Tempo primo
8-1.
また、逃げ出してしまった。
しばらく無我夢中で何にも考えられずに走ってから、しばらくして落ち着いてみると、ひどい罪悪感にさいなまれた。自分が海斗さんにどれだけひどいことをしたか、思い出すのすらつらい。
だって、海斗さんのせいじゃないんだもの。海斗さんは何もしてない。海斗さんにはどうしようもなかった。仕方のなかったことで私が勝手にショックを受けて、つらくなって、逃げ出してしまった。
……私って、本当に最低。
海斗さんに、謝らないと。
そう思ったけど……海斗さんに合わせる顔がない。あんなに海斗さんを傷つけることをしておいて、どんな顔で謝ったらいいんだろう。
近くに公園が見えたから、そこのベンチに座り込む。もうずいぶん暗くなってしまったせいか、公園にはひと気がなかった。なんだか公園を独り占めしてるみたい。
でも、何も考えずに走ったから、ここがいったいどこなのかも全然わかってなかった。
謝る以前に、海斗さんのところまでの帰り道すら、私にはわかってない。ケータイもないから、海斗さんに連絡もとれない。
私って、バカだな。それに、すっごくマヌケ。
海斗さん。ごめんなさい。
そう、言わないといけないのに。
「あれ、ねーちゃん一人? かわいいじゃん。ちょっとオレらと遊ぼーぜ」
その声にハッとして顔を上げる。けれど、海斗さんじゃなかった。五分刈りの金髪にシルバーアクセサリーをゴテゴテと身にまとった軽薄そうな男と、ホストみたいな派手なスーツをきた男。正直言って、こんなひと気のないところには不釣り合いに思えるほど目立つ二人組。
「そんな顔しなくてもいいじゃん」
海斗さんじゃなかったことに露骨にがっかりした顔をしていた私に、ホストみたいな男はヘラヘラ笑いながら声をかけてくる。
そのとき、私は思い出した。同時に金髪も私のことを思い出したらしい。
「なぁおい、この娘あれじゃね? 確かこの前――」
そうだ。
この二人組……いや、三人組は、私が初めて海斗さんに会ったときに会ったことがある。
そう思った瞬間、背後からがっしりした手のひらが伸びてきて、私の肩を抑えてベンチから動けないようにしてきた。
「なに、おまえこの娘知ってんの?」
「ほら、あんときだよ。変な男に邪魔されたとき。あんときは神崚の制服着てたけど、間違いねーって。あの娘だって」
その説明で、ホスト風の男も思い出したみたいだった。
「ああ、あの時の。……そりゃあ、楽しみだな」
二人は嫌な笑みを浮かべて、動けない私に近付いてくる。
「いや……止めて……」
助けて、海斗さん。
思うだけ無駄かもしれないとわかっていても、そう思わずにはいられなかった。
ロミオとシンデレラ 37 ※2次創作
第三十七話。
かなり恥ずかしい話ですが、通勤途中、後半のスートリーの流れを考えながら
doriko様の原曲である「ロミオとシンデレラ」を聴いていたときに、思わず泣きそうになってしまいました。
小説を書いていると、必要以上に登場キャラクターの心理に影響を受けてしまうことがあります。
……自分で書いていることを考えると、あまりいいことではないとは思うのですが。
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