-第十七章-
「…そっくりだね」
そういったのは、やっと車から降りてきたリンだった。
「うん、双子みたいだよね」
「それは、お前らだろ」
ぎろりとレンを睨んだメイトに、レンは少し困ったように笑った。
「しかし、俺はレン以外の奴らを呼んだ覚えはないんだが?」
「ああ、うん。俺が勝手に連れてきた」
「…レン、さっきの、どういうことかしら?」
先ほどまでメイトを睨みつけていた赤い瞳は、既に対象を変え、レンへと照準をあわせていた。その目の鋭さに、レンは少し驚いたようにあとずさりをした。
「さっきの、って?」
「帝国の手先ってどういうことかって聞いてるのよ」
きつくレンを睨みつけ、メイコは言った。
「それは…。いろいろあってさ。ごめん、なんでもないから、気にしないで」
「なんにしても、警察を帝国の手先呼ばわりは聞き捨てならないわね」
そう言うメイコに、メイトが反応してこちらもレンのほうを、ぐっとにらみつけた。
「レン、やっぱりコイツ、警察じゃねぇか」
「警察は帝国の手先じゃないわ。確かにそんな噂もあるようだけど、そんなことはないのよ。そりゃあ、不祥事もあるけれど、そんなの一部の人間よ。殆どの人間は、世界をよくしようと頑張ってる。帝国に怪しい動きがあれば、それを解決できるように努力する!」
「圧力をかけられたら終わりだし、努力するといってあやふやにするだけだ。そんなもんだろ、警察なんて。なあ、レン?」
「えっ?ええと…。俺は、なんとも言えないなぁ。…ごめん」
そういって少しうつむいたレンに、リンが首をかしげた。
「…レン?」
しかし、すぐにレンは顔を上げてメイトのほうを見ると、今度は真剣な表情で、メイトに聞いた。
「本題に入るけど、さっきのメールのこと、詳しく聞かせてくれない?」
「ああ。ここで話すと、誰かに聞かれるかもしれない。中に入れ。――そいつらは?」
「一緒に入ってもらってもいい?リンは今までのことをわかっているし、メイコ姉にも知られたって大丈夫でしょ。職場の人とかに話さなければ。カイトも何となくきづいてるみたいだしね」
どうやら、レンはカイトが盗み聞き――もとい、聞いてしまっていたことにきづいていたらしい。兎に角、パトカーを木の間に隠すようにとめると、四人はメイトの家へと入っていった。
中は殺風景で、最低限必要な家具しか置かれていないらしい。居間らしき部屋に三人を通し、ソファに座らせると台所へと歩いていった。
男一人の部屋としてはキレイなものだが、人一人の部屋としては少し寂しい気もする。
きょろきょろとあたりをもの珍しそうに眺めていたリンは、その場にあった小さなシルバーのネックレスに手をのばした。どうやら、守護者の宝石がはめられたアクセサリーではないらしいが、イマドキの男の子がつけてきそうなふうの、格好のいいものである。
台所からお茶を持ってきたメイトが、危なっかしくテーブルの上へティーカップを置いた。どうも慣れていないらしい。
「それで、どうなの?メールには、『重大情報』としかかいていなかったけど?」
「ああ。この間から、いろいろあって他の守護者とよく連絡を取り合っていたんだが、昨日、ミクから連絡があって――」
そこで、メイトは言葉を切った。あせったようにレンがせかす。
「さっさと話して」
「ミクからの連絡で…ルカが何者かに襲われ、病院に運ばれたが意識が戻らないらしい」
「な…っ」
驚いたように、レンの言葉が詰まった。
「ルカさんが?式神だってついているはずなのに…」
そういって、リンが口に手を当てて絶句した。
「…このタイミングでルカが襲われたとなると、犯人の大体のめぼしはついてくる。帝国関係者だろうな。しかも、ルカのすむ辺りには病院が少ないから、あの辺りに一番近い病院は国立。…危険だ」
そういったメイトは、レンを見た。うつむいたまま、レンは応えなかった。
規則的な機械音が真っ白な病室に響いていた。
ぽたっぽたっ…点滴の音も規則的。
純白のカーテンが、風にながれるように揺れた。ばさばさと大きくはためきながら、カーテンは風の動きを自ら表し、静かに戻っていったかと思うと今度は窓の外へ飛び出すようになびいた。
白くきれいに整ったルカの頬をなでた風が、あわただしく外へと帰っていった。
ベッドの横の椅子に座り、ミクはじっと動かなかった。ここを動けば、ルカに危険が及ぶであろうことは明白。それをわかっていてここをそう簡単にあけるわけにはいかない。
そう思いながら、ミクはうつらうつらしていた。ルカが倒れているのを見つけたときから、一睡もしていない。そろそろ、睡魔に負けそうになって来る頃だった。そこに、看護師らしき女性が入ってきて、ミクに声をかけた。
「紅茶、いかがですか?ずっと眠ってらっしゃらないようなので、少しくらい疲れを取らないといけませんよ。これでものんで、気を休めてください」
「あ、ありがとうございます…。美味しいですねぇ!」
「でも、上司には内緒ですよ?ばれると危ないので」
「はい。わかりましたぁ!」
そういうと、ミクは嬉しそうに紅茶を飲み干した。それから、ソーサーの上に乗った角砂糖を一つ口に入れて、看護師にそっと微笑んで見せた。看護師のほうも、決して血色のいいとはいえない顔を優しくさせ、ミクの笑顔に返した。
看護師の長い銀髪が風に揺れた。
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