最初から、君を・・・
ーーーFire◎Flowerーーー
いつもは閑静な街も、一時の賑やかさを取り戻す祭。道沿いには多くの出店が軒を連ね、すれ違う人々は一様に笑顔を浮かべていた。
わぁっ、と歓声が上がる。夜空を彩る、鮮やかな花火。
ドン、ドドン、と体を突き抜けるような大きな音を上げ、絶え間なくその花を咲かす。
一際大きな歓声が上がる。見上げると、空を埋め尽くすほどに大きな花火が、キラキラと輝きながら消えていった。
「・・・っ」
僕は独特の火薬の匂いが広がる人混みの中、再び駆けだした。出店のおじさんの威勢の良い呼び声、すれ違いざまに耳をかすめる幸せそうな笑い声。オレンジ色の明かりが灯った路地。全てが遠く感じた。ただひたすら、走り続けた。
耳の奥で繰り返される、君の言葉。泣き出しそうになる感情を必死に抑えつけながら。
「花火大会?」
夕焼けの公園で、僕は問い返した。僕の彼女・・・燐は、嬉しそうに大きく頷くと、スクールバッグから丁寧に折りたたまれた一枚のチラシを取り出した。
「へぇ・・・、楽しそうじゃん。」
そっけない答えに頬を膨らませた燐に、僕は吹き出した。学校の中でもダントツで可愛くて、優しくて、ちょっと泣き虫な、僕の自慢の彼女。時折見せる無邪気な笑顔も、こんな些細な仕草も可愛い。
「一緒に行こうか?」
ぽむ、と僕より少し背の低い燐の頭に手を置く。燐は待ってました、と言わんばかりの笑顔で僕に抱きついてくる。
「やったぁ!廉大好き!」
はしゃぎながらそう言った燐に、僕は内心複雑な気持ちになった。
もちろん燐のことは好きだし、むしろとても嬉しい。・・・でも。
「・・・廉?どうかしたの?」
心配そうに僕の顔を覗き込んできた燐に、僕は精一杯の笑顔を作り、燐の手を取った。
「ううん、なんでもないよ。・・・帰ろうか。」
きちんと、伝えなくちゃいけない。
全てを話したら、燐はどうするだろう。怒るのかな、泣いてしまうのかな。どちらにせよ、僕は燐を悲しませてしまうだろう。それでも、僕は言わなくちゃいけない。全てを打ち明けて、そして・・・。
「・・・廉?」
小さく呟いた燐の言葉は、僕には届いていなかった。
花火大会当日の夕方。窓からは、浴衣姿の人影が、花火大会の行われる街の中心部に向かって楽しそうに歩いているのが見える。
僕は玄関の鏡の前に立った。緑の半袖パーカー、オレンジのインナー、薄茶色のゆったりとしたパンツ。携帯をポケットに入れ、ドアノブを握ると、リビングからあっけらかんとした母親の声が聞こえた。
「廉―?出かけるのー?花火大会?あんまり遅くならないうちに帰ってくんのよー?」
いつも通り質問口調の母親の言葉を適当に受け流し、僕はスニーカーのつま先を軽く地面に打ち付けた。
「分かってるよ。・・・いってきます。」
ドアを開けると、塀にもたれていた浴衣姿の燐が弾けるような笑顔で手を振る。藍色の布地に、真っ赤な金魚が泳いでいるデザインの浴衣は、いつもと違って髪を結った燐によく似合っていた。
「行こうか。」
カラン、コロン、と下駄の音が鳴る。僕は燐の歩幅に合わせてゆっくりと歩き始めた。
もしも世界が今終わるとしたら、僕は燐と、永遠に一緒にいられるのに。
そんなことを思いながら。
夜が訪れ、祭りの雰囲気は一層盛り上がってきた。隣を歩く燐は、両手に綿飴や金魚を持ち、口を赤く染めながら、リンゴ飴を頬張っている。
「・・・ねぇ、燐。」
僕がそう切り出した言葉は、燐に届く前に、花火が打ち上がる音に掻き消された。
「わああ・・・!」
目を輝かせて、艶やかな花火を見つめる凜。
ひとしきり感動し終わると、燐は僕を振り返った。
「あ、ごめんね!なぁに?」
僕は一瞬言葉に詰まった。なんて伝えたらいいんだろう。
再び、花が咲く。その音に掻き消されるほどに小さな声で、僕は呟く。
「・・・最初から君を、好きにならなきゃ良かった・・・。」
「え・・・?」
燐の瞳が大きく揺らぐ。鳴りやまない音の中、僕は全力で走り出した。
「廉・・・っ、待って!ねぇ、廉!!」
きゅ、と腕を惹かれる。泣き出しそうな燐。
「なんで・・・?なんで、そんなこと言うの・・・?」
震える声でそう言う凜の肩を、僕は両手で掴み、俯いた。
「・・・っごめん、」
「っ廉・・・!」
燐は、もう追いかけてこなかった。
座り込んだ木の陰で、僕は鳴り続けていた携帯をやっと開く。
「燐・・・。」
燐からの電話、メールが幾つもあった。あたりまえだ。理由も告げずに勝手に走り出してきてしまったのだから。
僕はメールに目を通す。『今、どこにいるの?』『私のせいなのかな、ごめんね。』違う。燐のせいなんかじゃないんだ。ただ、僕が・・・。
《・・・廉?燐です。》
「留守電・・・?」
僕は受話器から流れる燐の声に、耳を傾けた。
《・・・頑張れ。頑張れ、廉。私、ずっと応援してるよ。だから・・・頑張れ。・・・もう、連絡はしないね。だから・・・、いつか廉がこの街に帰ってきた時、私が見つけられるように、大きな華を咲かせてください。廉、今までありがとう。・・・さよなら。》
「・・・っ、燐・・・」
僕は頬に伝った涙を、手の甲拭い、唇を噛む。
燐にはもう、バレているんだろう。僕がついた、1つの嘘なんて。
神社の境内で、子供達が線香花火で遊んでいるのが遠くに見えた。
もしも、人生の途中が線香花火だったなら。儚い光の中で、一瞬だけでも、君の・・・燐を照らす向日葵のように輝きたい。
携帯を閉じると、夜空を仰いだ。花火は既に終わり、白い煙がうっすらと空に残っている。
突き上げた手のひらを握りしめ、僕は誓った。
「絶対に、絶対に燐を迎えに行くから。だから・・・その時まで、待っててくれ。」
いつか、燐に伝えたい。いや、伝えるんだ。
そしたら燐は笑ってくれるかな。2人で過ごした記憶の中の燐のあの笑顔で。
「最初から君を好きでいられて良かった。」
「最初から君を好きでいられて良かった」なんて 空に歌うんだ
詰め込んだ夢を 打ち上げる場所
探し求めて この街から出た
震える着信 電源を切った
燃え出す導火線 誰も止められない
世界の終わりが 今訪れたとしたら
全部ほっぽって ふたり永遠に一緒なのにね
Like a Fire Flower
僕が 消えちゃわないように 火の粉散らせ 夢打ちあがれ
「最初から君を好きにならなきゃ良かった」なんて 嘘までついて
慣れない景色 不自然な笑顔
華やかな祭りとは違ってた
繰り返す留守電 "ガンバレ"の声
涙で導火線 消えちゃいそうだよ
宇宙の始まりが あの口付けだとしたら
星空は ふたり零した奇蹟の跡
Like a Fire Flower
君が 見つけやすいように 雷鳴の如く 夢轟かせ
「最初から君を好きにならなきゃ良かった」なんて バレてるんだろうな
生まれも育ちも バラバラな僕ら
姿も形も それぞれな僕ら
男も女も ちぐはぐな僕ら
それでも心を ひとつに出来たなら
人生の途中が 線香花火だとしたら
一瞬でも ふたり照らす向日葵の様に
Like a Fire Flower
いつか 夜空に大輪を 咲かすその時まで待ってくれ
「最初から君を好きでいられて良かった」なんて 空に歌うんだ
【自己解釈】Fire◎Flower【halyosy】
花火大会の音を聞いて突発的に妄想しまくった結果です。
残年感が忠代照ってますねはい。
( ゜∀゜)アッオッエーイエイエー!!アッオー♪o(´Д`o)(o´Д`)oエーイエイエー♪
本家様→http://www.nicovideo.jp/watch/sm4153727
歌い手様→http://www.nicovideo.jp/watch/sm8050664
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