走り、足が地面につくたび、水溜りから雨水が跳ねて、少し薄着の服装では、いくらジャケットを着ていると言ってもまだ寒い。
 走りながらリュックから遊園地の一日フリーパスを探し出すと、レンはリュックを肩にかけなおした。元々あるほうでもない運動神経は、既に少し悲鳴を上げ始めている。
 昔から、リンは運動神経抜群で、すこしずぼらで、男勝りな所があって、ホラーやグロに強かったが唯一苦手なものがあった。雷。ゴロゴロ成っているだけで動けなくなってしまう。そして、少し方向音痴。
 遊園地が見えてくる。レンはすべって転んでしまいそうな体に活を入れながら、ラストスパートをかけた。

 寒い。
 冷たい。
 リンはうずくまった。もう一歩も歩きたくない。
 どこかで雷が鳴っている。体がカタカタと震える。鞄を抱えるようにしてしゃがみこむと、下のほうが冷気が溜まるらしい、更に寒くなった。鞄には傘など入っていない。
 両耳をふさいで、息をこらえた。それでも震えは止まらない。
 怖い。
 誰か助けてほしい――。
「――っみつけた…っ!」
 リンは顔をあげた。雨粒が顔に当たる。冷たかった。
 雨に濡れて鈍く光る金髪。
 レンはうずくまったままのリンを抱きしめた。レンの体はこの寒さの中だと言うのに熱くて、絶えず呼吸を繰り返している。先ほどまで懸命にリンを探し、走り回っていた証拠だった。
「滅茶苦茶探しただろうが…。心配させんな、馬鹿!」
 吐息すらはっきりと伝わる距離。
 じわっとこらえていたはずのものがあふれ出してくるのを感じた。
「レンの馬鹿ぁぁぁああっ! 来るの遅すぎ! ずっと怖かったんだからぁぁっっ」

 雨は上がったものの、まだ雲が空を覆いつくしていて、辺りは薄暗い。
 レンはやっと落ち着いたリンの前に座った。遊園地の近くのカフェはこの雨の所為で人も少なく静かだった。
「…もう平気?」
「うん…。ごめんなさい」
「別にいい」
 レンはコーヒーを飲みながら、濡れまくった服を体から引き離すようにばさばさと乱暴に払った。
「飲み終わったら帰るぞ」
 レンが言うと、リンはすばやく顔をあげて、
「待って! 最後に行きたい所があるの!!」

 ドアが閉まって、狭い空間に二人きり。
 ゆっくりと街灯が下へ、下へと下がっていった。
「ここの観覧車ね、きれいな夜景が見えるって…クラスの女の子が話してて…」
「ふぅん」
 リンが少してれたように話すが、レンは興味がないと言う風に座って、頬杖をつくと、窓の外を見た。たしかに、夜景がきれいだった。
「それでね、今日、私、レンに頼りに成るって思ってもらいたかったの」
「は?」
「ちゃんと大人っぽいって…」
「迷路に迷って雷怖くて泣いてうずくまってるのが、大人っぽいのかよ」
 痛いところを疲れた。微塵も大人っぽくは無い。
「レン、ジェットコースター苦手でしょ。だから、レンを誘って、それで、レンが嫌がったら、わかった、じゃあ別の乗ろう? って、そういうつもりだったの。
その後も、わがまま言わないでレンにあわせることもしようと思って、レンにアトラクション選ばせたけど、やっぱり落ち着かなくて失敗しちゃった…」
「なんだよ、それ…」
 まだ少しイライラしているレンは、リンの言葉に心動かされた様子もなく、ギロリとリンをにらみつkた。少し怯えたように身震いしてから、リンはまた話し始めた。
「でもね、私、レンが嫌な顔もしないでジェットコースター乗ってくれたの、嬉しかった。
 迷路だって、手をつないでくれたの、すごく嬉しくて。
 覚えてる? 私、ジェットコースターに乗ったとき、ドキドキするねって言ったの。半分はレンにカマかけたつもりだった。でも、半分は…本当にドキドキしてたの」
 ぎゅっと胸の前で手を握り締めたリンは、必死にレンに語りかけた。レンはまた窓の外に視線を向けていて、表情すら読み取れなかった。
 今にも泣き出しそうになりながら、リンは言った。
「この観覧車、ジンクスがあるの。観覧車の一番上で告白をすると、二人は結ばれるって」
 そして、ゆっくりと観覧車は回っていく。二人が乗ったゴンドラが、またゆっくりと、上へと登っていく。

「     」

 そんなジンクス、ずっと前から知ってるっつーの。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

Some First Loves 20

こんばんは、リオンです。
今夜はリンのターン!
肉食系の女の子ってすごくいいですね。
実は六人の中で鏡音が一番腹黒カップルではないかと。
どっちもお互いの気持ちに気付きつつ、気付いてないフリをしてそう。

閲覧数:255

投稿日:2011/12/29 23:51:17

文字数:1,774文字

カテゴリ:小説

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  • 美里

    美里

    ご意見・ご感想

    いいですねぇ、鏡音は。

    リンちゃん救出!よかったですねぇ。運動神経があまりないのを自覚しつつ、それでも捜しにいくところとか、特に。レン君かっこよかったよ!最後の一言でもうノックアウトだよ!

    次回は皆でワイワイでしょうか?楽しみにしてます。

    2011/12/30 20:32:18

    • リオン

      リオン

      遅くなってすみません! 鏡音いいですよね鏡音^^

      鏡音は超依存型なので、自分に得意不得意でなく、助けに行かなきゃ行けない衝動に駆られるんです。
      レン、ノックアウトだって! かっこよかったって! きっとお情けだよ!!

      次は平和な回で^^ がんばります^^

      2011/12/30 22:41:06

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