おとぎ話の姫君すら
最初は名もなき花の童女
才も智もない穢れた靴に
踏まれたことすら気付かない
「何者にかなれるだろう?」
とそれしかなかった
キミが最後に
死の水に沈みながら 笑顔で
平和を願う
という構成なのさ
しがない物書きをやっている
殺したり殺させたり殺したり
するのばっかり得意になっている
それ以外あんま筆がのらない
ひどく苛ついて筋を書いた
ひどい動機の罪を犯させた
その時玄関呼び鈴が鳴る
「人、殺しちゃった」
と君は泣いた
会ったこともない
見たこともない
でもひと目でわかってしまったよ
なぜならキミは私の子
つまりこの小説の主人公だろう
君は確かに私が書いたさ
実在しないはずの存在さ
しかして今そこにいるのはきみだ
なんて謝ればいいのだろう
「願わくばあんな英雄譚」
を願うほどに惨たらしくて
一番狂っているとすれば
それを僕自身、作家という
「何者にかなれるだろう?」
とそれしかなかった
キミが最後に
死の水に沈みながら 笑顔で
平和を願う
物語なんだ
犯した罪を償うほど
没頭するのもアホらしくて
悪い夢ならここで覚めろ
と唱えて煙を吸い込んだのさ
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