[ジャッロの教会]

 魔導国家ジャッロの公共施設である教会の聖堂へ、ミスティークの3人が来ていた。聖堂内に入ると、まず見えるのが明かりの点いたステンドグラスである。絵画を模した色鮮やかなステンドグラスが、館内の上部へ至るところに貼られている。

 次に何列にも並んだ艶のある木製の長椅子が見えた。これは会衆席と言われるモノのことだ。
 会衆席を挟んだ中央には、亜麻色をした木目の廊下が真っ直ぐに伸びており、そこを3人が歩くと軋む音がする。夜の時間帯だと教会内は、物静かな場所なので軋む音が反響し、不気味な静寂さをヒトに与えいた。
 廊下を進むと3人は、聖人像とパイプオルガンが横に並ぶ祭壇の前にきていた。祭壇の前に来たのも、ここから奥へと続く小部屋が、鐘塔に上がるために必要な階段があるからだ。

 ミスティークのうち、召使のレオナルドが仲間の2人に行動の提案を持ちかけた。

「階段から塔へと上がろうか?」と言ったのだ。

 鐘の在る塔を下から順に登ることを伝えていた。自分が用いる魔術で鳥類に変身し、素早く上へ向かうことも可能だが、一人だけだと危険が及んでしまう恐れがある。隠してはいるが、レオナルドも闇の者への恐怖心がないわけではない。

「ええ…そうしましょう。年老いたヒトだと言っても、あの大臣は高い魔力を持った魔術師なの。ワタシたちでも、一対一で戦うのは危険だわ」

「イザベラの言うことに賛成だ。このダニエラでも、カムパネルラ大臣とサシで戦うのは不安がある」

 仲間の2人も揃って、レオナルドの提案に賛同するのだった。粛清をする相手は老人であっても、魔術師としての実力が健在であることを理解した発言である。気が心細くなっていたレオナルドは仲間からの言葉に安堵の表情を浮かべた。

「じゃあ…ぼくが先頭になって扉を開けるよ……」

 レオナルドが鐘塔へと続く、小部屋を開けようとした瞬時のことである。突然、祭壇の隣に設置されたパイプオルガンが演奏を始めたのだ。
 誰もヒトがいない筈なのに、鍵盤が上下に動いて讃美歌を流している。空気音がを交えながら流す音色は不協和音であり、聴く者たちへ居心地を悪くさせていた。その音色は、不快で耳鳴りを引き起こしてしまう。

 このまま演奏が続けば異常を来してしまう。事態を収束しようと考えたダニエラは、パイプオルガンに向けて魔法を解き放った。

「スウォーノ カルマーティ!」

※Suono Calmati(音よ静まれ)※

 スウォーノ カルマーティ。この魔法は、対象を一時的に静寂させる魔術。効果はヒトに対してだと沈黙のステータス異常を与え、モノに対してだと音をパイプオルガンのように音が消えてしまう。

「なんとか演奏を止めれたわね」そう言いながらイザベラは耳を手で塞いでいた。

「さすが、ミスティークいちの攻撃魔法使いですね」レオナルドも手で耳を押さえている。

「とんでもないイタズラだ。大臣にパイプオルガンの音を消させてしまった罰を与えよう」

 シルバーフレームの角眼鏡を右手の人差し指で、すくい上げたダニエラ。もう片方の手に備えた長い杖で床下を叩き、これから粛清する者への怒りを表している。

「じゃあ……塔の上へいくよ」

「ええ…レオナルド。後ろからのサポートは、ワタシに任せてちょうだい」

「さてさて、大臣を追い詰めるとするか」

 ミスティークの3人は鐘塔の屋上へと続く、階段に足を運んだ。塔が建つ構造上、螺旋状になった階段を進むには一列にならなければならない。一歩、一歩、また一歩と階段を踏む──靴の底から緊張が高まっていく。

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G clef Link 元騎士団長9

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投稿日:2020/03/05 23:03:36

文字数:1,506文字

カテゴリ:小説

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