、そんなに長い時を生きていられるわけが…」
グミはただ腰を抜かすことしかできなかった。
「今まで転生して、世界を見てきたわ」
「転生…」
「世界が再構成された回数なら覚えてるけど、転生した回数は忘れてしまった…」
「…」
グミは、なにがなんだかわからなくなった。
「で、この時代に転生したときに、なんらかの衝撃でそれまでの記憶がなくなった…でも今日やっと思い出せたわ」
「…」
「あんたには感謝しないとね…でもね、私に刃物を向けた以上、そいつは消さないといけないのよ…
しかも、ちょっと知らないうちに計画立ててるみたいだし。それも潰さないとね」
「…そ、んな」
グミは、もう頭になにも入らなくなってきた。
「なんでそんな偉い人が…影神の彼を、好きになったの…?」
「初代神管とはいえ、私も人間…転生してきたなかで、誰かを好きになったのは初めてね」
「それにあんたは…七つの大罪を全て犯したんでしょ…?」
「私が一番上の人間よ…私自身が自分の罪を清めることもできる」
「え…」
「ていうか、あんた『箱庭使者』のくせになんで『神管』が持ってるはずの『第7次元閉鎖空間外操作情報インターフェース』を持ってるの?
神管から盗んだのかしら…」
「あ…」
「それにあんたも、七つの大罪全てを犯してるみたいだし…私が直接、手を下しましょうか」
「あ…あああ…」
ミクは一瞬でグミを切り捨て、理科室を出た。
僕と彼女の不思議な校内探検 14【リレー】
ミクさんの名前「月明かりに照らされた芸術」という変なかんじは気にしない。
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