タグ「鏡音リン」のついた投稿作品一覧(254)
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第六章 悲劇 パート3
ウェッジ率いる二千の決死隊が無謀なる尾根越えを開始したのは十月も下旬に到達した頃合いである。平地では実りを迎える季節だが、高地では一足先に、まるで駆け去る様に秋が過ぎ、時折木枯らしのような冷たな風が吹き始める。尾根は果てしなく広がり、その果ては何時までも見通せない。大きく伸...ハーツストーリー80
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悲劇 パート2
「随分な賑わいですね」
遠路はるばるザルツブルクを訪れた女性がいた。フレアである。革命軍が快進撃を続けてこられた理由はこのフレアの存在が何よりも大きい。どんどんと拡大を続ける革命軍の食糧事情を一手に引き受けてなお余りある才を発揮していたのである。フレアはキヨテルと共同で増産策を取る...ハーツストーリー79
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第六章 悲劇 パート1
膠着が、続いていた。
ミルドガルド南東に位置するリンツである。グリーンシティを抑え、旧緑の国の領域は商工ギルドの手により半自治区として独立状態にあった。以前は青の国と緑の国の国境に位置しており、従来は防衛拠点として重視されていたが、帝国による統一ののちはその重要性が失われ...ハーツストーリー78
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第五章 祖国奪回 パート7
「本当に、よく許可を得られましたね」
セリスが呆れたように言った。晴天の最中、リンを大将とした革命軍は一路ルータオへの道を進軍していた。
「だって、放置もできないし」
けろりとリンが答える。赤騎士団とロックバードの本隊がザルツブルグへと進軍したのち、リンは一千の兵を率...ハーツストーリー77
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第五章 祖国奪回 パート6
天主からの援軍が丁度東門へと駈け出そうとしたとき、その兵らは目の前に現れた赤騎士団の姿に度肝を抜かされる羽目になった。軍を移動させるために目一杯に開かれた城門めがけて、およそ千名の革命軍がまるで一本の槍のように帝国軍を切り裂いていったのである。その様子は執務室で指揮をと...ハーツストーリー76
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第五章 祖国奪回 パート5
帝国軍に、混乱が広がった。
そもそも城門がこれほど簡単に抜かれるなど、帝国軍の誰ひとり想定していなかったのである。そして、帝国軍の構成も不運を呼んだ。上意下達を徹底することで精強な軍を確保していた帝国軍ではあるが、予想の範疇外で次々と発生する事態に対応しきれず、城内に...ハーツストーリー75
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第五章 祖国奪回 パート4
ゴールデンシティ総督府、言わずと知れた黄の国王城の歴史は創設者たるファーバルディ大王の時代にまで遡る。当時のゴールデンシティ周辺は至る所に芦が生える湿地帯であったという。だからこそ、当時大陸を支配していたフラン帝国をして重要な拠点とは見なされなかったのである。当時の中心...ハーツストーリー74
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第五章 祖国奪回 パート3
「案外、すんなりとことが進みましたな」
フィリップ市役所の一室でロックバードが言った。フィリップ市を陥落させて数日が過ぎた日のことだ。
「ちょっと汚い手だとは思ったけど、仕方ないよね。それに思わぬ収穫もあったし」
リンは笑顔でそう言うと、アレクが楽しげに頷いた。
「お...ハーツストーリー73
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第五章 祖国奪回 パート2
それから、三か月余りの時が過ぎた。
田畑が実り始め、そろそろ秋の収穫を心待ちにする季節である。内務官の連中は農地改革令通りに税務処理が収められるかどうか、気をもむ毎日を過ごしている様子だった。とはいえ皇妃であり、武人であるアクにとってそれは関係のない業務で、ただ日々の...ハーツストーリー 72
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第五章 祖国奪回 パート1
もう、一年も経ったのか。
バラートを連れて、久しぶりにお忍びで帝都市街へと赴いたアクは、不意にそう思うとその足取りを止めた。
「皇妃様?」
怪訝そうに、バラートが訊ねる。
「もう、一年も経った。」
ぽつりと、アクは言った。一年。悪夢のようなルーシア遠征へと出立...ハーツストーリー 71
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第四章 ガクポの反乱 パート7
「レン様、帝国軍全軍の降伏が完了いたしました。」
ガクポがそのような報告を持って訪れたのは、ハンブルク将軍を討取ってから一時間余りが経過した頃合いであった。場所はグリーンシティ総督府の三階、元々はミク女王の謁見室として利用されていた広間である。御苦労さま、とリンは...ハーツストーリー 70
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カイトとみんなと新年会!
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第四章 ガクポの反乱 パート7
視界良好、ガクポは上手く立ち回ってくれたみたいね。
人が駆ける地響きと、狂気に近い興奮を持って叫ぶ武装集団の叫びを身体全体に感じながら、それでも総督府を守護する鉄扉は重々しく開かれる。土ぼこりの先に現れた、グリーンシティ総督府、ミルドガルドで最も美しいと評される建...ハーツストーリー 69
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第四章 ガクポの反乱 パート6
どうやら、上手く進入できたようだ。
テトが内壁南門を守備する衛兵との会話を終えて、一度止めていた馬車を再び移動させる気配が伝わると、ガクポは安堵したように、周囲に気取られない程度の溜息を漏らした。先日のテトとの会談から一週間後。五月二十一日の出来事である。今頃、リ...ハーツストーリー 68
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第四章 ガクポの反乱 パート5
「ガクポには、グリーンシティを制圧の後、リンツ経由で帝都へと進軍してもらいたいの。」
一通り過去を懐かしんだ後に、リンはリリィが用意していた地図で指差しながら、ガクポに向かってそう言った。リンツは旧緑の国と旧青の国との国境に位置する街である。
「了解いたしました...ハーツストーリー 67
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第四章 ガクポの反乱 パート4
およそ、五年ぶり、になるのかしら。
ルワールから東方へと向かい、旧緑の国の領域に突入して数日後、パール湖街道の終点へと近付いたリンは、感慨深そうに周囲の景色を見渡した。整備する人間もいないのだろう。あの時訪れた時よりも天然の気配が強くなった、鬱蒼とした森に囲まれた...ハーツストーリー 66
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第四章 ガクポの反乱 パート3
「ん、気持ちいい!」
ぐい、と両手を真上に伸ばしながら、リンは心から楽しげにそう言った。その動きに合わせるように、先日のように短く括った後ろ髪がぴん、と小さく跳ねる。初夏の気配を感じる、春真っ盛りと言わんばかりの陽光に温められた体温が清々しく、そして心地よい。のん...ハーツストーリー 65
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第四章 ガクポの反乱 パート3
「そう、ガクポが・・。」
時を戻して、五月六日の夕刻。リリィからことの詳細についての報告を受けたリンは、感極まった様子でそう呟いた。場所はルワール城二階に位置している応接間兼会議室である。
「ガクポ殿は、決起の前に戦略のすり合わせさえ行えばすぐに行動に移って頂け...ハーツストーリー 64
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第四章 ガクポの反乱 パート2
用意された、自家製なのだろう、簡素な木製椅子への着席を進められながら、リリィは戸惑った表情を隠すことが出来ずにいた。窓の外から柔らかに降り注ぐ光の筋に照らされて、室内は思った以上に明るい。その中央にある接客用のテーブルに腰かけたガクポの姿をなんとなくぼんやりと眺めな...ハーツストーリー 63
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第四章 ガクポの反乱 パート2
それから四日程度の時間が過ぎた、四月二十四日、太陽が中天からほんの少し西へと傾いた昼過ぎに、リリィはいつまでも果てなく続く林道をただ一人、パール湖へと向けて北上していた。汗ばむ程度の陽気ではあるが、日光を遮る木立のおかげで、寧ろ心地の良い涼しさを味わうことが出来る。...ハーツストーリー 62
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第四章 ガクポの反乱 パート1
本来であるならば、時系列に沿った論述の行い方が最も理解し易く、優れている手法であることは十分に理解しながら、それでもここで私はこの文章をお読みいただく全ての人に対する謝罪を込めて、そのカレンダーを二週間余り、巻き戻すことを要請しなければならない。後世にルワールの戦い...ハーツストーリー 61
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革命の闘士
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第三章 決起 パート20
終わった。
大きな打撃を受けながら、それでも最低限の秩序を保ったままで撤退してゆく帝国軍の様子を眺めながら、リンはそう考えて徒労にも似た溜息を一つ漏らした。顔の辺りが気色悪い。自慢の髪も妙にごわごわとした感覚があるところから察するだけでも、自分が大量の返り血を浴びている...ハーツストーリー 60
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第三章 決起 パート19
よかった、間に合った。
先頭を走るウェッジに遅れまいと騎馬を操作するリンは、既に本隊との乱戦が開始されている前方の様子を見て安堵するようにそう呟いた。まだ、本隊は突破されていない。
「覚悟は、ついているか?」
振り返りながら、ウェッジがリンに向かってそう言った。速い...ハーツストーリー 59
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第三章 決起 パート18
火砲を失ったことが、或いは良い効果を生むかも知れぬ。
多少目減りしたものの、それでもほぼ全軍が生存している状況にある帝国軍を率いるハンザは、明らかにその行軍速度を上げた部隊の様子を眺めながらそのように考えた。先程川向こうからの砲撃により損傷したカノン砲は全て街道に放置し...ハーツストーリー 58
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第三章 決起 パート17
多分、このあたりだと思うけれど。
密かにルワール城を抜け出してたった一騎で農道を走り続けていたセリスは、ルワール城から無断で拝借してきた周辺地図と周りの景色を見比べながらそのように考えて一度馬の歩みを止めた。先程から砲撃が続いているところを見ると、もう既に戦は始まっ...ハーツストーリー 57
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第三章 決起 パート16
雷雲が一度に訪れたかのような、大気を揺るがす爆発音が響いた。それと同時に、数十メートルの上空にまで砂埃が巻き起こる。だが、その成分は砂ばかりではなかった。赤く染まる肉体の破片と交じり合って、砕け散った鉄片もまた空中を乱舞している。唐突に前方の火砲隊を襲った爆発の意味をハン...ハーツストーリー 56
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第三章 決起 パート15
どうもまだ、慣れないな。
帝国軍迎撃の為にルワール城を出立したアレクは、歓呼の声で見送りに訪れた群衆の姿を眺めながらどうしてもそのようなことを考えた。成り行きで国民党党首という立場を拝命することになったとはいえ、これまでは基本的に影役として活躍していた自分がこのような大...ハーツストーリー 55
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第三章 決起 パート14
髪形を変えたリンが作戦本部となった応接間にその姿を現した時、その場に集合していた一同は揃って感嘆の声を上げることになった。まるで生まれ変わったようなリンのその姿に、リンとレンは双子という事実を改めて認識した同席者に対して、リンは一言目に、こう宣言した。
「帝国軍と戦いま...ハーツストーリー 54
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第三章 決起 パート13
「リン、どうしたの?」
応接間を出て、揺れる両脚を引きずるように歩き出したリンに向かって声をかけた人物がいる。厨房で昼食の手伝いをしていたハクであった。
「ん・・なんでもない・・。」
力なく、リンはハクに向かってそう答えた。
「なんでも無くはないわ、リン。とても疲...ハーツストーリー 53
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第三章 決起 パート12
だが、リンにとって思考できる時間は二週間と与えられていなかった。いつまで経っても法案に対する返答を寄越さないロックバードに対して、帝国が痺れを切らせたのである。そもそも、帝国が元黄の国の軍事大臣を務めていたロックバードに対して臣下としての信頼を寄せていたかというと、決して...ハーツストーリー 52
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第三章 決起 パート11
「キヨテル殿は、なんと?」
キヨテルが退出した後にルワール城の玄関ロビーへと姿を現したアレクは、リンに対して一言目にそう訊ねた。
「協力は惜しまない、とのことよ。」
無事に面会を終えて安堵した様子で、リンはそう答える。
「これから、如何致しますか?」
アレクの問...ハーツストーリー 51
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第三章 決起 パート10
「国民が代表者を選択する、というのですか。」
全てを語り終えたとき、アレクは話の内容を整理するように、落ち着いた口調でそう言った。そのアレクに向かってリンは力強く頷く。
「確かに面白い考えです。権力の主体は国王ではなく、国民にあるということでしょうか。」
「国民の権...ハーツストーリー 50
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第三章 決起 パート9
あたし、どうしたら良いのだろう。
眠れない身体を弄ぶようにベッドに仰向けになったまま、リンはそのように考えた。カーテンを閉め切っているから、リンの私室は視界が全く届かない暗闇に包まれている。天井を見上げているというよりは、まるで闇の中に一縷の光を捜し求めるかのようにリンは...ハーツストーリー 49
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第三章 決起 パート8
ルワール城の玄関までキヨテルとユキを見送ったリンは、最後まで大きな手を振りながら別れを惜しむユキの姿が街中へと消えてゆく様を見届けると、疲れを感じる重たい溜息をその場に漏らした。今更、あたしに何が出来るのだろう、と考える。もうあたしは黄の国の女王ではない。それどころか、公式...ハーツストーリー 48