気まずい沈黙。
そして、やっと海斗が言葉を紡いだ。
「明衣子先生は、良い先生だと思っていますよ?」
「…え?」
「生徒に慕われるほど授業がちゃんとしてて、優しくて、でもちゃんと厳しくできて。僕はナメられてばかりですから。」
海斗が苦笑を溢した。
「そんな…っ、海斗先生だって、授業、分かりやすいし、私、ちょっとだけど点数上がったし…!」
凛がフォローの言葉を並べる。
すると不意に、海斗がフフ、と笑った。
「凛さんは、優しいですね。僕をフォローしようとしてるんですか?」
それに対し、タジタジになる凛。
「え、あ、海斗先生だって、皆から評判良いんですよ?」
「へぇ、何て言われてるんですか?」
「や、優しくて、かっこよくて、授業が分かりやすいって…皆が。私も、思ってます!」
凛は新たなフォローを入れたつもりだった。だが。
「凛さんも、僕を優しくて、かっこよくて、授業が分かりやすいって思ってるんですか?」
「え。…あ…」
〈しまった、墓穴掘った…!〉
凛は、うっかり自分の本音を言ってしまった。
「…本当の僕は、そんなキレイな人間じゃないのに。」
海斗がボソッと、自分を嘲るように呟いた。
「え?」
「いえ。何でもありません。フォローありがとうございます。」
「…」
凛は嬉しくて、にやけるのを我慢するのに精一杯だった。
そしてふと脳裏に、ハンカチの件が過った。
「あ、そうだ。これ、一昨日ぶつかった時に、取り違えて…ごめんなさい。」
カバンから、海斗のハンカチを取り出す。
「え?…あぁ、ハンカチ。」
一瞬驚いた顔をしたが、すぐに思い出したようで、ハンカチを受け取った。
「ありがとうございます。じゃあ、あのハンカチは未来さんに返せばいいんですよね?」
「あ、はい。」
凛は素直に頷いた。
「補習、続けましょうか。」
「はい。」
それから一時間程、海斗先生は補習に付き合ってくれた。
分からないことは、凛にも分かるまで噛み砕いてキチンと教えてくれる。
どの先生も、凛の出来なさには匙を投げんとする勢いだったのに、海斗先生は違った。
そしてまた、海斗のことを好きになる凛だった。
キーンコーンカーンコーン…
「あ、僕次は授業だった。行かなきゃ。」
「あの、ありがとうございました。」
凛は立ち上がって深々と頭を下げた。
「いいえ、また分からないことは聞きに来て下さいね。あと、来週から補習授業は放課後教室でやりますから。」
「はい。」
「じゃあ、体調に気を付けて。ちゃんと仲直りするんですよ?」
「海斗先生も、仲直り頑張ってくださいね。」
「はい。」
海斗は笑って、保健室を出た。
「さて、凛はもう大丈夫そうだわね?ちゃんと教室行きなさいよ?」
「え…あ、はい…」
保健医に半ば追い出されるような形で保健室を出た凛は、とぼとぼと教室へ向かった。
それからずっと、授業に聞く耳を持たず、ちょくちょく注意を受けながら1日は終わった。

*****

未来は、放課後の教室で頭を抱えた。
「はぁ…」
凛の恋は、どうなるのか。
自分のことでも無いのに、他人の恋路に頭を悩ませるなんておかしな話だが、妹のように面倒を見ていた凛だ。
未来は心配でならなかった。
「ハァァ…」
今日何度目になるか分からないほど深いため息を吐いた未来のところへ、腰までの長く黄色い髪の女生徒が来た。
「どうしたの未来?らしくないねぇ、ため息なんてついて。何、もしかして恋煩い?」
「梨里ちゃん…」
梨里と呼ばれた女生徒は、近くの椅子を引き寄せ、机を挟んで未来の向かいに座った。
「うーん、確かに恋に間違いは無いけれど、私のことじゃないの。」
未来は梨里に向かって苦笑した。
「え、誰?」
「妹みたいに可愛がってる、後輩、なんだけどね?その子、海斗先生が好きなの。叶わない恋でも良いって言ってたのに、今朝、海斗先生に告白したい、なんて言い出して…」
「へぇー、海斗先生に恋?」
「うん。」
「難しいね…まぁまぁ、チョコレートでも食べて1度リフレッシュしなよ。どれが良い?ミルク、ホワイト、ビター、抹茶、何でもあるよ!」
梨里は、カバンから箱を取り出して開けた。
「人生はチョコレートの箱、何があるか分からない。これ、私の好きな言葉なんだけど。その子が告白しても、どうなるかは海斗先生次第だし。流れに身を任せてみるのもアリじゃない?」
チョコレートを食べながら、梨里は言う。
「でも、海斗先生は学生を相手にしないって聞いたから…あの子が傷つく姿なんて、見たくないよ…」
泣き出しそうな声で、未来は呟く。
「恋は甘くて、苦くて、正解は見えないものだよ。傷ついても、それが糧になるとか聞くよ?」
「でも…!!」
「未来が悩んでたって、仕方ないよ。その子の心次第だし。その子の事を知らないし、まだ学生だから偉そうな事なんて言えないけどさ…私はさ、素直になれば良いと思うんだ。未来が思ってること、その子に言えば?」
「…言った。」
「ちゃんとした場所で、その子と向き合って素直に言った?」
「…」
「多分、私は、未来の望む打開策を提示出来ない。ま、私が勝手に首突っ込んだんだけど…」
「梨里ちゃんは、何とかしようと考えてくれたんだから良いよ。あとは、私だけで何とかするから。」
「ま、何かあったら話聞くからさ。」
梨里は笑う。
「じゃあ、私、部活行くね。」
「あ、うん…」
「また来週!」
教室に1人になった未来は、そのまま帰る気になれず、梨里同様に部活に行くことにした。
歩歌呂学園には、部活も存在している。
未来は、自身の所属する声楽部へと足を向けた。

*****

その頃、凛もまた家に帰る気になれず部活へ行くことにした。凛は軽音楽部である。
部室へ行くと、誰もいないのを良いことに、早速エレキギターを借りて歌い出した。こうでもしないと、凛は泣き出してしまう気がしたからだ。
階下からは、声楽部の歌が。
何も聞きたくないというばかりに、叫ぶように歌った。
歌い終わる頃には、凛は泣いていた。
部室に鍵を掛け、1人で声を殺して泣いた。

これから先の未来を憂うように、夜空には満月が輝いていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【鏡音リン】恋しちゃダメ!第6話『恋はチョコレート』

お久しぶりです。お待たせしました。

今回の初登場はLilyです。
年齢がわからなかったので、ミクの同級生に化けていただきました。

「人生はチョコレートの箱、何があるか分からない。」
これは実際に好きな言葉です。知ってくれるとありがたいです。

色々複雑ですが、どうか最後までお付き合いください。
あと、不定期でごめんなさい。

まだまだ続きます。

閲覧数:181

投稿日:2014/08/31 13:05:42

文字数:2,529文字

カテゴリ:小説

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