あら 素敵ね
そのお花 一輪くださる？
もらった桃色の薔薇に口付けをして
にっこり微笑み掛ける


薔薇売りの
持った花籠腕からするり
地面にピンクの薔薇がばらばら
「何と美しい人だ！薔薇は全てあなたに差し上げます！」
籠に残った僅かな薔薇を
刺で指を痛めながら
私にくれた


可愛らしい薔薇売りの少年
可哀想にこんな私にもう夢中
なんて罪深いのかしら
私のこの美しさ
彼が薔薇を売る姿は
もう二度と目にしなかった


こんにちは ごきげんよう
ますます凛々しいお姿に
ドレスの裾を持ち上げご挨拶
優雅にダンスを踊る


胸に差した赤い薔薇を
仰々しくさしだして
はらり 一枚花びらが散る
「薔薇より美しいあなたにこれを。私と踊っていただけませんか？」
手に手を重ねれば
紳士的なエスコート


胸に金のエンブレムを飾る青年
社交界の花は華々しいこの私
どんな令嬢よりも
美しく舞ってみせるわ
だって公爵様は
手の平で踊っているのだもの


そう
どいつもこいつも
振る舞い一つでついてくる
簡単ね 男なんて
単純ね 男なんて
白い薔薇をくれた人もいた
薔薇が買えないあの人は
青いロベリアをくれた


みんな私に花を贈るの
素敵で薄っぺらな愛を囁きながら


両手じゃ抱えきれないくらいの花たちを
花瓶に活けて窓辺に飾る
もらった花の数だけ
私の美貌を証明する証

「あら うふふ お久しぶりね皆さん
みんな揃ってどこかへお出掛け？」

赤やピンクや白の薔薇の
私を愛した男たち
ロベリアの彼も居る

「お前に悪意がないことは知っている」

耳障りな音を立てて割れた花瓶

「それでも許せなかった」

お腹に痛みが走り手を当てる

「せめて少しでも苦しまずにいってくれ」

真っ赤な血が手を濡らした


単純で簡単なのは私の方だった
少しずつ消えていく意識
目の端に涙が浮かぶ
最後にロベリアの彼が私にくれたのは

黄色の薔薇だった