「ふぅ、ひと息ね！」
お客さんにするナチュラル・メイクを終えて、アンさんは、ホッとため息をついた。

東京の中野にあるアンさんの店、「ナチュラル・ハウス」。
ちょうど客足がとぎれて、店には友人のユフさん１人がいるだけとなった。

その時、店に、２人連れが入ってきた。
「あら！カイさん、ミクちゃん」
「お疲れさまぁ！どうですか？デフォ子さんの“しゃべる看板”は」
ミクちゃんは、入口の近くにある看板を見た。

「うわ。メイ社長が看板になったのか」
カイくんは驚いた。

●しゃべる看板が好評

透明な薄いボードが、メイ咲音さんの体の形になっている。
そこに投影機で、しゃべる画像を写している。デフォ子さんの発明だ。
「へえぇー...」
しげしげと眺めるカイくん。後ろに回りこんで、感心したりしている。

「けっこう、お客さんの評判もいいですよ。あ、紹介しましょう」
アンさんは、ミクちゃんに言った。
「こちら、ニワ・ブックスの編集者、天野冬子さん。通称“ユフさん”です。
　こちら、初音ミクさん。いまや、有名よね」
「はじめまして」
２人はニッコリと笑い合う。


●多分あの人だよ

「ところで、ね、ミクちゃん」
アンさんは言った。
「この前、デフォ子さんがここに来てたとき、ちょっと変わったお客が来たのよ。看板をジロジロ見てね...」
「うん。電話でデフォ子さんに聞いた」
ミクちゃんが答えた。
「その人の様子も聞いたけど、ワタシ、心当たりがあるんだ。霧雨さんという、デザイナーだと思うな」

「え？霧雨さん？ 私の雑誌でも、登場してもらったことがあります」
ユフさんは言った。
「アマガエルのフォギーの作者でしょう？」

アマガエルのフォギーは、いまヒットしている、リラックス枕だ。
テトさんたちの商品、ミクドールの“パクリ”ではないか、とウワサされている。

●潜りこませよう！

「ユフさん、その方と知り合いなの？」
アンさんは聞いた。
「いいえ、一度、本に出てもらっただけですけど...。でもその方、ちょうど今『ギャラリーゆうひ』で、個展をされていますよ」

「ギャラリーゆうひ？モモちゃんの店だ」
アンさんは、驚いた。
ミクちゃんは、腕を組んで言った。
「ちょっと、調べてみようかナ。“パクリ”なのか、それとも偶然なのか...」

「ふうん。誰かが、そのギャラリーに潜入するとか？」
アンさんは、面白そうに言った。
「ううん。私もアンさんも、顔を知られてるからダメよ。誰かを変装させて、もぐりこませよう」
「誰かを？」

ミクちゃんと、アンさんと、ユフさんは、同時に同じ方向を見た。
３人の視線の先には、立ちすくんでいるカイくんがいた。

「な、なぜユフさんまで、こっちを見る？」
彼は。来ている服よりも、真っ青になってつぶやいた。
「ま、まさか...また女装を...」・・・(゜＿゜i)

彼の隣では、メイ咲音の看板が、にこやかにしゃべっている。
「だれでも、カンタンにできます」