第十一話 ―君の声も―


「…」

過去にルコの身に何かあったのだろうか。
ルカはテトに話しかけてみることにした。

「ルコ君、昔何かあったんですか?」
「ええ…。ルコ自身に何かあったわけではないのですが……」

そう言ったきり、テトは黙り込んでしまった。
気まずい空気が流れる。
言ってしまってからルカは申し訳ない気持ちになってきた。

「すみません。いらぬことを聞いてしまいまして…」
「いえ、先程この店の経緯を教えて欲しいとのことでしたので…。お話しますよ」

「子どもはルコのほかに、実はもう一人子供がいたんです…」
「お子さんということは、ルコ君の兄弟ですか?」
「えぇ。『栗(リツ)』というお人形が大好きな女の子なのですが……」
「ルコ君のお姉さんですか?それとも、妹さんですか?」
「妹です。あの子達本当に仲が良くて…。見ている側はいつも癒されていました。が」
「が…?」

ルカは、恐る恐る聞き返してみた。

「あの子は私がつくった誕生日プレゼントのお人形を持って、少しお散歩してくると言ってから、帰ってこないのです…。私は相当嬉しかったのだろうと思い、あえてあの日に限って追いかけなかったのです。だけど、あんなことになるなんて……。あの子の好きなお人形が目印になれば帰ってくるかもしれないと思い、家の前にたくさんの手作りのお人形を置いていたんです。その並べたお人形がなかなか好評でして……。そのまま商売をする形となったのです」
「そういうことだったのですか…。リツちゃんの行方は未だに分かっていないのですか?」
「二年も経ちますが、未だ何も情報がありません。ルコも今は大丈夫ですが、二年前の落ち込みようは、こちらが見ていて可哀想になるほどでした」
「ちょっといいかしら」

メイコが会話に入ってきた。

「お子さんは赤毛でぱっつんの子ですか?」
「ええ。当時はそうでした」
「私がいた遊郭に、すごく幼い子が入ってきて少し話題になったんですよ。その子、誘拐されてきたのに状況をよく把握してなかったみたいで『お母さんは?』の一言ですぐバレましたよ。今は正式なところでちゃんと保護されていますから…」
「失礼なことを申しますが、元遊女でいらっしゃると…?」
「ええ…。東北の家が貧しかったものですから、15歳の時に」
「あの子が無事だったのはうれしいけど、そんなところに…」

テトが顔を曇らせた。何とも似つかぬ複雑な顔をしている。
それをルコが不安そうに見る。

「リツは…、元気ですか?」

さっきとメイコに向ける視線が違う。
親しくしようとはしているが、明らかに軽蔑している。
メイコはそれに気づいたのか、軽いため息をついた。

「ええ。とっても。最年少なのでこちらとしても良い癒しとなっていますよ。今でもお人形大好きで」
「変わらないわね」

テトがふふっと笑った。
しかし、それはどこか悲しげであった。
ミクにとって、それは少しうらやましかった。
―――自分の母親がこんな風にして自分のことを思ってくれているなんて。
母親は普通はこう思うのかな。
こうやって、遠くから自分のことを思ってくれている人――。
私は本当の母から見れば、所詮姉さんの代替え品だ。

―――母さん。

元気にしているかな?
母さんのことだから、きっと駄菓子をいつも通り売ってるんだろうな。
近所の人とおしゃべりしながら。

「ミク姉?」

レンが顔を上に向けているミクの袖を引っ張った。

「ん?ちょっと母さんのこと思い出してただけ」
「母さんのことだから、心配ないと思うよ?」
「うん」
「ミク姉」
「うん?」

改めてレンに向き直る。
大分男の子っぽくなったなあ。
――変声期は迎えていないけれど。

「やっぱ何でもない」

さっきまで必死にこちらに構ってきていたのに、なんなのか。
この時期の男の子というのは全く面倒だ。

「お買い上げありがとうございました」
「ましたー」

テトとルコが頭を下げる。

「リツちゃんを迎えに行くなら、こちらが住所になりますので」

メイコがテトに紙切れを渡した。

「ええ。引き取ってくることにします」
「またリツに会えるの?」

ルコが目を輝かせている。

「そうよ。帰ってきたら白菜の漬物でも出そうかしら」
「楽しみだなあ」
「それでは、この辺で」

ルコが大きく手を振っている。
テトはその隣に立っている。



―――いいなあ。

ミクの心からのつぶやきだった。




次回へ続きます。




ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

千本桜 ~脱走姫様~ 第十一話

ついに二桁目になりました!


千本桜
http://www.nicovideo.jp/watch/sm15630734

本家様

閲覧数:411

投稿日:2012/07/17 23:04:45

文字数:1,873文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

  • 関連動画0

  • 雪葉

    雪葉

    ご意見・ご感想

    続きが・・・続きが気になる・・・!
    リツちゃんのお人形さん好きがもう可愛くて・・・・ああああああ!(落ち着け
    次回を楽しみにしています!

    2012/08/09 23:01:13

    • june

      june

      ありがとうございますw

      もう少しで投稿できる…はずですので。
      少々お待ちくださいww

      12話は、ほのぼのしていますよw

      2012/08/10 10:47:57

  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    メイコさんの心情がすごく印象的ですね……


    テトもルコもリツも公式?では、性別が色々変なんですけどねww
    テトの性別はキメラですし、ルコも男9、女1だっけ?リツは男性ってことですし
    でも、みんなかわいいので、いいのです!!ww←

    2012/07/17 23:30:30

    • june

      june

      面倒なので見た目で決定しましたw(年齢は除く)

      メイコさんはいつも周りを、相手を思って覚悟して自分ことをそのまま話している。
      が、世間の目は変わらず、案の定テトも同じだった。
      さらに、世間を知らないような純粋な子供と比較してしまい、悲しいような、空しいような心情…

      という感じですが、伝わりましたでしょうか?

      2012/07/18 20:38:44

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