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32年前の沖田信崇は…甲斐南(かいなん)高校3年生。甘利塾(あまりじゅく)と言われる剣道道場に通っている。甲斐南高校は父、沖田秀秋(おきたひであき)の母校で理事長を務めている。この父親が…沖田化学工業と言われる、地域で有名な大企業を創設し、孤児支援施設「SBCS(通称=サバス)」も起ち上げた。信崇はその施設で8歳まで育ち、その後…秀秋と養子縁組する事となり、後継ぎの御曹司(おんぞうし)として育った。そんな信崇を養子として迎え入れた秀秋を感謝してはいるが…『出生不明な俺を何故養子にしたのか…?俺の出生は…本当に解らないままなのか?…そんな疑問を何時か突き止めたい。』と悶々とした思いを抱えたまま…秀秋の言われる通りの人生を送っていた。
そんな折…剣道部の顧問の先生から、相談を持ち掛けられる。「沖田君は甘利塾に通ってるよね?」「はい。…それが何か?」「…いや、恥ずかしい話なんだが、部の中核(ちゅうかく)を担っていた2年生部員が、大学の受験勉強を理由に辞めちゃってね…。補欠の3年生が2名と、全く経験の無い1年生が3名の事態となった訳だが…。この状況では、大会に出場したとしても…恥を晒(さら)す事になり兼ねない。そこでだ…沖田君には、今回だけ剣道部に入って貰って、大会で力試しをして貰う訳には、出来ないだろうか?…沖田君1人では心許(こころもと)ないなら、甘利塾の仲間も誘っても構わない。我が剣道部の面目を保つ為に…どうか、よろしく頼む!」顧問の先生が頭を下げる…。「…まぁ、そこまで頭を下げられたら、断るのも…無下(むげ)に出来ませんので。解りました!他の塾生にも声を掛けて見ます!」「そうか!…良かった。入部の手続きはして置くから、後のメンバーを頼んだよ!」『やれやれ…。妙な事に巻き込まれたな…。この高校の理事長の息子だから…しょうがないか。』「信崇~!…おぃっす!何かやらかしたか?…長々と先生と、話し込んでたみたいだったけど…。」この男子生徒は…「SBCS」で過ごした時代の親友の原大輔(はらだいすけ)。共に甘利塾に通う身である。「剣道部に入ってくれ、だって…。」「…はぁ~っ?何で今更…?3年とっちゃ~最後の大会前だろ?そんな大事な時期に、のこのこと入部していいのか?」「…3年は補欠で大会には力不足だって…。大輔も手伝ってよ!」「俺なんかでいいのか…?」「後、飯富(いいとみ)と山県(やまがた)、高坂(こうさか)にも声を掛けようと思ってる。」「おっ!面白そうじゃん!俺、入部するわ!奴らには俺から言って置くわ!」「そうしてくれると、助かるよ。」「おぅ!任せな!…じゃぁな!」大輔が自分の教室に戻って行く…。『な~んか…高校生活の最後に楽しみが出来た様な感じだな。このワクワクする感じは…何だろう?』大企業の跡取り息子と見られる事を避けたい思いで…目立たない様に、嫉(ねた)まれない様に、静かに高校生活を送って来た信崇だったが…初めて経験する胸の高鳴り感が抑えられずにいた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

歴史を変える、平和への戦い

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投稿日:2024/03/17 16:42:46

文字数:1,257文字

カテゴリ:小説

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