マウスを弄る音と、パソコンからの起動音が響く。
それと同時に響くのは、誰かの笑い声――





書きこまれたメッセージ。
それは往々にして、だれにでも見られるもの。
書きこまれるメッセージ。
書きこむのは彼女――「マトリョシカ」。















某掲示板内スレッド 【マトリョシカの呟き】より



1・ユーザー:マトリョシカ ID:5ajw2k4
頭痛い(´Д`)
頭痛薬効かないしww
今日は新しい時計買うつもりだったのにー

2・ユーザー:名無しさん ID:m94a8qs
大丈夫??(´・ω・`)お大事に。
新しい時計買うって、どうしたの??時計とか壊れた?

3・ユーザー:マトリョシカ ID:wt3m75j
そうなのー。針が4時の所でずっと止まっててww
なんでだろwwまぁいっかww
今日は寝る(´д`)










疲れた。
頭痛がもっと酷くなったんじゃないの??
気のせいか、幻聴まで聴こえてくる気がする。誰かの狂った歌声。
頭痛が歌う歌声――。

いい響きかもね

はは。

狂った歌声に妄想が継ぎ足されていく。

この歌は、あの「名無しさん」とかいう奴の声なのかも知れない。
「お大事に」
これは、本心からの言葉なのか??
「お大事に」
これは、ただの社交辞令なのか??

――後者だったらいいな、と私は強く思う。

そうでもないと、この悪寒が止まらないわ。
本気で人を思いやれる「善人」なんて、現実世界に存在する訳がないもの。
善人なんて、悪寒どころじゃない。怖気まで走ってしまう。後は……寒気と、震えと…………

ふふ、私は何を考えてるんだろうね??

机の上の小さな地球儀を回してみる。
くるりくるり。
もう1回、くるり。
次は逆さに世界を回して。
くるり、くるり。

私の世界は、この薄暗い部屋の中だけ……

外の世界の事は、誰も教えてくれない。
逆さに回るだけ。
まるで、この地球儀の様に、くるりくるりと…。


ああ、頭が割れそうだ。


記憶も、全部全部投げ出せるなら―――





モニターの中。

新しいコメントが綴られていた。





4・ユーザー:名無しさん ID:mn35gh7
おはよう!!よく眠れた??
私は今日学校だよ!部活があるんだ(^^ゞ





少し顔をしかめたりして。ふうん、この人ちゃんとした生活送ってるんだ。

「私は今日学校だよ!!」

学校…がっこう、だって。
何処の学校なんだろうね?ふふ。





5・ユーザー:マトリョシカ ID:k24S7w6
おはよー(* ̄O ̄)ノ
私は●●県の○○市、R高校に通ってるよ^^
名無しさんはどこら辺に通ってるの??
返信待ってるよ(^-^)/





ふふ。

かつて――とはいえ1ヶ月前だけど――通っていた高校の名前を出してみた。

どんな返信が来るのかしらねぇ??

ふふ、ふふふ??











6・ユーザー:名無しさん ID:y52dx4c
嘘っ!?私も●●県の○○市、R高校だよ♪
まさか2―A!?返信遅くてごめんねm(__)m





がたり。

「にの…えー??」

嘘でしょ………??



1ヶ月前…

初夏の空気の中…

…………痣…



どうしよう、どうしよう

嘘だ嘘だ、こんな事あっていいはずが、無い…


ビーン、ビーン。
どこかが壊れ、スクロールすると弦を弾くような音がする、マウス。
ひたすらスクロールさせる。意味も無く。

ビーン、ビーン。










その時、私の心に更なる闇が目を醒ました。





あはは。

私はどうなっちゃうんだろうねぇ??

復讐でもない、恨みでもない…でも、憎い。
嗚呼。こんな感情、どうしようか。



…ちょっと教えてくれないか??





キーボードを狂ったように叩いていると、小さい時習っていたピアノを思い出した。
ロック?ポップス?名前も忘れた曲。1番得意だったやつ。
鍵を叩くように、キーを叩いてみたりして。
画面に浮かび上がる、不規則で意味不明な文字。

ねぇ。これに合わせて、ステップを踏んで??
踊るのは勿論、あなた。
ほぉら、ワン、ツー。ワン、ツー。無限に永遠にステップを踏みなさい!


そして、宙を舞うのよ。
さぁ、早く。
もっともっと、もっといっぱい舞って頂戴??









もっといい事思い付いた。
あいつが宙を舞うのに合わせて、手を叩いて囃してあげるの。
狂ったように。

ううん、私はもう狂ってる。
――この世界も。





窓から差し込む真夏の光が、部屋の温度を溶かしてゆく。

世界の温度が溶けて行く。










7・ユーザー:マトリョシカ ID:3ku7v9f
私も2―Aだよ♪すっごい偶然!
何部?私は吹奏楽部だよ(・∀・)

来週の火曜日空いてる?よかったら会わない??

8・ユーザー:名無しさん ID:65wy0z9
私も吹奏楽部だよ!ほんとに偶然だね!
火曜日は空いてるよ^^





「…うわ」

あんた吹奏楽部なの?私と同じ部活??

吹奏楽部の2年――

あいつ?それともあの子?
――そんなの、どうでもいいか。





重要なのはね。

私が、貴方を憎んでるかどうか。



独りの私が、仲間がいる貴方を憎んでるかどうか。





ふふ。なんだろう。

この気持ち。










そういえば。

来週の火曜日。
あいつと会うのね。
つまりは、あいつとデートって事かしら?
デート…なーんか、違うわね。
逢い引き??古すぎ。
オフ会??しっくりこない。
………ランデブー??

………ランデブー!!

ランデブーよ、そうよ。とってもいい響きだわ。
貴方とランデブー。
私と一緒よ?どーぉ?嬉しいわよねぇ??

一時の冒険へと向けて、足取りが歪んでいく。

1、2。1、2。
ステップ踏んでみたり。
あら、さっきのステップとまるっきり同じだわ。

一時のアバンチュールに向けてほら、歪む、足取り。
















霧がかかる。
世界に霧がかかる。

部屋は、なんか白っぽい――でも、どこか極彩色の霧で埋め尽くされ。

そして――
そして。











学校。初夏の空気。
そんな所に私は立っていて。それが変な事なんて、私は思いもしない。

「あ」
「来た」
「来なくていいのに」

ひそひそひそ。
幻聴みたいなものが耳に入る。
次第に、それは罵声へと変わり。

「ねーえー」
「まだ来てんの??」
「しぶとーい」



コワイ。イヤダ。



みんな私に詰め寄らないでよ
みんな私をそんな目で見ないでよ

怖いよ



痛みが走り、床に落ちる身体。衝撃が私を貫いて。

イヤダ





誰も、助けてくれない。
その代わりに与えられるのは、ただ、蔑む目線。

汚いとか虫けらとか死ねとか、そんな言葉がふりかかる。



ああ、吐きそうだ。
誰かにこの思いを吐き出したい。
私の全部、受け止めて??…



誰かが教室に入ってきた。

「おはよう??」

「おはよう!」
「あら、ミクちゃん」
「よ、ミク」

あ。
長い長い、綺麗な緑の髪………


来た。
どうしよう。
私は、ただ無力なまま。

あっちは、お嬢様。
私は、…ただの、虫けら??





どうしてあの子だけ??
私はこんなにも酷い扱いをされて、大人は見てみぬ振り。

どうしてあの子だけ??
彼女はみんなにちやほやされて、大人はみんな騙されてる。



憎い。





あいつが、

憎い。





許さない。
殺してやりたい程に、憎いから。



ねぇ。
ちょっと聞いてよ、大事な事。

これが夢では無いのなら。

頬を抓る――











「………あ」

目が、覚めた。
途端に、
絶叫。



ああぁあぁああぁああぁあぁああぁああぁあぁああぁああ



あんな事、思い出したく無かったよぉ。
怖いよぉ。

憎い、よぉ。





殺してやる。

嗚呼、そうよ。



殺してしまえば、いいのよ。教えてもらうまでもないわ。こんなにも簡単なんだから。
こんな感情、どうするかなんて。





「痛いよ…許してよぉ…」
今まで私が言ってた事、今度はあなたに吐かせてあげる。
あなたをちやほやしていた、あいつらの前でね。

「待って!待って!」

あなたの声が聞こえるわ。
待ってなんて言われても、待たないわよ??
痛みを思い知らせてあげる。
あなたが、たった1人になる前に。
あなたがあいつらに見下されるように――




















火曜日。
駅で待ち合わせていると、パーカーを着た緑の髪の子が走りよってきた。
あらかじめ当日はパーカーを着るって2人で決めていたのよね。目印になるし。
「あの…グミ、さん??マトリョシカさん?」
「うん。名無しさん?ミクさんなの??」
「そうよ、行きましょ!」
そんな会話を交わして。

――さぁ、どこ行きましょうか。

相手の心は読めてる。
あいつはきっと、自分が傷ついた場所でやる筈だわ。
まぁ、私の勝ちは決まってるけど――


「……で~」
「へーそうなんだ、面白いね」
他愛もない話――とはいえつまらないけれど――をしながら、歩く。
気がつくと。

「…学校、来ちゃった」

…思った通り。
なんだろう、酒に酔い潰れたようっていうの??

…楽しい…

「ここで立ち話もなんだし、入んない?」
「そうだね」
今、こいつは思惑通りだって喜んでるのかなぁ?
本当の事知らないで。

がちゃり。
教室に、入ろうとして。

あ。

先に入ってあげようかしら。あの子の思惑通りにしてあげるの。

最期まで。

「なんか懐かしい感じだよね」
「ずっと行って無いからね」
まだ??まだ来ないの?
早く来なさい、
グミ。



不意に後ろからの気配――

「あっ!!」
グミの焦った声。
それを楽しみながら、隠し持っていたナイフでほら。

ぐさり。











血が、流れる。





「あなた、いっつも狂ってる。そんなんだからこんな所で死ぬのよ」

死なない…

「最期の挨拶でもしたら?」

最期なんかじゃない…

ミクは去っていった。









あはは。
乾いた、笑い。



ミク、あなたは私を狂ってるって言った。
あなただって…充分、狂ってるわよ。
流れ出る血が、その証拠。

なんだろう。なんだか、頭に響く歌声。
それは、あの曲。
ピアノで弾いてた、得意な奴。

頭に、巡る。

どんちゃん騒ぎを起こして、小爆発が光り、誰かが踊る。手を叩いて、囃して、「もっといっぱい舞って頂戴」って声がして。小爆発。






逆さに回ってたのは、私の世界だったのかな











意識が、暗く、寒く、――


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

マトリョシカ【を、小説化してみた】


瑠璃です。
何故かな、何故かな、原曲様に申し訳ないww
ごめんなさい、グミを殺して……
中途半端な終わり方で…

閲覧数:730

投稿日:2011/09/03 19:34:16

文字数:4,511文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • るのら

    るのら

    ご意見・ご感想

    神だwww私的マトリョシカはじめてみたwww

    2011/10/03 17:12:25

    • 美亜 瑠璃

      美亜 瑠璃

      メッセありです、瑠璃です!

      神だと!?神なんて嬉しい限りで、、、w
      マトリョシカはストーリーが無いんで私的に感謝(何

      でわ。

      2011/10/05 18:26:22

  • GORIRA

    GORIRA

    ご意見・ご感想

    なんかよかったです
    GUMIが殺されたのはちょっとアレなんですけど
    んーまぁ
    よくできました
    次のも期待します

    2011/09/30 22:19:19

    • 美亜 瑠璃

      美亜 瑠璃

      メッセどもです!瑠璃です。
      GUMIを殺すとき、マジで迷ったんですよw
      ミクにしようかGUMIにしようか(危

      次への期待どもでした^^

      2011/10/05 18:23:47

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