生きるのが容易かった頃
私は簡単に人を傷つけた
生きるのが容易かった頃
私は単純に友が好きだった
生きるのが容易かった頃
私は純粋に恋をしていた
生きるのが容易かった頃
私は私という生き物でしかなかった

恥を知って 嘘を覚えて
愛の深さと怖さに触れて
果てしない後悔と 尽きない不安の中で
ゆっくりと瘡蓋を剥がすような
痛みとも呼べない感傷に揺らされて
一番最初に覚えたはずの泣き方が いつのまにか
わからなくなっていることに気づく

大人になった私は
人を傷つけることをちゃんと恐れている
大人になった私は
二度と会えない友の笑顔を思い出す
大人になった私は
初めての恋の浅さと温かさを知っている
大人になった私は
子どもであった私をもう守ってやれない

私がどんなに寂しがっても
私をあやす私はもういない

私がどんなに泣きじゃくっても
私をあやす私は、もういない

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大人の生まれ方

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投稿日:2020/05/07 12:41:01

文字数:385文字

カテゴリ:その他

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