タグ「MEIKO」のついた投稿作品一覧(26)
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獅子の花
午後三時を伝える教会の鐘。定刻を知らせるに過ぎない音だが、墓地では鎮魂の音色として響く。
歴代の王族の墓が並ぶ場所を通り過ぎ、アレンとリリィは墓地の片隅へ向かう。リンと近衛兵隊は眠っているのは、まるで他の墓から追いやられたような一角である。周りと比べて明らかに手入れがされていない、落...蒲公英が紡ぐ物語 第61話
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悪ノ散華
『悪ノ王子』の処刑にざわめく黄の国王都。広場では準備の段階で見物客が集まっていた。断頭台が運び出された際に畏怖の声が上がるも、見物客は興味と期待を隠しきれない。
王子は粛清した者達と同様の方法で殺されるのだと。
執行は午後三時。刃が落とされる瞬間を待ちわびる民衆は、異様な熱気に包まれ...蒲公英が紡ぐ物語 第58話
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種を撒く者
「……王子は、そこまでの覚悟を」
話を聞き終え、メイコは沈痛な面持ちで呟く。ミクは病人のように青ざめ、信じられないと首を振った。
「嘘。嘘よ……」
話を受け入れられない様子の彼女へ、リンは憐れみの視線を送る。緑の兵が略奪をしていた事とレンがカイト王子を殺していないと知り、緑の王女は...蒲公英が紡ぐ物語 第57話
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悪ノ覚悟 正義ノ傲慢
どれくらい経ったのかな。
鉄格子をぼんやりと眺めて、リンはふと思う。閉ざされた地下牢では外の様子も分からない。格子付きの窓が天井近くにあるので、精々昼か夜かの区別が付く程度。就寝と起床の回数もでたらめになってしまい、時間の感覚はとっくに消えてしまった。
『悪ノ王子』の惨め...蒲公英が紡ぐ物語 第56話
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貫き通す嘘
浅い呼吸を繰り返してリリィは駆ける。長い金髪に軍服、剣と同じ長さの棒を腰に差した、かなり目立つ格好だったが、人気の無い道には彼女しかいなかった。
「流石にここら辺にはいない、か……」
息を整えながら周囲を見渡す。速度は落としたものの、足は動かし続けている。
王宮を脱出した直後は革...蒲公英が紡ぐ物語 第52話
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変わりゆくもの
目の前の敵兵が傾いで視界が開ける。手近の一群をかろうじて斬り捨てたトニオは、がっくりと膝を付いて項垂れた。息は上がり、鼓動が耳を打つ。双剣の一本は半ばで折れ、もう一本には亀裂が走っていた。
ここまでか……と自身の限界を悟り、重い頭を持ち上げる。周囲は血の海だ。王宮兵士と革命軍兵...蒲公英が紡ぐ物語 第51話
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黄の守り手 赤の騎士
メイコを先頭に革命軍は王宮を進む。庭園から追い縋って来た王宮兵は全員倒したものの、共に突入した兵の半分以上が犠牲になる程の被害を受けた。メイコとミクを含めた侵入者達は剣を握り、周囲を警戒しながら足を動かす。
落ち着きない様子であちこちへ視線を送り、ミクは張り詰めた表情で囁...蒲公英が紡ぐ物語 第49話
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王子の守護者
「来たか……」
反乱軍の先鋒が到達するまで間も無く。見張りからの報告を受け、アルは武器を握る手に力を込める。斧と槍が複合された長柄武器が僅かに揺れ動き、石突きが地面を撫でた。
「いよいよ、か」
両手に剣を携えたトニオが重く答える。近衛兵隊も含めた残存兵は庭園に集結し、息が詰まるよ...蒲公英が紡ぐ物語 第48話
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戦う事 守る事
「勿論謝礼は払います」
ややあってから静寂を破ったのはミク。それくらいは当然だという態度を表に出して続ける。
「望みであれば、革命後に王宮へ戻れるよう取り計らいましょう。そもそも、貴女は田舎の自警団などで納まるべき人間ではありません」
ミク王女は褒めているつもりなのだろう。しか...蒲公英が紡ぐ物語 第41話
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眠る獅子
黄の国王都より遠く南西。緑の国へと続く街道から外れた位置にある小さな町。大陸南を走る主要街道から取り残されたような田舎町の一角で、栗色の髪の女性が木剣を振るう若者達を眺めていた。時に遅れている者を指導し、時に自らが構えを取って手本を見せる。
不慣れな様子の若者達に対し、鞘付きの剣を持...蒲公英が紡ぐ物語 第40話
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狂い出す歯車
リンが王宮から連れ去られ、レンが声を嗄らして自室に戻った直後。
中庭で何が起こったのかを知らないメイコは、王宮に戻った直後に上層部から呼び出しを受け、部屋で告げられた言葉に愕然としていた。
「突然だが、会議でメイコ殿の罷免が決まった」
何を言われたのか理解出来ない。思考が止まり...蒲公英が紡ぐ物語 第5話
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置いていかれた者
黄の国王都の共同墓地。王族が眠る一画で、メイコは一人佇んでいた。手にした花束を墓石に供え、赤い鎧姿のまま手を合わせて祈りを捧げる。
レガート・ルシヴァニア
アン・ルシヴァニア
二つの墓石には、黄の国の王と王妃の名が刻まれていた。
王都から南にある、自然が豊かで小さな町。...蒲公英が紡ぐ物語 第3話
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黄の国の王子
黄の国王宮の中庭。薔薇が咲き乱れる庭園で二人の人間が対峙していた。一人は金髪に蒼い目の少年で、上質だが動きやすそうな服を着ている。もう一人は茶髪の女性で、赤い鎧に白のマントを着用している。二人はお互いに木剣を向き合わせていた。
少年は練習用の剣を両手で握り、正面の相手に振りかぶる...蒲公英が紡ぐ物語 第1話
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ある貴族の屋敷の広間で、青い髪と目をした青年が任務報告を受けていた。
椅子に座った青年の傍には二人の人間が無言で立ち、隊長の言葉を聞いている。
「それで、おめおめと帰って来たという訳か……?」
青年が無表情で返すと、一団を率いていた隊長は青ざめた顔で答える。
「も、申し訳ございません!」
跪...二人の悪魔 6
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出された譜面を見てうんざりする。だけど、私には拒否権なんて無い。
ボーカロイドとしてどんな歌も歌ってきた。大切な人に感謝を伝える歌や、恋に焦がれる歌。その他数多くの歌。歌うのが好きなのはそう作られたからなのか、それとも個人的な感情なのかは分からないけど、とにかく私は歌う事が好きで、多くの人に聞い...歌姫達の憂鬱
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偏った食事が原因の、俗に言う生活習慣病。
白衣を着た眼鏡の男性から告げられたのは、そんな言葉だった。己の不摂生に気が付かず、それを変えようともしなかった事を指摘され、部屋の窓際のベッドで上半身を起こしていたコンチータは羞恥で俯く。
何故自分はここにいるのかを男性に尋ねると、館の広間で倒れてい...恐ろしくない悪食娘 5
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食卓に盛られた料理。それを毎日残さず食べるのは、コンチータにとって、子どもの頃から当たり前の日常である。
昔と違うのは、一人で食べていると言う事。母が亡くなるまでは三人で、父が亡くなるまでは二人で食事をしていた。
父はとにかく『食べ物を残す事』に関しては異常なまでに厳しかった。作ってくれた人や...恐ろしくない悪食娘 4
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厨房を出たリンは、コンチータが晩餐をしている広間に向かって歩いていた。
レンが帰ってこない。と言う事は、おそらくまた気まぐれに付き合わされているのだろう。自分はコンチータの気まぐれに巻き込まれる前に逃げられるよう常に心掛けているが、レンはそれが出来ない。少々頭の回転が鈍いせいもあるだろうが、コン...恐ろしくない悪食娘 2
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エピローグ 投じた一石のその先に
活気あふれる黄の国王都中心の大広場を、一人の女性が歩いていた。
太陽の光を浴びて輝く鮮やかな金髪と、双葉のように結んだ白いリボンが目立つ。手には花束と、何かの包みを持っている。お祭り騒ぎに湧く人々と町を誇らしげに、満足気な顔で見ながら足を進めていた。
広場で...むかしむかしの物語 王女と召使 第23話
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先駆の青 追い風の黄
城の前に集まる人々を廊下の窓から眺め、大臣はこれまでに無い程の優越感に浸っていた。
今日の式典を止められる者は誰もいない。自分側に付いていた家臣は適当な理由で処刑をして、面倒な事を言う前に消した。
そいつらを使って数年前から少しずつ邪魔者を消し、足場を固めていった。
黄...むかしむかしの物語 王女と召使 第21話
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祭りの先
王都のとある店兼住居。ネルの家の勝手口に立つカイトは目の前のドアをノックした。大臣が王位式典を行うと報告をした後、ネルの両親は店を閉店状態にして、他の客が来ないように計らってくれたのだ。
店の中から足音が聞こえて、こちらに近づいて来る。ドアを開けて顔を覗かせたのはネルである。
「入っ...むかしむかしの物語 王女と召使 第19話
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反撃の火種
「何をしている!」
町の警備を終え、拠点にしている宿へと歩いていたメイコは声を張り上げた。視界の先には、一人の男性が数人の男に罵声を浴びせられ、抵抗する事も出来ずに殴られ、蹴られていたのだ。しかも男性を暴行しているのは大臣の私兵では無く、王都に住む住民である。
今までは私兵が住民に...むかしむかしの物語 王女と召使 第16話
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集う人々
黄の国王都、城内の兵士詰所で、机に向かって椅子に座る二人の人間がいた。
「はあ……」
「溜息などついてどうしたのだ、カイト殿」
「レオンさん。分かって言ってません?」
カイトは目の前のレオンに、若干嫌味を込めて返した。
青の自治領へ船の往来の制限を解除すると言う命令と共に、王都...むかしむかしの物語 王女と召使 第13話
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召使ノ王子
玉座に座り、大臣はほくそ笑んでいた。あの生意気な王女の処刑が終われば、青の国時代よりもさらに豪華な生活をする事が出来る。全ては自分の思い通りだと確信していた。
「失礼します。リン王女に面会を求める者が来ています」
「何だと、どんな奴だ?」
「民衆をまとめていたとか言う、赤い鎧の剣士で...むかしむかしの物語 王女と召使 第9話
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誇りと覚悟
メイコ率いる民衆は足止めを食らっていた。数人の兵士が槍を交差させて道を塞ぎ、通れないようにしていたのだ。その指揮官らしい人物は老兵ではあるが、その風格から地位のある人間なのが分かる。
「そこをどいて下さい!」
「ならん! 暴動を止めろと命令が出ている。通す訳にはいかんのだ!」
要求...むかしむかしの物語 王女と召使 第8話
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それぞれの思い
どうしたんだ、この町は。
黄の国王都にやって来たメイコは市街を見渡して呆然とした。以前来た時は多くの人が行き交い、うるさい位活気に溢れていたのに、今は人の姿がまばらであの頃と比べると随分寂しくなっている。
息を吐いて幼い頃の故郷を思い出す。あそこまで酷い状況にはなっていな...むかしむかしの物語 王女と召使 第7話