朝。
窓から降り注ぐ温かな日差しに目を覚まし、それぞれの“今日”が始まろうとしているというのに…。
「ダメな騎士ね!」
と、言ってやりたい気分だった。
何度かゆさゆさと揺さぶってみたが、メイトは起きる気配が無い。どうにかカイトに言って、別の奴に変えてもらおうと思ったが、かわいそうな気もするのでやめておいた。昨日の真面目な態度とは打って変わって、朝から寝坊とは一体どういうことなのだろう。しかも、今が七時や八時ならまだ、許せる。…が、時計は見ればもう十時。流石に許容範囲を超えすぎちゃあいないだろうか。
これでは、一体どっちが姫でどっちが世話係の騎士なのか、分かったものじゃない!
ふぅ、とメイコはため息をついた。
声が出たなら、怒鳴りつけて起こしてやるのだが、あいにく声は出ないので揺さぶってやったり叩いたり、別のもので音を出して起こすしかないのに、中華なべにお玉をぶつけた音を鳴らしたところで彼は、寝返り一つうとうとしない(多分この時点で、声が出ても起こせていないと思われる)。しばらく考えて、メイコは名案を思いついた。ベッドに寝ているんだから、枕でも布団でもひっぺがして…もとい、とってやれば、目を覚ますに違いない!…と、言う考えに至るまで、実に三十分。
思いついたが吉日。善は急げ。と、言うことで、早速メイコは布団をぐっとつかみ、あるだけの力で、布団を引き剥がした。
ドサッバフッドン!ガタン!
「…ぅぅ~んぅ…」
乱暴に腕を振り回して、メイトは小さく声を上げた。
…何故、こんなに物音を立てて布団も取っ払ったのに、コイツは起きないんだ。まして、何故こんな状況になってしまったんだ。
あまり力を入れて力任せにしまたものだから、その反動で力が抜けて、寝返りをうとうとしたメイトの腕が首に引っかかって、前のめりになって…あれ?
これ、まるで、メイコがメイトの寝込みを襲っているように見えないか?
汗の臭いと、メイトの吐息と、自分の心臓の鼓動と、メイトの体温と自分の頬が熱くって、むにゃむにゃと寝言を言っているのが聞こえて、耳が熱くなってきて…。
思わず、メイコはメイトを突き飛ばした。そして、へなへなと床に座り込んで真っ赤になった顔を手で押さえた。突き飛ばされたことで、やっとメイトも目が覚めたらしい。
「…何、やってんですか、姫」
ポカンとしているメイトをにらみつけて、自分の声が出ないのも忘れて心の中でののしって、ぽかぽかと殴りつけてから、理由も教えずに苛立った様子で部屋を出て行った。
「…俺、何か変なこと、したっけか…。酒飲んだっけ…?」
取り残されたメイトは、ただポカンとしているだけだった。
「…どうしたの、めーちゃん。今日はまた一段と…」
一度、メイコの胃袋に消えた料理があったはずの皿の山を見上げて、アリスは苦笑いして、続けた。
「よく食べるね」
その言葉に、メイコはアリスをきっとにらみつけ、横にちゃんと並べておいてあったノートに万年筆を走らせた。
『あのメイトとか言うの、一回崖から突き落としてやりたいわ!!』
「な、何があったの?」
『知らない!!』
何故か、今回は書くスピードが速まっている気がした。
昨日までのメイコとは比べ物にならないほどの量を、メイコはものすごいスピードで胃袋におさめている。苛立つと、すごいパワーなのだな、とアリスは思った。
「――あ、二人とも、ここにいたんだ?」
扉を開けて、カイトが入ってきた。
はっとして、メイコの手が止まった。それをみて、カイトは小さく笑って、
「気にしないで。二人とも、パーティーには興味ある?」
「パーティー?」
二人は顔を見合わせた…。
日時は明日、夜の八時から。
船を出して、会場パーティーを執り行うということだった。そして、その主催はカイトの父、つまりこの国の国王なので、彼が願えば数人巣くらい招待客を増やすことは、大したことではない。だから、どうせなら、と言うことでアリスとメイコを呼んだのだということだった。
勿論、二人ともOKした。
「それじゃあ、ドレス、自分で選んでくれる?二人とも、衣装決められるの、嫌いでしょ」
「わかった。めーちゃん、早速、ドレス選びに行こう!」
こくんと頷き、メイコはアリスに手を引かれ、衣裳部屋へと走っていった。
「…カイト」
一人残されたカイトの名を呼んだのは、メイトだった。
「ん?どうしたの、めーくん」
「…お前、まだそんなふうに呼ぶのかよ」
「だって昔からそうでしょ?」
「ガキ」
呆れたように言うメイトを見てカイトは笑い、メイトはそんなカイトが座っているソファの隣に腰を下ろした。
「で、どうしたの」
「…俺、昨日、酒のんだ?」
「お酒?…俺が知ってる限りでは飲んでないと思うけど」
「…じゃあ、どうして…」
「何、もしかしてなんかやった?」
「殴られて目が覚めた」
「…だって、めーくん、異常に寝起き悪いよ。寝相も。どうせ、何かやっちゃったんだよ」
「…なんか先が思いやられるんだけど」
深くため息をついたメイトを見て、カイトはふと思い出したように言って微笑み、人差し指をピンと立てて、言った。
「そうだ」
不思議そうにメイトがカイトの顔を見て、問う。
「ん?」
「明日、船でパーティーだから」
「…はい?」
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BPM=156
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6.
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じん
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