チリン、とかわいらしい鈴の音が、まるで風鈴のように涼しげだった。風になびくほど長くもない黒髪も、彼女の幼くも整った顔立ちによく似合う、清純な印象を与えた。山吹色の瞳が、純粋な少女らしくよく似合う。真っ赤なオーバーオールのスカートが、彼女の色白な肌を際立たせた。ばら色に色づいた頬、華奢な体つき…。すべてが少女の小さな体の中に納まっているのが、不思議なほどだった。
「先生」
少女は言った。
目覚めたばかりの主人は、ぼさぼさの髪を気にせず、忙しくワイシャツに手を通しているところだった。
「なんですか、ユキちゃん」
「今日も学校?」
「はい。明日は休みですから、その前にやれることは片付けてきます」
にこっと微笑むと、それでなんとなく会話が成立してしまうような気がする。
「それじゃあ、待ってる」
こくり、とうなずくようにしていい、ユキは顔を上げた。次の主人の言葉を待っているかのようだった。
「なるべく早く帰ってきますからね」
もう一度こくりとうなずく。
いつの間にか、キヨテルは着替えを終えていた。髪を整え、めがねを丹念に拭くと、鏡の前で一度決めポーズをして、ユキのさめた表情を見てはにかみ、出勤してゆく…。ここに引っ越してきてから、キヨテルは常にそんな風である。越してくる前はもう少しゆったりとした生活を送っていたのが、教師と言う職についたことで、そうも行かなくなったのだ。
そして、ユキも家で一人、主人の帰りを待つことが多くなった…。
――その夜、ミキはやっと、リンやん、メイコたちに状況を説明する気になったらしかった。
もじもじと落ち着きのない様子から、話しやすいことではないのだろうと、大体予想はつく。
「私は…。ある人を探しているんです」
「ただの人探しにしてはずいぶん警戒しているようですが…?」
「私が探しているのは、小さな女の子なんです。見た目、小学校の中学年くらいの。かわいい女の子なのですが」
だから、何なのだろう。どうもレンはミキの言葉の真意をつかめなかった。しかし、ミキが言っている少女に、少しばかり心当たりがあるのも確かであった。
「そのこを探すために、何故、見ず知らずの人間の家に隠れる必要が?」
ルカが怪訝そうな顔をして聞いた。
「聞いてください。その子は、所謂精霊の一人なのですが、皆さんは、『エレメンタル』を知っていますか」
「確か、四精霊のことね。魔法を使うに当たって必要な元素、炎のサラマンダー、水のウンディーネ、風のシルフ、大地のノーム…だったかしら?」
少し自信なさ下にメイコが言うと、ミキはそのとおり、と言うようにこくりとうなずいてみせた。
「はい。特に水のウンディーネは人とほぼ変わらない容姿を持ち、シルフは人間との間にシルフィーネを生み出しました」
メイコが付け足したあたりから会話の流れを見失ったリンは、ただただきょとんとして首をかしげているだけである。
「私が探している少女と言うのは、その、シルフィーネの血筋なんです」
「しかし、それは人間の妄想の産物では?」
「いいえ、確かに、そういう面もあります。ですが、事実も確かにあるんです」
妙にかしこまった言い方の似合う幹は、一気にまくし立てるように言った。
「兎に角、その子はそれだけ大切な子なんです! それを、それを…」
「それを?」
「それを、どこかに連れ去ってしまった男がいる…!」
そのときのミキの表情は、今までの形相もすごかったが、それとは比べ物にならないくらい、憎しみと嫌悪に満ちた、どす黒い表情だった…。
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かがみね~ りーん 「たっだいま~!」
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