ずっとずっと見て見ぬふりをしてきたんだ。
 傷ついて枯れていく彼女の姿を。

 「ねえ、がくぽ。
  -----は
  ----------よかったね…。」

 小さな声を震わせてその言葉を言う彼女の手を、俺は己の罪を償うように、その言葉を打ち消すように、薄れていく意識の中で繋いだ――――――




   さあ、手を繋ぎましょう ~御手繋ぎ 自己解釈~




 ちょうど高1の春のことだ。
 俺は高校に入学して、ものすごく張り切っていた。
 中学時代はずっと男子校で、楽しいことがあんまりなかったから、彼女を作りたいとか粋がってたんだ。
 高校デビューってやつ?まあ、そんなとこ。

 自分で言うのもなんだが、なかなか悪くない顔をしている俺はいろんな女と遊びまくっていた。
 もちろん学生の本業を忘れてるわけじゃない。ちゃんと、塾にも通って一生懸命勉強してた。

 そしてその塾で俺は彼女と運命的な出会いをした。
 薄い桃色の揺れるロングヘアー。どこか日本人離れした美しい目鼻立ちに、すらりとした長い手足。
 彼女を一言で表すなら『超絶美人』とかそんな言葉が当てはまるような感じだった。
 俺は彼女に一目ぼれしたんだ。そしてミーハーな友人の伝手をたどって、彼女についていろいろ調べた。

 名前は巡音ルカ。同学年の高校1年。美人で優しくモテる。
 もちろん俺と同じ学校なのだが、クラスが違うのと彼女があまり目立つ性格ではないのとで、彼女と学校で会うことはほとんどなかった。
 俺が今まで付き合ってきたチャラい女たちとは正反対のタイプだ。
 
 俺は何度も何度も、執拗に彼女にアタックした。
 いろんな女と遊んできたが、彼女みたいな子は初めてだった。
 繊細で今にも消えてしまいそうな彼女を必死に追いかけた。
 
 そして、ついに彼女を捕まえたんだ。ちょうど、1年の終わりの時期だった。
 
 彼女と付き合い始めてからはものすごく平和で楽しかった。
 あまりにぎやかな場所が好きじゃない彼女に気を使って、休日は一緒に図書館で勉強したり、公園を散歩したり、ゆったりとした時を過ごしていた。
 俺は彼女の笑顔が大好きでどんどん彼女に夢中になっていった。

 でも、それは突然おきた。2年の夏ごろの時期だったかな?
 下校の時に手を繋ごうと思って、彼女の左手首を引いたら、手首に明らかなリストカットの痕があったんだ。
 「ルカ?この手首の傷、どうしたんだ?」
 「あ…それは、昨日料理してる時に切っちゃって…」
 嘘だろう、そう思ったけど、俺は深く問いつめずに「そっか。まったくドジだなールカは。気をつけろよ?」と、適当に返事をした。
 ルカはその傷を隠すように左手を後ろに隠して、わずかに影を帯びた顔で微笑んだ。「うん、最近ボーっとしちゃって。」と。

 今思えば、それは彼女からの最初のサインだったのだろう。
 でも俺は、そんなことにも気が付かなかった。いや、正確に言えば気づかぬふりをしていた。

 そのリストカットの痕を発見してから、2か月後。
 彼女の顔に痣ができていた。よく見ると、足や手にも傷があった。
 また、ルカにリストカットの痕を発見した時のように尋ねると「転んだ」とかそんなありきたりな答えが返ってきた。
 俺も深くは追及せずに「そうか」と答えた。

 彼女の手にリストカットの痕が増えるたびに、彼女の手は擦り減り、汚れていった。
 傷を見て見ぬふりをするたびに、俺の心は黒ずんでいった。

 彼女の顔の傷は日に日に増えていく。
 彼女の美しい顔がどんどん汚くなっていくような錯覚とその顔に慣れてきてしまった自分――――
 
 週末、二人でのデートの帰り道。
 そんなことをもやもやと考えながら、俺は彼女を家まで送り届けた。
 「じゃあね。またあしt――」
 彼女の声を遮るように唇を重ねた。
 
 そっと唇をはなすと彼女の顔は真っ赤に染まっていた。

 何か言いたそうな眼をしているルカに「じゃあね。」と軽く別れを告げて俺は彼女に背を向けた。


 その次の日だった。
 ルカが学校を休んだのだ。それ自体に問題はないのだが、その日から一週間、まったく学校に現れなかった。
 さすがに俺も心配になって、ルカのクラスメイトで女友達のミズキにルカはどうしたのかと尋ねた。
 ミズキは少しの間黙りこみ、意を決したように俺の目を見つめて一つの事実を告げた。
 「…。神威、落ち着いて聞いてね? 巡音はあんたと付き合い始めたあたりからクラスの一部の女子にいじめられてる。
  巡音ってもともとおとなしいキャラだから、誰にもいじめられてること相談しないし、いじめてるやつらの操り人形みたいになってる。」
 「な、なんで、ルカはいじめられてるんだ!?」
 俺がミズキを問いただすと、彼女はあきれたように「何で気が付かないわけ?ルカの彼氏失格。」とつぶやき、
 「あんたさぁ、自分のファンクラブあること知ってる? 
  アタシはあんたのことかっこいいとか思わないけど、巡音をいじめてるやつらはあんたの熱狂的なファンでさ、まぁ所謂逆恨み。
  自分の大好きな神威が巡音と付き合ってるのが許せないんじゃない?」
 声を荒げて怒鳴った。
 「じゃあ、最近ルカが、体にあざを作ってたのは…」
 「あいつらの仕業だろうね。 
  …もう用事はすんだでしょ?アタシ、忙しいの。じゃあね。」
 ミズキはそのまま走って教室に戻っていった。
 俺は自分で自分が嫌になって、思いっきり校舎の壁を殴った。
 …手が赤くなり、痛くなっただけだった。


 ミズキに話を聞いた翌日、俺はルカの家を訪ねた。
 ピンポーンと、インターホンが鳴り響く。
 しばらくの間インターフォンの前で待つと、『はい。巡音です。どちら様ですか?』とくぐもったルカの声が聞こえた。
 「がくぽです。」と一言いうと、「…ドア、開いてるから。入っていいよ。」と小さな声で返事が返ってきた。
 少しためらってからドアを開けて中に足を踏み入れ、リビングらしき場所に行くと、ソファの上で横たわった痩せ細ったルカがいた。
 「ルカ。」
 「…かっこ悪いところ見せちゃったね。ごめん。今、お茶入れるから、そこに座ってて。」
 ルカはよろけながらなんとか立ち上がる。俺は見ていられなくなって彼女の細くなった手を引き、自分の腕の中に抱きしめた。、
 「…がくぽ、お茶、入れるから、離して。」
 「なんで、こんなにやつれるまで無理するんだよ。いつから飯食ってないんだよ。」
 「…迷惑、かけたくなかったの。 でも、ダメだね。結局、ぼろぼろになっちゃった。」
 「なぁ、ルカ。俺ってそんなにたよりない?」
 「そんなことない!!私が…弱いから。」
 ルカはそっと俺の腕を振りほどき、キッチンに向かっていった。
 
 キッチンから出てきたルカの手の中にはお茶はなく、その代わりという風に握られていたのは小さな果物ナイフ。

 「ルカ!? 今すぐに、それを離せ!!危ない!!」
 俺の声がむなしく部屋に響き渡った。
 ルカの目はうつろで、俺の姿はその目には映っていない。
 
 小さな果物ナイフを痩せ細った手で持って、俺に向かってくるルカ。
 その顔は出会ったころなんかよりも汚れていて、でもそれは紛れもない俺の愛するルカの顔で。


 ルカから逃げるために後ずさりをするうちに、ソファの近くのローテーブルに足を取られ、俺はこけてしまった。
 痛みに顔をゆがませ、目を開けると、ルカが俺の上に馬乗りになってナイフを振りかざしていた。

 ルカのナイフを止めようとして俺は机の上から偶然落ちたカッターナイフを拾い上げた。

 お互いがお互いの動きを止めようとして、俺とルカの左手と左手が絡む。
 
 右手と右手にはナイフとカッターナイフ。

 それはいつでもお互いを刺し合えるように―――――




 
 声を震わせて、ルカが何かを言っている。

 「ねえ、がくぽ。
  -----は
  ----------よかったね…。」

 あぁ、そんなことを言うな。聞きたくない。言わないでいい。

 声は出すな。何も喋るな。

 今はただ手を繋いでいてやるから、もう一度―――――――






  END
 
 
 
 
 







 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

さあ、手を繋ぎましょう ~御手繋ぎ 自己解釈~

皆様お久しぶりです!
テスト前なので、書きかけだった「御手繋ぎ」の自己解釈を完成させました^^

本当はがくぽとがくぽの双子の兄弟の話にするか、がくぽの性格をめっちゃ鬼畜(←)にしてルカさんに復讐される話にするか悩んだんですけど、最終的にこの形に収まりました。

otetsuさんの曲は大好きなのでまた別の解釈もしてみたいですねww

ではでは読んでくれた皆様ありがとうございました^^

閲覧数:1,304

投稿日:2012/06/24 13:17:13

文字数:3,442文字

カテゴリ:小説

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  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    「勉強しないと…でも勉強したくない…こんな時こそピアプロだ」という自分でもよくわからない理由でピアプロ開いたら、紅華さんの新規投稿が…!!
    しかも御手繋ぎ!!確か昨日聴いたような←
    そしてお久しぶりです、ゆるりーです。

    が、がくルカ!!なんということでしょう2828がとまりませ(((←
    こういう解釈がありましたか!!…実は、私もがくルカで解釈書こうと思ったんですが、挫折しました…ははは。

    改めまして。
    がっくんはどこに行ってもイケメンなんですね。清楚なルカさん…私の場合、いくらツンルカを書こうとしても清楚なルカさんになります…なんでだろう。
    がっくんのファン逹はいったい何をしているのでしょう?さぁさぁ皆さんファン逹に奇襲をかけにいきましょう←
    ルカさん、そこまで傷ついていたんですか…最終的にルカさんが選んだのは、最悪の結末…そこまでルカさんを追い詰めたファン逹をロードローラーでミンチにしてやりたいです((やめなさい
    そして最後…あ、涙が………

    紅華さんは恋愛モノやギャグなどいろいろ書いていらっしゃいますが、そのどれもが心に残ります。どうやったらそんな素晴らしい文才がつくんですか!?←

    長文失礼しました。ブクマいただきます。

    2012/06/24 19:42:33

    • 紅華116@たまに活動。

      紅華116@たまに活動。

      ゆるりーさん>
       お久しぶりです―^^
       勉強したくないときは私もパソコンに逃げちゃいますww
       御手繋ぎいい曲ですよねー!
       
       がくルカおいしかったでしょうかww?思う存分2828しちゃってくださいww
       私もかなり前から書いていたのに、途中で挫折して放置してましたw最近発掘したので少しいじってみたのですw
       
       がっくんはイケメンだと個人的においしいです。ヘタレとかも萌えますがw
       ツンなルカさん、何気に難しいですよね!でも清楚キャラもおいしいでs(((
       リンとレンも呼んでロードローラーでひねりつぶしてもらいますかww
       ルカさんを傷つけるなんて許せませんね!ルカ様=女神さまですから!!
       私の未熟な文章で涙を流してくれてありがとうございますww

       全然文才なんてないですよ!むしろゆるりーさんの小説のほうが私の心にはグッときます!!

       いえいえw長文嬉しいので大歓迎です!
       ブクマありがとうございます!

      2012/06/25 19:57:02

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