――――――――――夢を、見ていた。
2年前の夢。嬉しかったあの日の夢。
あのバカが、忘れちゃった二人の記念の夢。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私、巡音ルカは珍しく悩んでいた。
(……何で……何で誰も何も言ってくれないのかしら……)
家族も、警察署でも誰も何も言ってくれない。
今日が「何の日」か、みんな忘れてしまったというの?
例えば朝、家を出るとき、めーちゃんは出てこなかったし、ミクはいつも通りマイペースだったし、(バ)カイトさんはアイス食べてたし(冬よ?)、リンとレンに至ってはまだ寝てたし。
出勤してきてからも、ほとんどみんな挨拶してくれなかった。いつもなら十人くらい挨拶してくれるのに、今日は課長以外は挨拶してくれなかった。
しかも今日は全然仕事がこない。仕事をしようとしても、「あ、あたしがやります!」とか言って部下が持って行っちゃうし。
私が仕事大好きだとわかって言っているのかしら? だとしたらお仕置きね。
「巡音君。今日は特に何も起こらなさそうだから、早引けしてかまわないよ」
課長がいきなりこんなことを言ってきた。
「はぁ!? 課長、まだ6時ですよ!? いつもなら10時までやっても全然文句言わないじゃないですか!!」
「それじゃ、気をつけて」
話を聞けバッキャロー!! と言いたかったが、人ならざる存在である私を受け入れてくださり、十四年間お世話してくださっている課長に文句は言えない。
仕方なく私は荷物をまとめ、帰路に就くことにした。
とぼとぼと出て行ったルカを見て、ルカの部下である相原が悲しそうな顔をして課長に話しかけた。
「なんだか私たち…ルカさんにものすごく悪いことしちゃった気分ですね…。」
「しかたあるまい。今夜、皆で謝ろう。さあ、早く皆も行かぬと、巡音君が家に着いてしまうぞ。」
部屋の中の刑事たちは、慌てて外に出て行った。
帰路に就いた私は、とぼとぼと自宅のボカロマンションに向かって歩いていた。
(まるで私…みんなに必要とされてないみたい…)
落ち込んだ気持ちのまま、ボカロマンションの五階にある自宅に入った。
「ただいまー…」
といっても誰も返事はしない。なぜなら皆、この五階に一人一人自分の家を持っていて、今頃みんな一番右端にある共有部屋で夕食を食べているだろうからである。
私はとぼとぼと共有部屋の前まで来て、ドアノブに手をかけた。
「ただいまー……」
『ハッピーバースデイ、ルカ!!』
「きゃっ!?」
ドアを開けた途端、たくさんの声と同時にパァン!!と音がなり、大量の紙吹雪とテープが私に降りかかってきて、思わず私は目をつぶった。
恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
いつものテーブルがある位置に、ちょっと大きめの長机があって、周りにめーちゃんにカイトさん、ミクにリンにレンが笑顔ではじけたクラッカーを持って立っていた。
さらにその周りには、なぜか課長や相原、警察署のみんながいて拍手をしていた。
「こ…これは一体…?」
困惑する私に、ミクが近づいて話しかけてきた。
「ごめんね、ルカ姉。実は今夜、こうやってパーティをするために、朝からずっとそっけない態度をしていたの」
「ええっ!?」
さらにめーちゃんが言葉を添えてくる。
「だけど家族だけだと定番すぎるし、警察署で言われちゃったらサプライズの効果が薄れちゃうかなと思って、昨日のうちに警察署に連絡して口止めしておいたのよ。ルカにおめでとうって言わないでと、さらに仕事もあんまり任せるなってね」
今度は課長が口を開いた。
「すまなかったね、巡音君。君が仕事大好き人間だというのは知っていたんだが…。明日からは、またバリバリ働いてかまわないからね」
リンとレンが、花束を持って近づいてきた。
「はい、ルカさん!あたしたちからのプレゼント!」
「大変だったんだぜー。近所の花屋からピンク色の花だけをかき集めてきたんだ」
私は花束を受け取った。優しい香りがする…。
「ほらルカさーん!早く早く!このケーキ、ぜーんぶ一から作ったんだよー!!あたしたちも頑張ったんだから!」
「リン…お前味見しただけだろ?クリームの」
「レンこそ飾りつけやっただけじゃーん!味見は大切なんだよ!」
「なにおう!?」
「あはははははは………」
みんな、みんな忘れてなかったんだ。私を、喜ばせようとして…。
私はしばらくうつむいていたが、いきなり顔をあげてこう言い放ってやった。
「もうっ!! みんなこの私をだまそうなんていい度胸じゃない!! 第一ハッピーバースデイの言い方がなってない!! 『Happy Birtuday』!! ほら発音よくいってみなさいよー!!」
「ええーっ!? ルカさん細かいよー!!」
「刑事は細かいことを気にすることが大事なんだからねー!! ホントにっ…ほんとに大事なんだからぁっ…うっ…ひっく…ありがと…ホントにっ…ありがとみんな………!!」
私は一人じゃない。みんながいる。それを実感した、十五回目の誕生日だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「――――――――――姉? ……ルカ姉!?」
「ふ……ふぇ?」
がくがくと体をゆすられて目を覚ますと、そこにはミクの姿が。
「どーしたのルカ姉!? もう8時だよ!? 遅刻しちゃうよ!?」
「え……うっそぉ!?」
時計を見てみると、確かにもう8時を回っていた。
あのバカに付き合って夜中まで起きてなんかいたから……もうっ!あいつ今度いたぶってやる!
「ほらルカ姉、急いで!」
「わかったわかった。今行くから―――――」
急かしながら部屋の外へ出ていくミク。その後を追おうとして―――――
《―――――カタン》
立ち上がった瞬間、足元で小さな音がした。
「ん?」
足元を見てみると、そこには銀色に輝く物体が。
拾ってみると―――――それは懐中時計だった。
蓋には小さく『Luka Megurine』と刻まれている。
開いてみると小さなメモがふたの裏側に貼り付けられていた。
《誕プレ渡そうと思ってたら先に寝ちゃったから、これだけ置いていくよ》
……そっか、私夕べあいつより早く寝落ちしちゃったんだ。
だからって誕プレをクリスマスプレゼントみたいにポンと置いて行かなくても……。
……ま、いいや。いい夢も見れて気分良いし。
「ルカ姉! 早くー!」
「わかったってば!」
懐中時計を腰につけて、バタバタと外に出た。
「……あ、ルカ姉」
「ん?」
「誕生日、おめでと」
「……ふふ、ありがと」
また1年、頑張らなきゃ。
想起『2年前』
(……ぞくぞくっ)
……!? な、なんかいま背筋を冷たい物が走ってっ……!?
こんにちはTurndogです。
そう!こないだ見つけたんですよ!
保存してなかったと思った2年前の誕生祭小説を、ヴォカロ町シリーズ保存用テキストの中から!
何となく嬉しかったんで、ちょっとルカさんの夢に出してみました。
こいつはただの単品でございます。
ルカ誕そのものとは何の関係もございません。
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