ここに到着して、もう2週間がたとうとしている。
基地では「VOCALOID」用の個室が当てられているが、寝心地は最悪だった。
ロクな夢を見ないのだ。やれ、エルメルトが焦土と化すだの、UTAU最強の「VOCALOID」が侵入しただの、睡眠薬が聞かなくなってうなされるだの、やたら生々しい夢ばかり見る。
やっと昨晩、夢らしい夢を見たと思ったら、自分が例の捕虜の少女を射殺して返り血を浴びていて、あの重音テト――夢に出てきたし、もう間違いないだろう――がニヤリとほくそ笑んで、そこで目が覚めた。
「「VOCALOID」と一緒に戦うな、ってこういう事か……」
普通の兵士の皆さんは、全然平気そうである。曰く、気にする奴は1ヶ月持たないそうだ。頼もしい限りである。
「レンさん、おはようございます」
「あ、おはようございます」
弱音ハクが爽やかに挨拶する。この人、階級は准将で、実は相当偉い。「VOCALOID」と言えど軍事行動は旧来の軍隊と同じノウハウが必要で、かつ一人で前線に出て戦略級戦術級の決断を強いられるので、ベテランになると佐官や将官くらいには当たり前になれるらしい。制式では攻響兵だが、階級の基準が普通の軍人と違うので、大体は皆が「VOCALOID」と呼ばれている。
「レンさん。今日が約束の日ですが、考えていただけましたか」
「はい。僕は「VOCALOID」になります」
「兵科は攻響兵ですが、階級は大佐になる予定です」
「はあっ!?大佐!?、!!!」
「ええ。エルグラスで、「VOCALION」を撃破してますので、その功績を追認する形です」
レンはエルグラスでの事を忘れていた。というか。
「――……、あの時の事、よく覚えてないんです」
「軍は良く知っていますし、戦闘中の記憶が飛ぶのはよくある事です。それとも、階級が高すぎるなら、考慮しますが?」
「いえ、光栄の極みです」
「よろしい。辞令は今日中に渡しますので」
「はい」
こういう時、光栄の極みですと言うとは教えられなかったが、流石に破格の待遇だとは理解していた。
「それと今後ですが」
「はい」
「当分は、普通科と同じ時間に食堂へ行くのは遠慮してください」
「どうしてですか?」
「少なくとも、今の貴方に同じ席に座られると、普通科の兵士は気が滅入ります」
「……!!!」
薄々は感じていたが、ハッキリ言い渡されると結構応える。
「あの、ハクさん、じゃなくて弱音准将」
「ハクで結構ですよ。「VOCALOID」は戦場ではみんな呼び捨てです」
「は、はい、最近変な夢を見るんですが」
気になっていたことを聞いてみた。最近見る夢が、本当の会話ではないかと疑っていたのだ。
「それは夢ではありません。「VOCALOID」の共感、テレパシーに似たものですね」
「やっぱり」
「「VOCALOID」なら誰でも聞けるので、機密の話は余り出来ません。特に緊急の時だけ使用しますし、観測機能のあるレコーダーに全て記録されますので、レン君は当分はやらない方がいいでしょう」
「もしかして、心の声って結構聞こえますか?」
「ええ、まあ。聞く側が拒否すれば聞こえませんが、聞く聞かないの判断が一番難しいでしょう」
サラリと言ってのけるが、かなり図太い神経が必要になりそうだ。
「ま、エッチな事くらいならみんな考えますから?レン君もちょっとくらい妄想したっていいんですよ♪」
ハクさんはそう言って顔を近づけてきた。思わず俯くと、開いたブラウスの襟から真っ直ぐな谷間がハッキリ見えた。
「ちょ、からかうのはやめてもらえますか」
「あらあら。何の事ですか?」
恥ずかしいのと、こんなのでというので、顔を背けた。僕をからかって楽しいんだろうか。
「レン君ったら可愛いんですもの」
「心を読まないでください!」
「読むまでもねえし、ガキからかって遊んでんじゃねえよ」
後ろから声がして振り向くと、亞北ネルがいた。階級は准将、ハクより先任である。一旦は退役する筈だったのが、初音ミクの司令官就任に付き合わされる形で予備役編入からそのまま動員されたという、又聞きでも騙された感の強い経緯があると聞いた。
「お前もデレついてんじゃねえよ。そんで、「VOCALOID」が辛気臭い顔で飯食ってるからって士気下がる様な軟弱者はこの基地にはいない。さっさといけ」
シッシという手と顔で、追い払われる。虫の居所が悪いようなので、それっぽい敬礼をしてその場を去った。
機動攻響兵「VOCALOID」 2章#3
最近寝つきの悪いレン。「VOCALOID」の最初の壁に、どうするレン!
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