(前話末文)

マージ「・・・・ふぅ~。皆さん、初めまして。マージと申します。それでは始めましょうか。イッツ ア ショータイム!」

<Dear My Friends!第2期 第21話 黒の魔導師>

(ヤマト国 オーエド地区 セントラル区 オーエドアサクサバヤシ線跡 ニンギョーチョウ駅付近)

 灯りがほとんど無い、旧地下鉄跡の地下道の“空気感”が、明らかに一変したのを全員が感じ取っていました。地下道とは思えない“コレまでのルォとのおちゃらけ戦闘“の空気感とは違い、鎧武者のような姿の”マージ“から発せられる”強力な戦闘力と破壊意思の力“は、戦闘向けだろうが、防御向けだろうが、分析向けだろうが、どういう相手にも伝わってしまう、そういうシロモノだった。

 テルはルォの行動への呆れた感を感じた顔つきから、引き締まった顔に一変した。

テル(想像以上に危険なヤツ・・・・どうするか・・・・)

 アペンドも杖を構えた右腕が震えていた。

アペンド(お、落ち着くのよ、アペンド…。大丈夫、相手は機械なんだから、そう、所詮機械なんだから…)

 レンも同じく、キリッとした“勇者の顔”に戻ったのでした。

レン(こいつ・・・・できる! 武者の姿ということは、おそらく物理。僕の出番か!)

 リンは震えていた。

リン(こ・・・・怖いよ・・・・こいつ・・・・悪意の塊・・・・)

 ルカ姫まで珍しく震えていた。

ルカ姫(じょ、冗談じゃ無いわ・・・・あんな凶器の塊、相手に出来ないわよ・・・・)

 イアはルォの悲惨な光景が終わった関係で、悲鳴状態から落ち着いたので、策を練ってみたが、考えれば考える程、行き止まりにぶつかってしまっていた。

イア(疾風? だめ、鎧ではじかれる。電撃? だめ、本体が喰われたから意味ない。火炎? だめ、あんな鎧じゃ効かない。氷結? だめ、そもそもそういうのから守るのが日本の鎧の素材コンセプト。って! 全部ダメじゃ無い!)

 めぐみはすでにリンのバリアーの中で震えていた。

めぐみ(じょ! 冗談じゃ無いわ! あんなバケモノ、どうやって倒すのよ!)

 ミズキとゆうまは、杖を構えた“りおん”の後ろに隠れていた。

ミズキ「ご、ごめんね、りおん、守って!」
ゆうま「ぶ・・・・分析不可能だと! どういうことだ! たいていのギアのデータなら入っているはずなのに!」

 ルコは三人娘のギアの後ろに隠れいていた。

ルコ「デフォ子達、すまない。私ではどうにもならんようだ…」
デフォ子「ルコ様・・・・・・ギア、壊れてもいい?」
ルコ「やむなしだ。だが、替えのギアならなんとか調達できる。君たちの命が優先だ。全員、緊急事態になったら、全電源を切り、全アクチュエーターを停止状態にして、緊急脱出せよ。いいか、ギアで最後までなど、考える必要なしだ!」

三人娘「了解!」

 そして、ここまで無敵の強さを誇っていて、常に冷静だった人物、“学歩”、に異変が生じていた。

 ガクガクガク・・・・

学歩「せ・・・・・拙者が震えている??? い、いや、これは『武者震い』だ。強者と戦えることを本能で喜んでいる、そう、そうでござる!」

 そして、時は動き出した。

マージ「では、死のステージの開幕だ」

***

 ビュン!

 マージはまず、回復役兼バリアー役の“リン”に、見えないような速度で突っ込んでいった。そして、全員があっけにとられている間に、マージはリンの目の前に来て、お辞儀をした。

リン「ひっ!」
マージ「可愛い女の子を殴るのは、“捕食してきたテイマー”の流儀に反するが、古来のRPGでは“回復役をまず消す”、これが定石でな。申し訳ないが、眠っていて貰う」

 ボグッ!

リン「ごふぅ!」

 マージの拳は下から突き上げるように、リンの腹部に突き刺さった。地下道に、嫌な音が響いた。リンのバリアーは消え、杖は手元から落ち、そして、リンはゆっくりと地面に倒れ込んでしまった。

マージ「諸処の事情で殺さないでおく。後で回復してもらいな」

 その光景を見ているしか無かったレンは、反射的に“大激怒”した!

レン「きっ!!!!! 貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 レンはブロードソードを思いっきり振りかぶりながら、倒れているリンの目の前にいるマージに、無策で突っ込んでいった!

レン「リっ! リンをよくもぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 だが、それはマージの術中だった。

マージ「おまえが次に来ることは、チンシャンのサーチからの分析結果でわかっていた。“思い人”だったな? 物理の達人のおまえは“捕食”に値する。とりあえず眠っていろ」

 ガシッ!

 レンの渾身の一振りで振り下ろされた“ブロードソード”の刀身は、マージの手の中にあった。なんとマージは刀身を手で受け止め、握ってしまったのでした。

レン「なっ!」
マージ「こんな古代の鉄くず、よく残っていたな?」

 メキッ!

 マージはブロードソードの刀身を握りつぶしてしまった! そして準備していた左腕を、リンの時と同じように下から突き上げるように振り上げ、レンの腹部をえぐるように拳をたたき込んだのだった!

 メキッ!

レン「ご・・・・・ごふぅ・・・・」

 レンの目は開き、再び嫌な音が響き渡った。

マージ「おまえは捕食する関係で、死なない程度だが、さっきよりダメージを大きくしておいた。とりあえず思い人の横で眠っていろ」

 カランカラン、バサッ

 レンの腕から壊れたブロードソードは落ち、瀕死のレンは、あっけなく、リンの横で気絶して地面に倒れてしまったのでした。

マージ「次はギアの番か」

 マージは高速でデフォ子の紫のギアの胸部に、ジグザグ移動で突っ込んでいった!

デフォ子「う・・・うわぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
モモ「デフォ子ぉぉぉぉぉ!!!!!」
ユフ「こいつぅぅぅ!!!!!」

 ガガガガガガガガガガガ!!!!!!

 三人娘のギアに装着されていた小型のガトリングガンは、とてつもない音を出して火を噴き、マージに向かって銃弾を連射しました。しかし、ジグザグに移動していたマージには、一発も当たらなかったのでした。

マージ「当たらなければ、どうということはない。それでも飛び道具はやっかいだからな。墜ちろ!」

 バゴッ!

 マージの拳は、デフォ子の紫のギアの胸部ハッチを突き破り、内部のデフォ子が搭乗しているコクピットのメインカメラを叩き壊してしまった!

デフォ子「て、停止措置開始! 緊急脱出!」

 シューーーーーン

 デフォ子はギアの全電源、全アクチュエーターを停止して、爆発しないようにし、後部ハッチから緊急脱出したのでした。

マージ「崩落されると困るから賢明な措置だ。それと、テイマーでないギアのパイロットなんぞ、捕食するつもりはない。とっとと消えろ」

 デフォ子は泣きながら、後方で待っていたルコの元に駆け込んだ。

デフォ子「えぐっ…。ごめん! パープル!」

 マージはギアの破壊された胸部ハッチから腕を引き抜き、他2台のギアに向かって、睨みをきかせた。

マージ「私に勝てないことを知ったなら、そのままギアを放棄して逃げろ。同じくおまえらを捕食するつもりはない。ギアは後で回収させて貰う」

デフォ子「モモ! ユフ! お願い! 早く!」
モモ「ぐぅ・・・・緊急停止措置開始、緊急脱出」
ユフ「悔しいけど・・・・・緊急停止措置を開始、後部ハッチ開放、緊急脱出を開始する!」

 バシュ! バシュ!

モモもユフも、それぞれピンクと白のギアの後部ハッチから脱出し、完全停止したギアを後にして、ルコとデフォ子の元に駆け込んだ。

モモ「ピ・・・ピンク・・・ごめんね・・・・」
ユフ「ホワイト・・・すまない・・・・」
ルコ「君たちが無事なだけで儲けものだ・・・・・」

 マージは3台のギアを確認した後、1回うなずいた。

マージ「うむ。間違いなく自爆装置はかけてないな。崩落はなし、と。では・・・」

 マージは、震えているミズキとゆうまの前に立って、極限硬化させた杖を持って、ガタガタ震えながら、マージをにらみつけている、“りおん”に目線を向けた。

マージ「そこの震えている二人は捕食する価値無しだ。ノートPCは後で回収させて貰う。そこの震えている“攻撃力が高い”ガキは捕食対象だから、眠って貰う」

 りおんは狂ったように杖を振り回して、マージに突っ込んでいった。

りおん「うわぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!!!」

 しかし“機械の冷酷さ”のマージには、そんな小手先のことは効果無かったのである。

マージ「ほぉ、その杖は持ってきてくれたか。なら」

 りおんはマージの目の前で、マージの横っ腹に杖をぶち込もうとしたのでした。しかし…

 ガシッ!

マージ「よこせ」
りおん「ひっ!」

 ガシュ!

 なんとマージは受け止めた右腕をそのままにして、左腕でりおんの腕を強く握り、痛みに耐えられなくなったりおんは、杖を落としてしまったのでした。

 ひょい

マージ「使わせて貰う」

 マージは落ちた“堅くなったままの杖”を拾い上げ、目で確認したのでした。

マージ「んじゃ、眠ってろ」

 ゴンッ!

りおん「がっ・・・・・・・・・・・・・・・」

 マージは、なんと、その杖でりおんの前頭部を軽く叩き、ショックを与えた。りおんはたまらず気絶し、地面に倒れ込んでしまった。そのりおんをマージは冷徹に確認したのでした。

マージ「捕食対象3人目、確保完了。それでは次は“最後”の対象者か」

 マージの冷たい目線は、何も手が出せず、自己嫌悪に陥ってしまっている、”学歩“、に向けられていた。

学歩「せ・・・・・拙者が、何も・・・・手が出せない・・・・だと・・・・そんな事・・・・」

 ツカツカ…

 マージはゆっくりと学歩に歩み寄っていった。

学歩「そんなこと・・・・ゆるさん!」

必死に、鞘に収まっている愛刀の柄を握って、低い姿勢に移り、“居合い切り”の体制を整えたのでした。

マージ「ほぉ、居合い切りか。そういえば、昔、捕食したサムライがそんな技を使ってきたな。“ゴエモン”とか言ったな」

 ツカツカ…

学歩「機会は一度だけ・・・・一刀両断・・・・・」

 マージは学歩のすぐそばだった。

マージ「まぁ、やってみ」

 ピタッ

 マージは学歩の目の前で、なんと自分から止まった。その刹那、学歩の構えた右腕から、愛刀が鞘から抜かれたのだった!

学歩「斬る!」

 ビュンッ!!!
 ビュンッ!!!

学歩「そ・・・・・・そんな・・・・ば・・・・ばかな・・・・」

 それは全くの同時だった。学歩の抜かれた愛刀の刀身は、見えない速度で反応したマージの右腕に捕まれていた。マージの手は斬れもせず、何も変化が無いまま、平気でカタナの刀身を掴んでいたのだった。

マージ「ふんっ!」

 パキーーーーーーン!

 力を込めて握ったマージの拳は、学歩の愛刀の握られた部分の刀身を粉々に握りつぶしてしまい、刀身のカケラは無残にも地面にパラパラと落ちていったのでした。

学歩「わ・・・・・我が・・・愛刀が・・・・・」

 ゴンッ!

学歩「ガッ・・・・」

 バタッ

 それは流れるような一連の動作だった。さっきりおんから奪った堅い杖で、呆然としている学歩の前頭部を殴り、捕食に問題無い程度のショックを与えた。学歩は瞬時に気絶し、地面に倒れてしまった。

マージ「これで捕食対象全員確保か」

 それはほんの30秒程度の惨劇だった。ルォ戦であれだけ無敵の強さを誇っていたテル達やギアパイロット達だが、マージ戦で残ったのは、アペンドとテルとイアとルカ姫とルコだけになってしまったのでした。

マージ「そこの銃を構えた姫は論外。もう一人は“別の素材反応”がある故、生け捕りにする。指揮官は放っておく…」

 ガクガクガク・・・・・

イアもルカ姫も、もう何も手が出せなかった。魔弾銃の引き金に人差し指をかけたまま、硬直していた。

イア「わ・・・・私も・・・・・捕まる・・・・」
ルカ姫「こ・・・・・・怖いよ・・・・・・お父さん・・・・・お母さん・・・・・ピコ・・・・た・・・・助けて・・・・・」
ルコ「ぬぅ・・・・・・どうにも出来なかった・・・・・・・」
アペンド「リンちゃん・・・・・・レン君・・・・・・学歩・・・・・りおん・・・・・・みんな・・・・」

 しかし、その中、一人だけ、目を細めて、マージの所行を冷静に見つめていた人物がいました。

 『テル』、でした。

<“前のバージョン”に続きます>

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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Dear My Friends!第2期 第21話 黒の魔導師

閲覧数:521

投稿日:2013/07/29 14:11:08

文字数:5,257文字

カテゴリ:小説

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  • オレアリア

    オレアリア

    ご意見・ご感想

    enarinさん、今晩は!
    楽しみにしていたディアフレの続き、拝読させていただきました。

    しかしルォがギアと合体して生まれたマージの力、自分の予想の斜め上をいっていました。まさかここまでとは…!
    これこそが、ギアの真価と言えるのでしょうか。

    でもそれ以上に予想外だったのは、テルの力でしょうか。さすが元アフス帝国の魔導師、未知の近代兵器を魔術で葬るとは。もしディアフレ一期の中立地帯の取引で、アペンドさんとテルが戦いを交えていたとしたら…その顛末が想像つきません(笑)

    そう言えばマージと聞いて、魔術師の呼び方にもメイジ、ドルイド、ソーサラー、ウィザードとか色々ありますよね。今後出てくるテイマー上層部のギアにも、このような名前が冠されるのでしょうか?

    さて、残酷な方法で処刑されたマージですが、ルォとは完全に同化してしまったのでしょうか。それとも…?
    次回も何か大きなことがある予感がしますね。楽しみにしてます!

    2013/08/01 20:57:32

    • enarin

      enarin

      オセロット様、こんにちは!

      > 楽しみに

      毎回楽しみにして頂き、とても嬉しいです!

      > ギアの真価と言えるのでしょうか

      はい。最初のルォのインストールなんて、所詮量産型。これから出てくるテイマーのギアは全部”上級テイマー用の専用ギア”なので、テル達でもそう一筋縄では倒せません♪ ただあんまり引っ張るとつまらなくなるので、適度の長さで戦闘は終わらせるつもりです。今回も次回わかる”事情”がなければ、最後あたりで決着させる程、強い予定でした。

      > 未知の近代兵器を魔術で葬るとは

      ギアもテイマーも、そもそも恐ろしく強い連中です。ただミゥ達が使うモノ以外の、”魔術データ”、がほぼ皆無なので、そういうものに対する対処が無かったのが敗因ですね。

      > その顛末が想像つきません(笑)

      テルもフォーリナーの兵士を平気で燃やしてしまった経緯があるので、もしかするとアペンドにも…、と思うのですが、相手の力量と行動で、慎重にもなるようです。今回はテルでも、内なる怒りが爆発した形になりましたね。

      > このような名前が冠されるのでしょうか?

      えっと、ここで種明かし。

      1)テイマーの名前:これは最近の新規海外ボカロを使ってます。中華以外の国のボカロも出てきますよ。テイマーとして。

      2)ヤマト国に到着するまでの地名:ボカロエディターのパラメータの名前

      ヴァロム町:ベロシティ(VEL)
      ダイナム町:ダイナミクス(DYN)

      など

      3)ギアの名前:これは全部、PCのアプリケーションの命令の名前を使ってます。

      ルォのギア1”インストール”:アプリの導入(install)
      ルォのギア2”ダウンロード”:データ受信(download)
      ルォのギア3”マージ”:2つのプログラム等を1つに融合(merge)

      チンシャンのギア”サーチ”:検索(search)
      ティエンイのギア”ニューファイル”:新規ファイル作成(new file)
      マカ(のギア)”エディター”:編集(editor)

      > ルォとは完全に同化してしまったのでしょうか

      ヒントはテルの台詞。

      『おまえ自身を手に入れ、ルォを取り戻させて貰う』

      この言葉の通りとなります

      > 楽しみにしてます!

      ありがとうございます! 次回は大きな動きです。テル達にもテイマー達にも。

      このたびのご閲読、コメント、有り難うございます!

      2013/08/02 11:50:39

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