「あぁ……今日も雨か……」

憂鬱な気分のボクは駅への道程を1人でポツリポツリと歩いていく。
元から明るい性格ではないし、誰かとつるんで帰るタイプでもない。だが1人でいるのを好んでるわけでもない。
そんな時に限って隣の車に水を思いっきり跳ねられる。

「……最近ついてねーな」

小声で呟いてしまうのも無理はないとボクは思う。
ニュースの合間に天気予報が降水確率は午後には100%になる唱っていたのを聞きそびれ、傘を持たずに出かけ、挙げ句の果てに今日に限って市内の用事を頼まれ、市内移動に使っていた駅の自転車は盗まれている。
Yシャツの上に羽織った白いウィンドブレーカーはもうびちょぬれで、着ても着なくても寒いし、冷たいし、濡れた感覚がとにかく気持ち悪い。確か今日の双子座の占いランキングは一位だったはずだ。ラッキープレイスは水たまりとか訳が分からないと苦笑し、内容は吹っ飛んでしまった。

「……最悪だ」

最近は自分にとって色んな変化が有りすぎた。時季はずれの転校で慣れない環境。出来が悪い自分への嫌悪感や劣等感。いい子を演じる面倒さ。
頭の中を埋め尽くす自分への不安と共に急に何かがじわっと眼の中に溜まり、水たまりに映る自分が不意にぼやける。

「あら…?びしょびしょね大丈夫?」

ボクは自分の眼を疑った。水たまりの中からにょきっとリボンをつけた金髪の少女が傘を差し身体を半身だけ出しているのだ。

「え…あ…のぉ……」

状況が全くのめないボクに対し、少女は何でもないような顔でピョンッと全身を現し、ボクを傘の中に入れてくれた。

「ワタシは水たまりの精霊リン。一人ぼっちで寂しいの…ねぇ雨が止むまで私とお喋りしてくれない?」

彼女の満面の笑みからは一切の悪意を感じさせない。それに…彼女は何となく自分に似ている感じがする。

「良いよ」
とボクは静かに頷いた。すると彼女は「やったぁ!!」と声を上げて更にニコニコとしている。

「アナタのお名前は?」
そっか…名前も知らないんだよなと改めてボクは思う。
「ボクはレンっていうんだ」
すると彼女はボクの名前を繰り返し唱え始めた。

「レンレンレンレン……リン…レンリンレン!!」
「ど、どうしたの?」
「レンって名前、リンとすっごく似てるね!!良い名前だねレン君!!!!」
「は、はぁ………」
あまりにも反応に困る彼女の言動にボクは振り回されていた。
「…あ、ワタシ変なこと言った…かな?」
彼女が顔を真っ赤にして反省し始めたので慌てた。
「あ、ありがとう!!名前を褒められる…というか褒められる事自体最近無かったから……」
「良かった~ワタシ外の世界の言葉に慣れてないから気を悪くさせたかなって」

…慣れていない?彼女はそもそも何処の世界の人なんだ!?と思いながら

「大丈夫だよ。びっくりしただけだから」

と苦笑いでボクは彼女に応えた。

―しとしと雨の中、ボクと彼女は相合い傘をしながら無言で歩く。
彼女は時々ボクを見ては、はにかんでいた。その笑顔の周りには、明るい光が差し込んでるような感じがするほど眩しくて…。
正直羨ましいと思ってしまう。
そう思う自分すらも嫌なボクはゆっくりと溜め息をついてしまった。

「どうかしたの?ワタシまた何か…」
「大丈夫。気にしないで」

笑顔は作れたはずだ。きっと…

沈黙が流れながらも駅への道程をいつもよりのんびり歩く。すると彼女が突然唸りだした。

「うーん……むー………」
「え、ど、どうかした!?」
「何でアナタはどうしてレン君は泣いていたの?」
「……えっ」

突然の質問に狼狽えるボクに、彼女は返答を望んでいるようだった。

「……情けない自分が嫌で…泣いてたんだ」
「アナタは情けある。だってワタシの頼み事無視しなかったよ?」

情けある…か。
情はあるのかも知れないが、情けないというのはまた別次元の話だ。

「ため息なんて吐かないで?」
「あっ……ゴメン」

気付いたらため息まで出てしまっていたようだ。

――…はとて…優し…だから
「ぇ、今なんて…」

呟くような小さな声で所々聞き取れなかったので聞き返すと、彼女はにっこり笑ってボクの頬に触れた。

「雨に全て流してしまいましょう」

彼女が傘を閉じた瞬間、どしゃ降りの雨がボク達目掛けて降ってきた。

「うわっ!!!!?……え、何で!いきなりっ!?」
「久々に能力使ったから加減間違えちゃった……ごめんね」
悪気がないのは解るがそれにしても腹立たしい。
「何の悪意だ!!!早く傘差せよ!!!」
「嫌だ」
彼女の間のない返答にカチンとボクの脳内の怒りの感情に火がついた。

「……何でだよ!!」
最近出したこともないような大声を出すと、彼女は少し間が空いてから、涙がかった声で笑って答えた。
「……だって、ここなら思いっきり泣けるでしょ?泣いたら全部スッキリするよ?レン君自身が嫌だと思うこと、全部乗せてみて…?」

自分だってびしょびしょに濡れてるくせに…そんな……こんなボクでも泣けるような環境を作る為だけに…

「……怒鳴ってゴメンな」

ボクは泣いていた。彼女の優しさが、偽りのない彼女のボクへの想いがボクの涙腺を緩ませたのだ。雨で声も涙も全部かき消されている中で、ただただ目を瞑ってボクを見ないでくれる彼女の前で、ひたすら泣き続けた。

「……ねぇレン君。顔を上げて空を見て?」

ボクの涙が涸れると同時に雨は止み、うっすらと虹がかかっていた。

「うわぁ…虹なんて何年ぶりかな」
「綺麗だね…レン君」
「ありがとう…えっと……リンちゃ…」

目の前にいたはずの彼女は薄くなりかけていた。

「ぇ……り、リンちゃん…?」
「そろそろ…タイムリミットかな」
「タイム…リミット…?」
「ワタシが外の世界に居られるのは一年間に一度、自分が望んだ雨が降っている僅かな時間だけ。だから…お別れ言わなきゃ」
「嫌だ……リンちゃんの世界についても話聞かせてよ!キミともっと一緒にいたいんだ!!」
「……ごめんね。レン君。あと一分しかない」

どんどん目の前で消えてく彼女にボクの眼には再び枯れていたはずの雫が溜まる。

「そんな……!急すぎるよ」
ボクがそう反論すると、ボクの頬を伝う雫をそっと彼女は拭った。

「大丈夫よ!だってまた来年会えるわ」
「来年……」
「だからワタシのこと忘れないで?必ずまたあの水たまりから出てくるからね」

そう言って消えかけた彼女をボクはギュッと抱きしめた。

「約束…だからね……!」
「……うん!!またねレン君」

ボクの腕の中でスーッと、彼女は無数の霧になってしまった。

「……占い。久しぶりに当たったな」

ボクは電車に乗り、あり得ないような奇妙な現実を、ゆっくりとかみしめた。
家に戻ってもずっと自分によく似た彼女の笑顔を思い出すだけで、今まで悩んでたことが全て洗い流されたような気分になった。

翌日、窓を思いっきり開けると雨はまた降っており、ボクは静かに外を眺めた。
てるてる坊主をたくさん吊して、早く来年の梅雨の季節が来てほしいと願いながら、きっとまだ水たまりの世界にいるはずの彼女に話しかけた。

「キミのこと絶対忘れない。ありがとう。来年はもっと長く居てね」

そして、ボクは鏡の前でにーっと笑い、昨日までとは違う日常を歩き始めた。

一年後、彼女に誇れるような自分になるために。


End♪

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【鏡音SS】ボクと彼女の雨模様

しんわ様のイラスト「6月の午後」→http://piapro.jp/t/COnx
を拝見しまして、窓辺のレン君が何を考えてるか妄想に妄想を膨らませ、ラストから書き上げた作品です。
イラストから連想しての作品作りは初めてで完成するまでドキドキでしたww

Twitter上ではみーぼ様がリンのイメージ絵を描いてくださってます。


読んでくださった皆様ありがとうございました^^

文月(@amane_huduki)

閲覧数:739

投稿日:2013/07/02 20:26:52

文字数:3,067文字

カテゴリ:小説

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  • しんわ(慎環)

    しんわ(慎環)

    ご意見・ご感想

    こんばんは!しんわです。

    あまりピアプロにはinしていないので、メッセージに気づくの遅れちゃうことが多くて…申し訳ないです;

    梅雨のイラストはペイントソフトがいつも使用しているものと違うので、少し違って見えるのだと思います(笑)



    早速読ませていただきました。

    一時だけの幻みたいな恋物語…小さい頃に読んでいた少女漫画の読みきりを読んでいるような気分になってなんだか懐かしかったです。

    落ち込んでる時やモヤモヤした時に泣くとすっきりしますよね。この作品のように雨に流されたみたいに心が洗われます。

    梅雨のイラストは最後のレンの挿絵だったんですね。描いた本人も「あの絵のレンの表情ははそういう意味だったのかー!」とビックリしております(笑)

    一枚の絵と一つの小説が合わさって凄く世界が広がった感じがします。こういうのってなんか良いですよね!

    とてもお話が良くて梅雨のイラストイメージにぴったりだったので、
    是非この小説のリンクを梅雨のイラストの方にも貼らせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか…?

    2013/07/01 22:11:21

    • 文月

      文月

      おはようございます。文月ですww

      大丈夫ですよ^^
      私もメール通知が来たとき以外は確認しませんので(笑)

      ペイントソフトが違ってもしんわさんの画力は全く変わらず素晴らしいですっ!!!!(`・ω・´)bキリッ


      読んでくださってありがとうございました!!

      後日談ですが、あの絵のタイトルが「6月の午後」だと後から気付き、……夕方、修正しました(朝と書いてました(笑)

      >落ち込んでる時やモヤモヤした時に泣くとすっきりしますよね。この作品のように雨に流されたみたいに心が洗われます。
      <そう言ってくださると書いた甲斐がありますね((照

      レンの表情を見たときにパラレルワールドにリンはいて滅多に会えない存在というストーリーが浮かんで、膨らませていったらああなりましたww

      その気持ちわかります!
      小説は文字でしか伝えられない。絵はイメージでしか伝えられない。
      でも二つが組み合わさると伝えられるものが無限大に広がりますからね^^


      >是非この小説のリンクを梅雨のイラストの方にも貼らせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか…?
      <…いいんですか!!!!!?
      あ、ありがとうございます!!!
      すごく嬉しいですっ!!!!!!
      ……私も実はイラストをリンクで貼らせて頂きたいと思っているのですが、ピアプロにはあの梅雨のイラストはアップされてないようだったので、ダメかな…とか思ってました(笑)

      2013/07/02 07:11:44

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