それからというもの、ユキは度々僕の家に遊びに来るようになった。遊びに来るというか、最初のうちは母さんが連れて来ちゃってたんだけど。「一人でぽつんとしてたから~」とか言って。問題じゃないかと思ったけど、言って止まる人ではないので、僕は黙っていた。
そのうちに、ユキは自発的に来るようになったけど、母さんはいつも喜んでユキを迎えていた。ユキが来るかも、と、子供が喜びそうなお菓子を常備して。例のカップは、いつの間にかユキ専用になった。
たいていユキは母さんに出してもらったおやつを食べて、宿題をする。宿題が終わると、絵を描いたり図書室から借りてきたとおぼしき本を読んだりして、一人で大人しく過ごしていた。
僕の帰宅時間はまちまちだったけれど、僕が帰ってくるとユキはいつも頭をぺこっと下げて「お帰りなさい」と言ってくれる。
……実を言うと、少し嬉しかった。僕は自分で思っていたよりも、兄弟姉妹を欲していたのかもしれない。
「ユキ、いいの?」
ある時、僕は気になったので、ユキに訊いてみた。ユキが首を傾げる。これじゃわかりづらかったか。
「ユキのお母さん、こんなにユキがここに上がりこんで平気なの?」
「……めいわく?」
そう訊き返されて、僕は慌てて首を横に振った。そういうことを思っているわけじゃない。そもそも、ユキをこの家に引っ張り込んでいるのは僕の母さんだ。
「違うよ。ただ、ユキのお母さんは、心配しないのかなって思って」
「お母さん、昼間いないの。はたらいてるから」
共働きの家なのか。僕の母さんは専業主婦だし、僕ももう手のかからない年齢――母さんに言ったら鼻で笑われるだろうが――だから、エネルギーが有り余ってて、それをユキの世話を焼くことで消費しているのかもしれない。
……ユキの母親と僕の母さんとの間で、話がついているのかもな。だったら、僕があれこれ言うことでもないか。
「お兄ちゃん、ここ教えて」
勉強でわからないところがあると、ユキはそうやって僕に訊いてくるようになった。並んで卓袱台に座って、ユキにわからないところを教えてあげるのは、なんというか……楽しかった。勉強が終わると、レンタルショップに連れて行って、一緒に見られそうなDVDを借りたりもした。傍から見ると、きっと仲のいい兄妹に見えただろう。実際、その頃には僕は、ユキが半分妹のように思えていた。
だからだろうか。それ以上ユキに、細かいことを訊かなかったのは。小学校二年生の女の子が、近所とはいえ、こんな家にしょっちゅう来るのは、奇妙なことのはずだったのに。僕は何も、変だとは思わなかった。
ユキと知り合って約二年後、僕は東京の大学に進学することになった。合格した大学はかなりランクの高い学校で、父さんも母さんも喜んでくれた。ただ、僕の家は地方だから、自宅からは通えない。その結果、僕は東京で一人暮らしをすることになった。
「お兄ちゃん、行っちゃうの?」
「そうだよ。でも、夏休みになったら戻ってくるから」
僕は両親とユキに別れを告げて、東京へと向かった。初めての一人暮らし。色々と大変だったけれど、開放感もあった。大学では新しい友達もできた。
勉強や学生生活のあれこれに追われるうちに、瞬く間に一学期が過ぎて、夏休みになった。僕は荷物をまとめ、帰省した。
「お帰り。さ、荷物おろして。大学生活はどう? あんた、ちゃんとご飯食べてる?」
母さんの詮索に適当に答えながら、僕は無意識に靴脱ぎを眺めた。父さんの靴と母さんの靴。ユキの靴は見当たらない。……今日は来てないのか。
ひどく残念な気がする。「お兄ちゃん、お帰り」って言ってくれると思ったのに。
「ユキは、今日は来てないんだね」
帰省する日はあらかじめ母さんに伝えてあったから、ユキだって知ってると思ったのに。ユキと僕は家族でも何でもないんだから、そこまで期待するのは、僕の我がままかもしれない。でも、できれば出迎えてほしかった。
「あ、うん、それがね……ユキちゃん、最近来ないのよ」
母さんは顔を曇らせて、そう答えた。うん?
「ユキ、来なくなったの?」
「そうなのよ。姿も見かけないし……」
心配そうな表情で、母さんはそう言った。
「父さんは、ユキちゃんはきっと新しい友達ができただけだから、心配するなって言うのよ。でも……なんていうか……」
淋しいわけね。……実際、僕も淋しかった。でも、母さんの前でそれを素直に口に出すことはできなかった。
「ユキだっていつまでもちっちゃな子じゃないんだよ。年を取るにつれて、どんどん自分だけの世界ができていくんだ。人間は安心毛布とは、自然とお別れするようにできているんだよ」
わざと突き放すような口調で、僕は言った。自分で自分を納得させようとした、強引な理屈。淋しいっていう気持ちを、認めたくなくて。
「でもねえ……。ユキちゃん、将来はキヨテルのお嫁さんになりたいとまで言ってくれたのに……」
どこからそういう話が出てくるんだ……。
「母さん、ユキは僕より九歳も年下だよ?」
「ええ。つまり、ユキちゃんが二十歳になった時、あんたは二十九でしょ。充分つりあうわよ」
真顔でそういう母さん。やめてくれよ。ユキはまだ子供なんだ。
「ユキちゃんがあんたのお嫁さんになったら、つまりユキちゃんは母さんの娘……」
本音はそれかい。微妙に疲れた僕は、それ以上何も言わずに、荷物を抱えて自分の部屋へとあがって行った。
僕は鞄を開けて、中からリボンのかかった包みを取り出した。これ渡したら、きっと喜んでくれるって思ってたのにな。
……まあいい。夏休みは長いし、ユキに会う機会ぐらいあるだろう。僕はそれを、机の引き出しにしまった。
最近来なくなった、という母さんの言葉どおり、ユキは僕が帰省して一週間経っても姿を見せなかった。……ずっと会ってないんなら、僕が帰省していることも知らないんだろう。かといって、僕の方から会いに行くのははばかられた。大学生にもなった男が、小学生の女の子に会いたがってるなんて、どう考えてもおかしい。
そうして過ぎて行ったある日のことだ。僕は夜更けにふっと外が歩きたくなって、家を出た。父さんと母さんはもう寝ようとしていて「散歩? こんな遅い時間に? 戸締りだけはきちんとしておいてね。最近物騒だから」と言われてしまった。鍵をちゃんと確認してから、夜道を歩き出す。
昼間は暑いけど、さすがにこの時間になるとこの辺りはかなり涼しい。東京は深夜になっても、もわっと熱気がこもっていたりする。あの暑さはどうにかならないものだろうか。なんというか、ひどく不健全な感じがする。
そんなとりとめのないことを考えながら、僕は夜道を歩いていた。しばらく行くうちに、小さな児童公園に差し掛かった。子供の頃は、ここでよく遊んだっけ。懐かしさにかられて、僕は公園の中に入った。
その時、キィキィと軋むような音が聞こえた。これは、ブランコの鎖が軋む音だ。誰か年甲斐もなくここで遊んでいるんだろうか。自分のことを棚にあげ、ブランコの方を見る。小さなシルエットが目に入った。え? こんな時間に子供が?
驚いた僕は、思わずブランコに近づいてしまった。足音が聞こえたのか、ブランコの主は足を止め、こっちを見る。その顔を見た僕は、また驚いた。
「ユキ……」
ブランコに乗っていたのは、ユキだった。ユキも驚いてこっちを見ている。こんな時間に、どうしてここにいるんだ。今は深夜だ。
「こんな時間に何やってるんだ!? 真夜中だぞ!」
子供の遊び歩いていい時間じゃない。僕に怒鳴られたユキが、びくっと首をすくめる。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
ユキは泣き出してしまった。いけない。驚いたしショックだったから思わず怒鳴ってしまったが、僕はユキが心配なだけなんだ。ユキの傍らに膝をついて、頭を撫でる。
「ごめんな、いきなり怒鳴ったりして。でもユキはまだ子供だ。夜は危険がいっぱいだし、こんなところに一人でいちゃいけない」
ユキは泣きじゃくりながら頷いた。僕は少しほっとして、ユキの背中を軽くぽんぽんと叩く。それにしても、なんでこんな時間にここにいるんだろう。新しい友達ができたのかもって父さんと母さんは言っていたけど、まさか、悪い友達に引きずりまわされているんじゃないだろうな?
「ユキ……何かあったのか?」
ユキは泣いているだけで答えてくれない。だんだん不安になってきた。……こんな深夜に、大学生の男が泣いている小学生の女の子と一緒にいるのは、まずいんじゃないだろうか。下手をすると通報されかねない。
ユキの涙が収まってきたところで、僕はユキの頭をもう一度撫でると、立ち上がった。
「もう遅いし、家に帰ろう。送っていってやるから」
夜道を一人で歩かせるわけにはいかない。僕はユキの手を引いて、歩き出そうとした。ところが、ユキは歩こうとしない。
「ユキ?」
「帰りたくない……」
そんな返事が返って来た。僕は面食らって、ユキを眺めてしまう。
「帰りたくないって……」
「……帰りたくないの」
ロミオとシンデレラ 外伝その二十八【やまない泣き声】中編
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DとKAITOが溺れたとこ。
(重すぎた)
KAITOだけ沈む。
目を開けると、ルカPの人工呼吸。
P「おはようございます、私のマスター」
P「あれは泡になりましたから…」
D「お前みたいな鉄の魔女、いらない」
〇ビター・エンド(ファイヤーワークス)
Pルカが海からD...パワー・オブ・ラブ メリー・バッド・エンド
える
*前回までのあらすじ*
脱出とかおもしろそうだよね!
「脱獄する、だって?」
レンが少し驚いたように言う。
だがそれよりも、俺はさっきのあらすじについて文句を言いたい。
いや、脱獄っていうのも驚いたけどさ。
「脱獄、ね…この『13943号室』から、逃げ出すことはできないんじゃなかったか?」
そう。
...13943号室 3【自己解釈】
ゆるりー
※大したことはありませんが、少しだけオトナの描写があります※
閲覧の祭はご注意ください。【カイメイ】赤の刻印
キョン子
『汚れは浄化して』
きれいでいたかった 汚れたおれは
もうきみに合わせる 顔がないんだ
汚れた欲望を きみにむける
そんな自分が 憎くてしかたない
はじめは純粋な 気持ちだけを胸に
抱いていた
この気持ちは きみだけには
伝えてはいけないと 思ったんだ
肉欲に塗れた このおれは...汚れは浄化して 歌詞
裏久
顔がいいわけじゃない。
頭がいいわけじゃない。
もう夢を見るのも
忘れた頃に
目覚めたセンス。
中途半端でさ、
そのくせ常識はないから、
普通なとこと
奇抜なとこの
悪いとこ取りだ。...優しさしか売るものがなかった
No.D
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