タグ「悪ノ召使」のついた投稿作品一覧(32)
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プロローグ 二年前
賑う道から離れた裏道に、一人の少女がいた。鮮やかな金髪と大きな白いリボンが目立ち、顔つきはどこか高貴な雰囲気がある。近くには不機嫌な顔をした男、向かい合って会話をしていた。
「……その事は謝ったでしょう。怪我をしているのなら病院まで案内しますよ?」
「謝るだけじゃすまねぇって言っ...むかしむかしの物語 王女と召使
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校舎から外に出て開口一番、グミはミクとハクに文句を付ける。
「何で二人揃ってあんなに騒ぐかなー……」
自主的に残っていたのはまだ良いとして、ミクとハクの熱い語り合いは廊下にまで響いていたらしい。あの後、学校内の見回りをしていた担任教師がやって来て
「下校時刻はとっくに過ぎているぞ! さっさと帰れ...むかしむかしの物語 外伝その4 幸せのかたち 後編
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緑の国王都から東に存在する広大な森は、一際目立つ巨木の名にあやかって千年樹の森と呼ばれている。
森の中にある村には緑の国で最も歴史が古く、また、緑の国の王族が代々通う事でも有名な学校があった。
「え! それ本当!?」
目の前に座る友人の大声のせいで教室に残っていた生徒の注目を集める事になってし...むかしむかしの物語 外伝その4 幸せのかたち 前編
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いつかの時代のどこかの場所で
君は王女 僕は召使
運命分かつ 哀れな双子
「んあ……?」
聞き慣れた歌が耳に入り、レンは目を開く。真っ先に見えたのは居間の天井で、自分はソファーに横になっていた。どうやらうたた寝をしてしまったらしいと判断して体を起こし、寝ぼけたまま呟く。
「あー、そうだ……。...現在に続く物語 双子の姉弟 後編
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城のバルコニーの中央に佇み、夕焼けで徐々に赤く染まる空を眺めながら、レガートは物思いにふけっていた。
王族と言う立場上ある程度は仕方が無いと諦めてはいたが、見合いや舞踏会で出会った女性達は、自分を『黄の国の王族』としか見ず、それだけを目当てにしているような人間ばかりだった。もしルカがいなかったら...むかしむかしの物語 外伝その3 生みの親 育ての親 後編
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「全く、肝を冷やしたぞ」
椅子に腰を下ろし、円卓の上に置いたグラスに酒を注ぎながら、ガクポは向かいに座るルカに半ば呆れた口調で話しかけた。
国を奪還する為の最後の話し合いが終わり、他の住人は自分に宛てられた部屋に戻ったり書斎に行ったりしていて、今この客間にはガクポとルカしかいなかった。
久しぶ...むかしむかしの物語 外伝その3 生みの親 育ての親 前編
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人の隙間を見つけては移動し、なんとかすし詰め状態から脱出したリンは、露店が並ぶ通りから少し離れた、少し開けた場所まで移動してようやく一息つく。
辺りにはベンチで休憩をしている男女や、数人で話しながら歩く人の姿が見えた。
「人、凄く多い……」
何だか気分が悪くなった気がする。人混みの中ではぐれて...むかしむかしの物語 外伝その2 思い出の祭り 後編
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人の縁や出会いと言うものは、本当に不思議だと思う事がたまにある。
初めて会ったきっかけは偶然であったのにも関わらず、その相手との交流が長く続いたり、逆に運命だと信じていた出会いが実はそこまで大した事じゃ無かったり。
……運命の出会いなんてものは経験した事が無くて、本で読んだ事があるだけだけど。...むかしむかしの物語 外伝その2 思い出の祭り 前編
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「ただい、ま……」
おずおずと扉を開ける。返事は無い。家の中の静かな空気が、お前は酷い奴だ、悪い子だと自分を攻め立てているように感じる。
居て欲しい、居ないで欲しいと言う正反対の気持ちを抱えて、客間に足を踏み入れる。
「お帰り、レン」
普段と同じ口調で声をかけられ、レンは飛び上がらんばかりに驚...むかしむかしの物語 外伝 父子の絆 後編
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どうしてあんな事をしたのか、言ってしまったのか。
人によって程度の違いこそあれ、そんな過去の申し訳ない気持ちや反省、失敗談や恥ずかしい経験は誰にでもあると思う。
と言うより、全くそんな事が無いと豪語する人間なんて胡散臭くて信用できないし、したくもない。それだけを話すと、ひねくれているだの斜に構...むかしむかしの物語 外伝 父子の絆 前編
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エピローグ 投じた一石のその先に
活気あふれる黄の国王都中心の大広場を、一人の女性が歩いていた。
太陽の光を浴びて輝く鮮やかな金髪と、双葉のように結んだ白いリボンが目立つ。手には花束と、何かの包みを持っている。お祭り騒ぎに湧く人々と町を誇らしげに、満足気な顔で見ながら足を進めていた。
広場で...むかしむかしの物語 王女と召使 第23話
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帰るべき場所
「侵入者です!」
城内に逃げ込み廊下を走る大臣にそう報告をしたのは、王女処刑の際に大臣が連れていた三人の私兵であった。慌てふためいた様子で駆け寄ってきた彼らを睥睨し、大臣は怒鳴り声を浴びせる。
「今はそれどころでは無いのが分からんのか! 侵入者の一人や二人、さっさと捕えるなり始末す...むかしむかしの物語 王女と召使 第22話
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先駆の青 追い風の黄
城の前に集まる人々を廊下の窓から眺め、大臣はこれまでに無い程の優越感に浸っていた。
今日の式典を止められる者は誰もいない。自分側に付いていた家臣は適当な理由で処刑をして、面倒な事を言う前に消した。
そいつらを使って数年前から少しずつ邪魔者を消し、足場を固めていった。
黄...むかしむかしの物語 王女と召使 第21話
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未来の分かれ道
「どう言う事、ルカ」
怒気を帯びた声が客間に響く。リンは手の平で円卓を叩いて立ち上がり、ルカを睨みつけた。張り詰めた空気と予想外の展開に、他の面々はルカとリンに視線を向ける。何故ルカはそんな事を聞くのか、答えは分かり切っているはずだ。
自分に向けられる疑問と視線は何処吹く風とル...むかしむかしの物語 王女と召使 第20話
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誓いと追想
屋敷の二階。宛てられた部屋で読書をしていたミクは、最後のページを読み終え本を閉じる。読み終えた充実感と一抹の寂しさをミクは感じていた。
「良く似ているけど少し違う世界か」
本の中に合った一文を反芻する。もしそれがあるとしたら、その世界の自分は何をしているのだろう。王女では無く、平民...むかしむかしの物語 王女と召使 第18話
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王の在り方
思い上がりも甚だしいな。
ふんぞり返って玉座に座り、最上級の酒を飲む大臣が視界に入る度に、隣に立つカイトは吐き気がする程の嫌悪を感じていた。カイトが王都に来た当初よりも腕や指に付けている装飾品は増え、服は更に上質な物に代わっている。本人は王になったつもりだろうが、威厳の欠片も感じられ...むかしむかしの物語 王女と召使 第17話
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反撃の火種
「何をしている!」
町の警備を終え、拠点にしている宿へと歩いていたメイコは声を張り上げた。視界の先には、一人の男性が数人の男に罵声を浴びせられ、抵抗する事も出来ずに殴られ、蹴られていたのだ。しかも男性を暴行しているのは大臣の私兵では無く、王都に住む住民である。
今までは私兵が住民に...むかしむかしの物語 王女と召使 第16話
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歴史の裏側
ルカはずかずかと廊下を歩き、長い髪を揺らしながらガクポの部屋と向かっていた。怒っても仕方がないと理性では理解しているが、感情が治まらない。嘘の中に本当の事を混ぜているのが余計に腹立たしい。
目的の部屋の前に到着する。こんな時に礼儀作法など知った事か。
「ガクポ!」
ノックをせず...むかしむかしの物語 王女と召使 第15話
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二人の王女
船の上で教えてくれた、この海の言い伝え。聞いた時からずっとやってみたかった。
リンは一人、押しては引く波に靴の底を濡らしながら海岸に立っていた。筒状にした紙を入れた小瓶を、大切な宝物のように両手で胸の前に持っている。
猫に似た鳴き声がいくつも聞こえる。海の上を群がって飛ぶウミ...むかしむかしの物語 王女と召使 第14話
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集う人々
黄の国王都、城内の兵士詰所で、机に向かって椅子に座る二人の人間がいた。
「はあ……」
「溜息などついてどうしたのだ、カイト殿」
「レオンさん。分かって言ってません?」
カイトは目の前のレオンに、若干嫌味を込めて返した。
青の自治領へ船の往来の制限を解除すると言う命令と共に、王都...むかしむかしの物語 王女と召使 第13話
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希望の光
もう済んだ事だからとミクは言ってから、これからどうするかを話す事にした。
「王都の近くにいるのは避けた方が良いわね。すぐに見つかる」
戦争が終わっても、大臣の息がかかった兵達は執拗にミクを追い続ける。国外れに逃げるのが無難かとは思うが、当てが無い。
「その事ですが……、ミク王女、僕ら...むかしむかしの物語 王女と召使 第12話
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真実
城の廊下をリンは一人で歩いていた。弟が病気になってしまってから一緒に遊ぶ事は出来無くなり、寂しくなったリンは毎日欠かさずに病室を訪れていた。
弟がいる部屋の前に到着して扉を開ける為に手を伸ばす、今日は自分一人で開ける事が出来た。名前を呼びながら部屋に入る。いつものようにベッドに一直線...むかしむかしの物語 王女と召使 第11話
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逃亡者ノ王女
日が落ちてすっかり暗くなった時間。黄の国王都から南東へ続く街道脇に、一つの明かりがあった。その傍には地面に座っている二人の人影と、木に繋がれた一頭の馬。
リンは膝を抱えて背中を丸め、目の前のたき火を見ながら物思いに沈んでいた。
最後までレンは泣き顔を見せなかった。王女として捕ま...むかしむかしの物語 王女と召使 第10話
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召使ノ王子
玉座に座り、大臣はほくそ笑んでいた。あの生意気な王女の処刑が終われば、青の国時代よりもさらに豪華な生活をする事が出来る。全ては自分の思い通りだと確信していた。
「失礼します。リン王女に面会を求める者が来ています」
「何だと、どんな奴だ?」
「民衆をまとめていたとか言う、赤い鎧の剣士で...むかしむかしの物語 王女と召使 第9話
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誇りと覚悟
メイコ率いる民衆は足止めを食らっていた。数人の兵士が槍を交差させて道を塞ぎ、通れないようにしていたのだ。その指揮官らしい人物は老兵ではあるが、その風格から地位のある人間なのが分かる。
「そこをどいて下さい!」
「ならん! 暴動を止めろと命令が出ている。通す訳にはいかんのだ!」
要求...むかしむかしの物語 王女と召使 第8話
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それぞれの思い
どうしたんだ、この町は。
黄の国王都にやって来たメイコは市街を見渡して呆然とした。以前来た時は多くの人が行き交い、うるさい位活気に溢れていたのに、今は人の姿がまばらであの頃と比べると随分寂しくなっている。
息を吐いて幼い頃の故郷を思い出す。あそこまで酷い状況にはなっていな...むかしむかしの物語 王女と召使 第7話
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守りたいもの
時計塔の仕事部屋で執務をこなしながら、カイトは告白をした時の事を思い出して軽く溜息をついた。
本当は分かっていた、ミクは自分に友人以上の好意が無い事は。自分の気持ちにけじめをつけるべきだと告白したが、結果はお断り。予想はしていても失恋はかなりこたえた。
それでも清々しい気分に...むかしむかしの物語 王女と召使 第6話
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時計塔の町
船から降りたリンとレンを迎えたのは、青い短髪の青年。胸に手を当てて恭しく挨拶をする。
「御来訪お待ちしておりました、リン王女。……彼は?」
「御苦労です、カイト。彼は、ひと月程前から私の召使になったレンよ」
リンに紹介され、レンは一礼する。船を降りる前に、カイトが自治領をまとめる人...むかしむかしの物語 王女と召使 第5話
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海上にて
レンが召使になりひと月程過ぎた、ある日のおやつの時間。
「青の自治領?」
王女の私室で、レンはブリオッシュを食べているリンに聞いた。
「そう、昔から国同士の会議で使われていた場所」
簡単に答えて、紅茶を一口飲んでから説明を続ける。
一年に一度、黄と緑の国の代表が行う二国会議。
...むかしむかしの物語 王女と召使 第4話
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再会
「リン様の召使? ルカ殿が言っていたのは、君の事か」
王都に着いた翌日、城の敷地内に入ったレンは、近くにいた男性の老兵に話しかけた。
王女の召使として初めて城に来たけれど、どこに行けばいいのか、と。
「はい。任命書もちゃんとあります」
侵入者だと疑われたら困ると、レンは封筒から一枚の紙...むかしむかしの物語 王女と召使 第3話
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家族
屋敷へと帰り、買った物を片付けた後、レンは自室で休んでいた。ベッドで仰向けになって天井を見ながら、緑の国での事を思い出す。
本当に、また会えるかな……。
ミクのあの言葉は確信に満ちていた。まるで、再会するのは当然だとばかりに。その理由を考えようとした時、ドアをノックする音が聞こえた。
...むかしむかしの物語 王女と召使 第2話
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港町の少年
人のいない静かな港で、後頭部の高い位置で髪を結んだ、鮮やかな金髪の少年が海岸で佇んでいた。手には小瓶、筒状に丸められた紙が入っている。
それを見てわずかに笑みを浮かべ、慣れた手つきで海へと放り投げた。小瓶は一旦沈んでから浮かび上り、太陽の光を反射しながら水平線へ向かって静かに流れて...むかしむかしの物語 王女と召使 第1話