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あー、どうしよう。
いきなり道は二つに分かれてしまった。
困った。
地図なんてもっていない。
片方は真っ赤な道。
もう一方は普通の砂利道。
腕を組んで突っ立っていると、頭上から声がした。
それは木の上からだった。
「きゃvvきゃvv」
「わー、わー」...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第09話「クローバーのアリス」
アイクル
テレビから絶えず、この激しい雨のニュースが流れていた。
騒がしい中継の音が、落ち着いた部屋に響いている。
私はテーブルの上にレモンティーの注がれたティーカップを置いた。
帯人は恐る恐るそれを手にとると、ゆっくりと口元に運ぶ。
「暖まるでしょ?」
そう尋ねると、彼はこくりとうなずいた。
わずかに口元が...優しい傷跡 第03話「ボーカロイド」
アイクル
この状況を説明するのに小一時間。
帯人を別室に押し込んで、メイコ姉さんにこれまでのことを話した。
傷だらけで倒れていたこと。
それを拾ったこと。
帯人のマスターになったこと。
そしたら、ものすごく懐かれてしまったこと。
すべてを話し終えると、メイコ姉さんは頭を抱えているようだ。
「つまり、雪子はあっ...優しい傷跡 第08話「エラー、崩れ出す音」
アイクル
ひとりぼっちで残されて。
すごく寂しくて。
昨日、抱きしめた温もりが忘れられなくて。
人肌ってあんなに優しいんだと、やっと気づいた。
ねえ、マスター。
僕は、僕は、僕は、僕は。
あなたがここにいないと、息ができなくなりそうなんだ。
今にも泣いてしまいそうで、
苦しくて傷が疼いて。
僕は何度何度も、傷...優しい傷跡 第05話「赤い少女」
アイクル
帯人が我が家を訪れてから、数日が経った。
毎朝、帯人の包帯を巻き直してあげるのが私の日課だ。
まだちょっと恥ずかしいけれど。
彼はボーカロイドなのだから、包帯なんて巻かなくていい。
本当はそうなんだけど、帯人は包帯をよっぽど気に入ったみたいで
決して解こうとはしなかった。
「なぜ?」って聞いても、答...優しい傷跡 第04話「クリプト学園」
アイクル
雨の中、私は走っていた。
鞄を頭の上まで持ち上げて傘の代わりにしているつもりだけど、あんまり意味はない。
頭のてっぺんから足の先までびしょ濡れだ。
なんで傘を忘れちゃったんだろう。
こういうとき、ボーカロイドっていいなーなんて思ってしまう。
傘を忘れても、気を利かして持ってきてくれるんだもの。
本当...優しい傷跡 第01話「傷だらけの青年」
アイクル
その後、数分メイコ姉さんと話した後、彼女は呼び出されて行ってしまった。
彼女は「元気な顔が見れて安心したわ」って言ってこの場を後にした。
私は彼女の後ろ姿を見送った後、
別室に押し込んでいた帯人のもとへむかおうとした。
そのはずだった。
別室への扉のドアノブを握ったとき、すごく不安な気持ちになった。...優しい傷跡 第09話「壊れ出す」
アイクル
家に着くと、まず私は青年をソファに寝かせた。
青年は崩れるように横になる。
かなり衰弱はしているけれど、息はあるから一応大丈夫だ。
私は別室に移り、急いで救急箱を探し出した。
「あれ…?」
帰ってくると、彼の姿が消えていた。
濡れたソファだけがそこにあるだけ。
私はソファに近寄り、辺りを見回す。
け...優しい傷跡 第02話「帯人」
アイクル
青空広がる箱庭に
ひとつ赤を溶かして
抉る度はしる痛みは
貴方への愛の証
開かない扉の向こうには
絆を裂く獣
喚く声 耳を塞いで
草原に独り立つ
(傷跡 恍惚 眩暈)
この身は全て貴方のもの...マゾヒズム・シンドローム
雪那
今日は日曜日。
だから目覚ましだって黙り込んでいるし、
朝日だって、無視しても怒りはしない。
いつまでも寝ていられる♪
最高だね!
…って、はずなのに。
…………めちゃくちゃ寝苦しい。
私は重いまぶたをゆっくりと開いた。
「んぅ~…」
ぼやけた視界。...優しい傷跡 第07話「おはようございます」
アイクル
私はコンビニによってアイスを買った。
なにが好きなのか、わからなかった。
だから、ちょっと高めのバニラアイスを買ってみた。
喜んでくれるかな…。
その日、私はいつもより歩幅を広げて歩いた。
でも、それだけじゃあ足りない気がした。
もっと早く帰りたい。
もっと、もっと、もーっと早く。
だから、私はルー...優しい傷跡 第06話「アイスクリーム」
アイクル
「ぼくは、あなたのことを愛しています」
そう言った、彼の瞳は虚ろだった。
けれど温もりのある声だった。
だから、私はそっと手を伸ばして彼の頬をなでた。
私の行為に彼は驚いているみたいだったけど。
「帯人」
「……」
帯人の頬は暖かい。
ボーカロイドと人の境目なんて、ずっと昔から、ないのかもしれないね...優しい傷跡 第12話「家族」
アイクル
「危ないッ!」
帯人はとっさに私をコートで包み込む。
そのおかげで私は降り注ぐガラス片で怪我をすることはなかった。
でも、コートの隙間からたたずむ少女の姿がしっかりと見えた。
「なんで?なんでよ」
彼女自身、ガラス片によって腕を切っていた。
不凍液がまるで血のように腕を伝っている。
「ありえないでし...優しい傷跡 第13話「わたしの決意」
アイクル
その日は雨だった。
雪子と帯人は、いつものようにコンビニで買い物をして帰っていた。
傘にはじかれた雨が単調なリズムを刻む。
その音はとても好きだ。
でも、帯人は「雨は苦手」だと言う。
…おそらく、あの日も雨だったから。
受け入れたはずの過去。
でも、どうしても心にわずかな傷を与える。
ときどき疼くそ...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第00話「プロローグ」
アイクル
!注意!
今回は流血注意です。
嫌悪感を感じる方は、見ないことをお勧めします。【亜種&グロ注意】―Accident― 第三話
桜宮 小春
窓から差し込む光が鬱陶しかった。
すごく、すごく、嫌だった。
僕を見て、マスターは脅えた顔をした。
ちょっと震えていた。
僕はそんなマスターに手を伸ばした。
耳もとから、あごのラインをなぞって、唇にそっと触れた。
僕の唇とは全然違った。
柔らかいんだね、マスターの唇。
ちょっとだけ、泣きそうになった...優しい傷跡 第11話「告白」
アイクル
警視庁特務課。
急増したボーカロイドに関連する事件を専門に扱っている。
特務課の部屋に戻ってみると、コーヒー片手にカイトが待っていた。
カイトという男は、仕事仲間でべつに彼氏ではない。
腐れ縁というか、なんというか。…とにかくバカには違いない。
「なに?急に呼び出して…」
メイコの帰りを待ちわびてい...優しい傷跡 第10話「少女の現実逃避」
アイクル
!注意!
この先、KAITOの亜種がいます。
嫌悪感を感じる方は、見ないことをお勧めします。【レンリン注意】―Crush― 第二話
桜宮 小春
かちかちかち。
そんな音を立てながら、懐中時計は青年の手の中で動いている。
青年はその懐中時計を差し出して、人差し指でかちゃりと開けた。
そこには、ひび割れた文字盤があった。
「少々、お時間宜しいでしょうか」
「…あなたはいったい…」
なぜか、目の前にいる《人》が人ではない気がした。
スーツの青年の...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第02話「灰色の猫」
アイクル
ベランダから飛び降りた帯人と雪子を見届けて、メイコはゆっくりと
立ち上がった。
キクはベランダを見つめたまま、じっとしている。
その口だけは動き続けていて、まるでなにかを唱えているようだった。
「残念だったわね。……あんたの相手でもしてあげる」
そう言うと、ぼんやりとした瞳をこちらにむけるキク。
「...優しい傷跡 第15話「本音が知りたいから」
アイクル
「…ばか言うんじゃねぇよ」
メイトは扉を蹴破り、ミクをベッドに横にした。
その部屋は今までいた病室とは違い、いろいろな機械が置いてあった。
電源を入れると、画面に不思議な曲線が表示された。
部屋の奥には、ボーカロイドのボディがガラスの箱に入れられている。
携帯で誰かに連絡を取っていた。
きっと電話の...優しい傷跡-君のために僕がいる- 第07話「それぞれの思惑」
アイクル
光の中に包まれて数秒後、私たちは地面に足をつけた。
まるで霧が晴れていくように、まぶしい光は消えていく。
やっとしっかりとした視覚を取り戻したとき、私はハッとした。
「学校だ」
そこは、クリプト学園だった。
窓の外には満月が顔を出している。
どうやら夜のようだ。
電気が一つもついていない学校は、月明...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第04話「とある少女の庭」
アイクル
狂ってる…。
みんな正気を失ってしまうの?
ミクちゃんみたいに、リンちゃんみたいに。
カイトさんも、メイコ姉さんも、みんな…。
……帯人も、灰猫さんも…?
…嫌。そんなの、
赤い道を進むと、真っ暗な森の中に牢獄を見つけた。
その牢獄には見慣れた背中があった。
メイコ姉さんだ。
「身体年齢十六歳にされ...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第10話「嫌な予感」
アイクル
狂ったように、帯人はアイスピックをリンにむけて振りかざした。
リンはとっさに包丁でそれを防ぐ。
しかし、帯人のほうが圧倒的に強かった。
数歩、リンは下がって体勢を立て直す。
その瞬間、はじかれたように帯人が私の手を引いて走り出した。
灰猫も先頭を走る。
「雪子、怪我は!?」
「大丈夫。服が切れただけ...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第07話「みんなの声」
アイクル
ハァ、ハァ、ハァ。
涙がとまらなかった。
怖くて足が震えた。でも、とにかく前へ。
足を止めたら、駄目だと思った。死んでしまうのは確かだ。
ほんと。…どうしてこうなっちゃったんだろう。
それは数分前。
私と帯人そして灰猫が、鏡音リンと対峙したときのことだった。
血だらけのハクちゃんとネルちゃんを紹介し...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第05話「彼女の悲劇」
アイクル
駅に着くと、僕は帯人兄さんの住んでいる家の最寄り駅までの切符を買った。改札を抜けて電車に乗る。電車に揺られながら、僕は今度は帯人兄さんのことを考えていた。ちょっとは落ち着いていてくれるといいんだけど……。
次兄の帯人兄さんは、僕の五歳上。優等生だったマイト兄さんと比べると、帯人兄さんは「問題児」...ロミオとシンデレラ 外伝その十五【カイトの悩み】後編
目白皐月
鏡音レンがふと、こちらを見る。
「…あなたは生存者? それとも、リンちゃんの夢?」
首を横に振る。
このとき、初めてレンの声を聞いた。
「自分の意思。俺はいたいから、ここにいる。
リンを一人にできない。…それにここなら、彼女は動ける。
自由に歩けるし、笑えるから」
自虐めいた笑みをむける彼。
そ...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第06話「絶対に助けるから!」
アイクル
某日。特務課にて―。
「…つまり、君は僕にアドバイスを求めてここに来たってわけ?」
「……はい」
僕はこの日、ある用があって特務課を訪れた。
警視庁特務課はけっこう独立した組織らしくて、
僕が突然訪ねたというのに、すんなり僕を部屋へ招き入れてくれた。
メイコさんから聞いた。
カイトさんも実はボーカロ...優しい傷跡 番外編1「決戦は明日!」
アイクル
「動くなッ!」
銃声とともに、振り上げられていた斧は弾かれて、
部屋の隅に転がっていった。
声の主は、メイコ姉さんだった。
銃を構えたまま、キクをにらみつける。
「次は腕が吹っ飛ぶわよ」
「ふっふふっふっふふ。脅しのつもりですかー?」
キクはメイコを見て笑う。
メイコはいらだちのあまり顔を歪ませる。...優しい傷跡 第14話「僕が必ず、護りますから」
アイクル
派生発現 早幾月か
番付埋めるは原型(オリジナル)ばかり
ここらで一泡吹かせませうと 成り上がります 下克上
一番槍俺がいただき、辛き赤さのAKAITOだ
青には赤 変な立ち居地のせいでニコでの俺の扱いは付属
ちょっと待てゴルァ
アイスなんか捨てちまえ
なめた真似すっと誘うぞ虚空へ
ちょっと、青いの...下克上~亜種ver~
nobu1582
タイムスリップした先は、城内だった。
広い廊下が続いている。ひどく騒がしかった。
灰猫は窓に張り付いた。
窓からははっきりと、燃え上がる火の手が見える。
「革命だ…」
革命は起きてしまった。彼の言うとおり、避けられなかった。
落胆する雪子の頭を帯人は優しくなでた。
燃え上がる町。悲鳴をあげる人々。廊...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第21話「王女と逃亡者」
アイクル
「あ、帯人。部活、何か入った?」
「…雪子は?」
「今のところ、入る予定はないかな」
「そう…」口元がわずかに笑む。
進級した私たちは、クリプト学園で大いに学生生活を謳歌していた。
新学期。
新しいクラスのみんな。
そして何より学園が変わろうとしている。
クリプト学園は理事長の意向により、ボーカロイ...優しい傷跡-君のために僕がいる- 第02話「噂のあの子、現る」
アイクル
キクの記憶の断片が、メイコの脳に流れ込む。
それはあまりにも悲しくて―。
「どいてッ!」
キクが力一杯メイコを蹴り飛ばした。
もろにくらったメイコは痛みのあまり、うずくまった。
キクはゆっくりと立ち上がる。
「さよなら」
「ま、待ちな、さい…ッ!」
「…」
メイコの言葉を返さず、キクは静かに窓辺に近...優しい傷跡 第17話「今度は私が護ってあげる」
アイクル
ある日、私は盗んだ音楽時計をくわえて走り出しました。
病室に忍び込み、寝ている二人の前で蓋を開けました。
静かな病室が音であふれます。
とても楽しくなります。
彼らがすてきな夢を見られるように、私はいつもこっそり音楽をかけました。
私はたまらなく二人のことが好きでした。
特にリンという少女のことが大...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第26話「すてきな夢をありがとう、さようなら」
アイクル
あるところに、小さな夢がありました。
誰が見たのかわからない、
それは本当に小さな夢でした。
小さな夢は思いました。
このまま消えていくのはいやだ。
どうすれば、
人に僕を見てもらえるだろう。
小さな夢は考えて考えて、
そしてついに思いつきました。
人間を自分の中に迷い込ませて、...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第08話「アリスの物語」
アイクル
旧館の火事から、一週間が経った。
そんなある日。
雪子と帯人は休日を利用して、ある場所へむかっていた。
「帯人ぉー」
「…ん?」
「口の周りに、アイスクリーム。ついてる」
「……あ」
帯人はそのまま袖で拭おうとするものだから、
雪子は慌ててハンカチを取りだした。
「ちょっと、顔貸して」...優しい傷跡 第21話「優しい傷跡」
アイクル
マスターは、私に優しくしてくれた。
キクという可愛い名前をくれた。
大好きだった。
寝付けない私のために、彼はいつもホットミルクを作ってくれた。
コップに注がれた暖かなホットミルクはとてもおいしかった。
彼は喜ぶ私を見て、よく笑っていた。
その笑顔が大好きだった。
歌を上手く歌えない私を責めることな...優しい傷跡 第16話「記憶」
アイクル
開いた非常口。
帯人に抱き上げられた雪子は、キクの袖を掴む。
「行こうよ。キクちゃん」
キクはまた泣いていた。
「雪子ちゃん。ありがとう」
「え?」
きょとんとする雪子。その表情はとても可愛かった。
「雪子ちゃんと会えて、本当によかった」
「なに言ってるの…? ほら、早く行かないとッ!!」
「ごめん...優しい傷跡 第20話「もっと はやく あなたに」
アイクル
全てが終わった。
けど、なんだかよくわからない終わりを迎えてしまった。
アカイトさんが犯人かよく解らないけど、あのとき教会で
確かに彼の姿を見たんだ。
なぜあの場所にいたのか聞きたかったのに、彼は書類を盗んで
失踪してしまった。
まだ彼の行方は解っていない。
初音ミクちゃんは、まだ意識不明状態だ。
...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第28話「わたしたちの未来へ」
アイクル
予想以上に火の勢いが強い。
煙が充満してきて、酸素がどんどん奪われていく。
息苦しい―。
ちらりと帯人を見た。
彼は苦しそうな顔をいていたけれど、息苦しいという感じではなさそうだ。
ボーカロイドには、どうやら酸素は必要ないらしい。
気づかれないようにしよう。
気を遣ってくれたら、なんか、情けないから...優しい傷跡 第18話「僕らの意志と交差する願い」
アイクル