第十章    

気怠さを纏った「今日」という朝。
私は起き上がり、左の手首の痛みに「あぁ…そうか」と昨日のリスカを思い出していた。
腕捲りをし、自分で付けた傷を見ると、思いがけない程の大量の傷があった事に
驚いたのだが、昨日の私は自分を見失う程「辛かったのだろう」そう思う他無かった。
彼からのdmが来なくなって、季節も巡り、日々は過ぎて行くのに、
いつまでも、いつまでも彼は私にとって「特別」をくれた人であり、
「光」そのものだったのだ。
気怠い身体と共に自室へと向かい、香水を纏い煙草へと火を点けた。
煙草を持っていた右手をゆっくりとゆらゆらと揺らし、私はその煙を眺めて考え事をする。
今、彼は元気かな、忙しいのかな、今は誰の事を想っているのかな…色んな考えが廻る。
彼は「私を一番」にしてくれた「唯一」の人。
そんな昔を思ったって帰って来る筈なんてないのに、今でも私はきっと
どこかしらで彼に「期待」をしてしまっているのだろう。
出逢った当時から「期待」だけはしないでおこう、「いつかは離れてしまう」そう
頭に入れていた分、私は彼に対して怒りを感じてはいなかった。
あまりにも怠い身体だったのだが、今日という「日常」を私は過ごさねばならない。
私は「日常」を「平常心」で過ごす事に尽力を尽くしていた。
昼間は一人で楽しそうに過ごしてみたと思えば、夜になれば「孤独感」に苛まれる。
今迄となんら変わらない日々を淡々と過ごしていた。
また「詰まらない日々」が私を襲う。
「愛情」ってなんだっけ…「好き」ってどんな気持ちだった…?
私は自問自答しながら、頭の中で恐らく一生見つかる事のないだろう
「答え」を探し続けていた。
それからの1週間、私が自分に傷を付ける事はなかった。
彼との記憶が消えないまま、春を迎え「危ないからしないでね」と
私のリスカを心配してくれていた彼からの「言葉」に救われていた様に思う。
パートナーとの時間は私に異常な程の「疲労感」を与え続けていたが、
時間と共に私は「死ぬ」事よりも「生きてみよう」そんな風に考える様になっていた。
きっと「死」を選べば、彼の一番になれたまま私は「幸せだった」と
思えた筈なのだが、いつの頃からか私は「私の人生を全うしよう」そう思う事が
出来る様になっていた。
きっかけなんてものは、とてもちっぽけな物で、暖かくなって来た空を見上げ、
空があまりにも青く美しかったから、かも知れない。
もしくは、好きな香りの新しい香水との出逢いだったかも知れない。
「理由」なんてものは私には分からなかった。
私にとって誰とも話す事ない「日常」を過ごしている間に季節が夏へと変わる頃になっていた。

ライセンス

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月は嗤い、雨は鳴く

彼と連絡が取れない時間主人公は孤独に苛まれ続けるが、「生きてみよう」そう思う様になっていた。

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投稿日:2024/04/26 01:55:47

文字数:1,120文字

カテゴリ:小説

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