「遊園地、行きたいなぁ…」
それはずっと入院している彼がふと呟いた言葉だった。
「レン君、もう少ししたら退院出来るからね。そしたら遊園地、行けるわよ。」
看護師の言葉に口を尖らせた。
「止めてよ、子供扱いするの。」
「まだまだ子供じゃないの。」
「もう中学生だよ!!」
「子供じゃない。」
そう言って看護師は病室から出ていった。
「どうせ、退院なんて出来ないのに。」
大人たちはみんな彼に黙っているが、彼は分かっていた。
もう、この病室から出れないと。
「一度でも行きたかったなぁ、遊園地。」
大好きなあの子と――。
「レン。お見舞いに来たよ。」
「リン。早かったね。」
「うん、電車1つ早いの乗ってきたの。」
「そっか。リン、ありがとな。」
―どうせ長くない命だ。
せめてお礼はいつも言っておきたい。
「ふふ、どういたしまして。」
柔らかく笑う。
「ねぇ、リン。」
「何?」
「僕ね、遊園地に行きたいんだ。」
「行きたいね、遊園地。」
「リンと一緒に行きたいな。無理だけど。」
「何言ってるの。今度行こうね、絶対。」
『絶対』という言葉に力が入ったのを、彼は聞き逃さなかった。
「…うん。」
こうして、何もない時間が過ぎていく。
この時間が、彼は好きだった。
彼女との邪魔されない時間。
しばらくして、彼女が口を開いた。
「夢の中だったら、何処にでも行けるよ。」
「でも、一緒には…」
「私たち、夢の中でも繋がってると思うの。」
「…そうだね。じゃあ、行こうか、遊園地。」
そう言って彼らは手を繋いで目を閉じた。
夢の中の彼は元気で。
彼女と一緒にジェットコースターやコーヒーカップに乗って。
とても楽しかった。
最後に、観覧車に乗った。
夢の中でも彼はあまりの高さに震えてて。
彼女はそんな彼を穏やかな瞳で見てて。
『ねぇ、レン。』
『何?リン。』
『私、こんな幸せでいいのかな?』
『何言ってるの、夢の中で幸せでも意味ないよ。』
『夢、覚めなければいいのに…』
それは、彼が病気だから。
『…僕も、このままでいたい。』
『もう、時間だね。このまま夢が覚めなければいいのに、やっぱり無理だよね…』
『じゃあ、最後に。』
『何?』
『キス、していい?』
『…いいよ。』
そうやって彼は彼女と夢の中でキスをした。
「レン君!!起きなさい!!」
「レン、起きてよ!!」
―夢、なのかな…
「治して遊園地行こうって…っ一緒に、観覧車で…っ」
―僕、もうそろそろ死ぬんだ――。
「でも、笑ってる…」
――僕、幸せだったよ。
リンがいて、夢の中だけでも遊園地行けて。
彼は笑顔で旅立った。
―リン、大好きだよ。
fin.
コメント1
関連動画0
オススメ作品
「彼らに勝てるはずがない」
そのカジノには、双子の天才ギャンブラーがいた。
彼らは、絶対に負けることがない。
だから、彼らは天才と言われていた。
そして、天才の彼らとの勝負で賭けるモノ。
それはお金ではない。
彼らとの勝負で賭けるのは、『自分の大事なモノ全て』。
だから、負けたらもうおしまい。
それ...イカサマ⇔カジノ【自己解釈】
ゆるりー
未知の道
歌;鏡音リン
遠くまで (未来へ)
飛んでゆけ! (パラリラパラリラ)
感じ取れ ぜんしんで!
さあ!
ねえ、明日はどこへ行く?
行ってみたかった世界!
ねえ、あなたとどこへ行く?
未知に溢れた視界!...未知の道
ひっせん
chocolate box
作詞:dezzy(一億円P)
作曲:dezzy(一億円P)
R
なんかいつも眠そうだし
なんかいつもつまんなそうだし
なんかいつもヤバそうだし
なんかいつもスマホいじってるし
ホントはテンション高いのに
アタシといると超低いし...【歌詞】chocolate box
dezzy(一億円P)
誰かを祝うそんな気になれず
でもそれじゃダメだと自分に言い聞かせる
寒いだけなら この季節はきっと好きじゃない
「好きな人の手を繋げるから好きなんだ」
如何してあの時言ったのか分かってなかったけど
「「クリスマスだから」って? 分かってない! 君となら毎日がそうだろ」
そんな少女漫画のような妄想も...PEARL
Messenger-メッセンジャー-
18.(perhaps……)
わたしは紅茶の載ったトレーを左手に、右手で執務室の扉をそっと開けて、部屋の中に入る。
「失礼……します」
「ん? ああ、リンか。すまんな」
マスターは執務室のデスクで書類をにらみつけながら、頭をかりかりと掻いている。
わたしはトレーをデスクの端に置いて、マスターの...針降る都市のモノクロ少女 おまけ 前半
周雷文吾
魔法少女の内申点は下がる一方です
誰も知っちゃいないのに 席に着く暇ないからね
水は自分が溶かしたものを覚えてるという
あなたは私のこと どこかで見てるんでしょうか
この世に蔓延る悪なんて見ようとしないけど
頭に蔓延る悪夢を見に行くミスターヒューマン
盗まれた第二ボタンが消費されていく日常で
文武両...La victoire est à moi
あふれいど
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想
魔熊
ご意見・ご感想
感動したよ…(T-T)
レンとリンの会話が切ねぇよ…。
くっ…こんな話まで書けるとは…引き出し多すぎだろ!
嫉妬ですけど何か!!
2011/06/10 20:18:15