「―――――できた!」


一人の若い青年が、嬉しそうな声をあげた。
その青年の後ろにいたのは―――――目を閉じている少女。


少女は、様々な色のコードにつながれており、頭の上の白いリボンが目立つ。


「ぉい・・・?あれ?起動するハズなんだけどな・・・って、あ¥わぁっ!?」


その部屋の全てのディスプレイが起動する。


ピク、


と少女が動く。


ゆっくりと開く目。
彼と同じ、水色がかった蒼だ。


「ココハ、何処デスカ・・・?」


鈴を転がすような声で、少女は言う。


「あぁ、ここは俺の家だ」


「イエ・・・」


「俺の名前は蓮。れ・ん。わかったか?」


「レン・・・」


「自分の名前がなんだか分かるか?」


「リン02-05」


「おk」


彼は、嬉しそうに笑った。


それが、私と彼との最初の会話だった。





一年間、私達は一緒に暮らした。


―――――貴方は笑う。
そして私に、喜びを教えた。


『・・・理解不能』


そう言うと彼は、悲しそうに笑った。


―――――貴方は泣く。
そして私に、悲しみを教えた。


『・・・認識、不可―――――』


彼は苦笑するだけで、私の頭を撫でた。
背の高い彼の顔は、逆光でよく見えなかった。


私ノ理解ヲ越エテイル―――――・・・!!!


分からない。
『ココロ』なんて。
覚えられない。
手のひらの水のように、彼が話した『ココロ』の話は、私の頭からスルリと消えていく。





ある日―――――彼は倒れた。


病弱な体を、無理矢理動かしていた所為だ。


それから彼は、寝たきりになった。


自分が何も出来なくなったことを、とても悔やんでいた。


自分の体を、憎んでいた。


あるとき、彼は私にそばに座らせ、私の頬を撫でた。


「ごめんな―――――」


「一人にして・・・」


彼の頬をツゥと流れる、水。
何故貴方は泣けるのか。





――――――――――――彼はその日、静かに息を引き取った―――――。





広くなったように感じられる、研究室。


あの後私は、研究所兼家の近くの大きな木の下に、彼を埋めた。


細くて軽い、私でも抱えられるような、そんな、身体だった。


すぐにでも折れてしまいそうな、腕や足。


白すぎるほどの肌。


濃い金髪が、鮮やかな色で日光を反射していた。





『貴方ハ、コンナニモ軽カッタノデスカ』


『何故、言ワナカッタノデスカ』


『私ガイルジャナイデスカ』


『私ハ、コレカラ何ヲスレバヨウノデスカ?』


『ワカラナイ』


『誰カ教エテ―――――ッテ、貴方シカイナイノデスヨ?』


『コレカラ、誰ヲ真似スレバヨイノデスカ?』


『ワカラナイヨ』


『ココロッテ何?』


『ワカラナイ』


『ダカラ―――――』





教エテヨ―――――・・・!!





あれから、何年経ったのだろう。


燃料は、まだ余るほどある。


私は、一冊の日記を手に取っていた。


実験の、記録。


最初の一頁からは、ほとんどが“それ”だった。


パラ・・・、


「・・・ッ!?」


突然見えた、私と彼の写真。


彼が持ちきれなかった資料を、私が持っている場面だ。


それからは、すべて、彼の私との生活の日記だった―――――。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ココロ 自己解釈1

家の使い切ったノートをあさってると出てきたココロの自己解釈ですー。
しばらく続きますよぉ。

閲覧数:163

投稿日:2011/01/16 15:35:20

文字数:1,413文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました